落とせ!難攻不落の姫路城!!83
「逃・・・げ・・・る!?俺・・・は・・・逃げ・・・たり・・・・しない!!!」
阿修羅は口に咥えた剣を取ると、アダムを自分の手で切り裂くために走り出した。
「たっ助かった~~~~~~~~~~~~~。いやまだだ、ぼーっとしてるとすぐに生ハムみたいにスライスされちまう」
アダムは震える脚に力を入れ階段を駆け上る。
阿修羅がアダムを追って階段を駆け上ると、アダムはライドに乗ってレールの最高到達点に達しようとする所だった。
「よう阿修羅!お前が本当に逃げたりしないっていうのなら当然乗ってくれるよな」
カンッカンッカンッカンッと音を立てながら登って行くライドの上から阿修羅を侮辱するような表情を浮かべ挑発する。
阿修羅はアダムに殺気を孕んだ目を向けると、『待っていろ。すぐに切り刻んでやる』と言わんばかりにレールを駆け上り、ライドの最後尾に飛び乗った。
「じゃあデートと行くか阿修羅。俺のエスコートは荒っぽいからよ。しっかりついてこいよ」
カンッカンッカンッ・・・
数秒の静寂の後、ライドは一気に駆け下りる。それを合図にアダムはマシンガンを連射する。
阿修羅は剣でその全てを切り裂きながら間合いを詰めてくる。
「マジかよ!この不安定な足場で剣を振りながら何で距離つめられられんだよってあ~~だから嫌なんだよ神とやんのはよ~」
阿修羅はコンクリートで畳返し決めた強靱な脚力をここでも使い、座席に足首まで突き刺しながら一席一席距離を詰めてきていたのだ。
阿修羅を仕留めようと、撃つタイミングをずらしたり、剣で対応しにくい箇所を狙ったりと工夫を重ねていたアダムだったがついにマシンガンのバレルが焼け付き使い物にならなくなった。
「クソが!」
アダムはマシンガンを投げ捨て、拳銃で阿修羅を迎え撃つ。しかし阿修羅にとって、先程までの銃弾の雨に比べれば温すぎる攻撃だ。この機を逃さんとアダムに迫っていく。
カチンッカチンッ
弾切れだ。アダムは銃からマガジンを外し、素早く新しいマガジンを入れようとする。
だがそんなスキを見逃すほど阿修羅は甘くない。
阿修羅は一気に飛びかかる。
「はい馬鹿決定!ここで跳ぶとかクックック。まあジェットコースターなんて乗ったことないだろうし、誘ったんだけどな」
阿修羅は困惑していた。さっきまで自分が上からアダムを狙っていたはずだ。それなのに今はアダムが上にいて、それだけじゃなく足下にあったライドさえも頭上にあって、自分が下にいるのだから。そう、ここはジェットコースターが一回転する場所だ。
さらにジェットコースターが進み、一回転したことで阿修羅の背後をとったアダムは背中に向けて撃ちまくる。
「ウガアアアアアアアアアァァァァァ」
阿修羅は奇声をあげながら無理矢理身体を回転させて弾丸をはじくが、流石の阿修羅も無理な体勢、さらに混乱している状況では全ての弾丸を弾く事など出来ず、左肩に被弾する。
「クッ」
意図せずライドから降りる事になり、レールの上に立つ阿修羅にライドが容赦なく突っ込んでくる。
「さあどうする阿修羅。弾丸みたいにコレも斬ってみるか」
阿修羅は左腕をダラリと下げ、右腕だけで剣を構えていたが目の前まで列車が来た瞬間、刀を素早く逆手に持ち換えた。
「ガアアアァァ」
気合いと共に刀を下から上に振りあげた。
ライドが最後尾まで真っ二つに裂けた。
「フンッまあお前ならそれぐらいやるだろうな。じゃあお疲れさん」
アダムごと裂いてやったと思った阿修羅だったが、アダムはすでに列車から飛び降りていた。
二つに分かれて自分を避けて通り過ぎていく列車がいなくなったらすぐに追いかけてやると思っていた阿修羅の目に一つの丸い玉が映った。その瞬間それは爆発した。
ジェットコースターから飛び降りたアダムは、地面に叩き付けられる途中でモトクロスバイクを創造することで着地のショックを吸収した。一方手榴弾の爆発をもろにくらった阿修羅は背中から地面に叩き付けられ、その後も何度も地面に叩き付けられることを繰り返して止まった。
アダムは下を向いて溜息をつく。
「ハーーッこれで依頼は失敗。撤退決定だ。サヤカーン絶対怒るだろうな『決戦の前に沙織さんをボコボコにするって何考えてんッスか!クビ、アダムはクビッス!それが嫌ならサヤカ所長の鞄持ちからやり直すッス』とか言いかねねえな。でも正直ギリギリだったぜ。ジェットコースターなんてよく創造出来たもんだ。アポロが『VR 世界のジェットコースター』なんてやりてえなんて言い出さなかったら、ライドをリアルに想像出来ずにあそこで消滅してたかもな。アポロに感謝だなヘヘヘッ。おっとサヤカに連絡―」
いない。
アダムは急いでスロットルを回す。
沙織から目を離していた時間などほんの数秒だ。
しかし目の前に倒れているはずの沙織がいないのだ。
幻術に掛かっている訳ではない。
その証拠に、沙織が叩き付けられた時に出来た放射状にヒビの入ったコンクリートの地面はそのままだ。アダムが風の抵抗を最小限にするためにしゃがみ込んだ直後、その数センチ上を剣が空気を切り裂きながら通過する。
「あっぶねーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
阿修羅は正面からの攻撃で、短時間の間に何度も痛い目に遭ったため、さすがに怒りに支配されている状態でも学習し、遠回りをしてサイドから攻撃した。それがアダムの命を救った。
アダムは地雷等の罠など仕掛けてなどいなかった。
一直線に向かって来られていたら逃げられず、今頃首と胴が切り離されていただろう。
サイドからの超スピード突撃に失敗した阿修羅は、両脚でコンクリートの地面を削りながらスピードを殺そうとするが、すぐには止まることが出来ず、靴のゴムがボロボロに削れた頃やっと止まった。その時にはアダムとまた大きな距離が出来ていた。
阿修羅はその距離を埋めるため、剣を上段に構え、その凄まじい斬撃速度により生じる衝撃波でアダムを仕留めようとしたが止めた。
またアダムに『逃げるのが板についてる』『俺と向き合うのがこわいのか』と言われるのが気にくわなかったからだ。
阿修羅は今度こそ仕留めると心に決め、バイクを追いかけた。