落とせ!難攻不落の姫路城!!72
姫路城の床板が生き返ったように蔓を伸ばし、鎧武者の脚に巻き付いている。
顔を上げてアポロを見ると、目の前には、情運山、三階層で大きくなったアポロよりさらに一回り大きくなったアポロがいた。
アポロが爆音とともに消える。そして天井が爆ぜるとともに鎧武者に衝撃が走る。
鎧武者は二本の刀でアポロの前脚を防御したが、脚を一本拘束されているため踏ん張りが効かず、床に叩き付けられた。
「グフッ」
「アーサー探偵団四十八の殺人奥義の一つ壁紙剥がしでしゅ」
アポロは攻撃の手を緩めず、天井を破壊しながら何度も壁紙剥がしを敢行する。
鎧武者は床にめり込んでいく。
「サオリン達を傷付ける奴はこのアポロが許さないでしゅ!」
バキバキバキッ
渾身の力を込めた壁紙剥がしを受け、鎧武者の背中の床が抜けて六階層に落ちていく。しかし勢いはそれで止まらず、六階層の床すらも突き破り、五階層に落ちていく。
「やっやったでしゅか?ハァハァハァ」
肩で息をしながらアポロは穴の中を覗く。
するとアポロの目は、暗闇の中に何か光る物を捉えた。
アポロは動物的本能で穴から顔を背ける。
直後、天井に刀が深々と刺さった。
アポロはすぐに穴から距離を取る。穴の中からオーラが弱まるどころか、さらに増大させた鎧武者の気配を感じたからだ。オーラの上限がまるで見えない・・・アポロの頭に『アーサー探偵団最大のピンチ』という言葉がよぎる。アポロが最大限警戒していると、穴の中から鎧武者が、ダメージなどないと言いたげに飛んで出てきた。
「ホッホッホッ良い攻撃じゃったぞアポロ。護るためには武力で持って相手を制する、そうしなければならない時もあるのじゃ。さて面白くなってきたの。しかし今のアポロではその姿が限界かフムフム・・・まあこれでやっと戦いらしくなるというものよ。さあお前達、かかって来い!!」
アポロが鎧武者の言葉にハッとして横を見ると、沙織、アダム、サヤカ、白百合、ウィングが並び立っていた。
「みんな、いくよ!」
沙織がかけ声を掛けると全員が頷く。
沙織は、高速で術式を唱えつつ、胸の前で目の止まらぬ速さで数十の印を組む。そして両手を鎧武者に向け術を発動する。
「全ての物の時を止め、拘束せよ 天龍縛鎖」
沙織が雪崩をも止めた天龍縛鎖を鎧武者に向けて放つ。
「天龍縛鎖じゃと!?グアッグウウウウゥゥゥゥゥ相手にとって不足なしじゃーーー!!」
鎧武者は刀を胸の前で交差して耐える。
天龍縛鎖を受け、全身を強烈に締め付けられて身動きが出来ない鎧武者に、アダムはRPGを発射し、サヤカは二丁拳銃で撃ちまくり、白百合は炎鞭で容赦なく全身を打ち据える。さらにウィングが自衛隊陰陽部隊謹製の手持ちの手榴弾を全部投げる。
天守は大爆発を起こし半壊する。
夜風が土煙を散らすと、爆発の中心にいた鎧武者が露わになる。
ガイの甲冑はボロボロで全身にかなりのダメージを負っている。
それでもガイは今も天龍縛鎖のデタラメな拘束力に抗うため、両手の刀に力を込め続けている。そして・・・
「ぐううぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおーーーー!」
バチバチバチバチバチバチバチッ
ガイが胸の前で交差していた刀を一気に振り下ろし、天龍縛鎖を強引に引き千切る。
それと同時に沙織がその反動で後ろに吹き飛ぶ。それをウィングと白百合が支える。
「ぬううぅぅ。ワシがここまでダメージを負うことになるとはの・・・お前達見事じゃ。褒めてやろう。しかし、今の攻撃で決めきれなかったのは痛いのう。天龍縛鎖も来ると分かっていればワシならいかようにも対処出来るからの」
「へっ全身ボロボロのお前が強がっても滑稽だぜ」
「ホッホッホッ強がりか。ワシにはまだお前達を仕留めるのに十分なオーラが残っておるわ」
「ヘヘヘッやっぱり強がりだぜ。お前はもう数すら数えられてねえんだからよ」
「なに?」
直後、鎧武者の頭部が床に叩き付けられる。アポロの壁紙剥がしだ。
アポロはサヤカの指示で鎧武者が爆発の煙に巻かれると同時に天高くジャンプしていた。
姫路城上空、心地よい風と夜空に輝く星々を見ていると、アポロは不思議な感覚に包まれた。まるで空が自分の友達のように感じた。
「なんでしゅかこの感覚・・・森の中にいるのと同じような感じがするでしゅよ・・・」
アポロが不思議な感覚を全身で感じながらジャンプの最高到達点に達した時、身体を180度回転し、本能的に空を蹴った。
脚はまるで地面を蹴るように空を掴み、アポロは一気に加速する。
黄色い閃光となったアポロは鎧武者目がけて突撃した。
二人は天守閣から最下層地下一階まで一気に貫いていく。
城全体が大きく揺れる。
揺れが収まるとすぐにサヤカは二人が落ちていった穴をのぞき込んで叫ぶ。
「アポロ!帰ってくるッス!」
その声を聞き、アポロが素早く帰還する。
「沙織さん!」
「了解サヤカちゃん」
アポロが鎧武者と落ちていくと同時に何十もの印を組んでいた沙織が今度は穴の中に手を伸ばす。
「王に刃向かう者共を焼き尽くせ 火龍王の咆哮!」
雪崩を一瞬で蒸発させたあの凶悪な炎の焼滅範囲を絞ることで、さらに威力をました龍の奥義を、下で押し潰されているであろう鎧武者に向けて容赦なく放つ。
大天守が大きく揺れ、一階の格子窓から行き場を失った炎が吹き出る。二階、三階と同じように炎を吹きだしながら、強烈な熱と共に駆け上ってくる。
最上階に達した後もその勢いは止まらず、空に向かって炎の柱が立ち上る。僅かに残っていた屋根も吹き飛ばし燃やす。