落とせ!難攻不落の姫路城!!59
一行は五階層に移動する。そこは四階層と違い、闇に覆われていた。
「さあ次は俺が出るぜ」
「ホッホッホッ戦ってくれるのかアダム。ありがたいのう」
「アリタンがあんなに頑張ったんだ。俺が戦わない訳にはいかねえだろ」
「さあ相手は誰だ?出て来い」
「ふむ、おかしいのう~便所でも行っておるのか?」
鎧武者も頭を傾げるなか、少し待っていると・・・
「グォォォォォォォォォーーーーー」
身の毛もよだつ咆哮がアダムにぶつけられる。そしてその声の主は床板をミシミシと鳴らしながらゆっくりと姿を現した。
「お前の相手は俺だ」
それは巨大なヒグマだった。爪は大きく、牙は鋭い、その上全身は固い体毛で覆われており、攻防兼ね備えている。
「では紹介しよう。第五階層将軍ヒグマのクマ太郎じゃ」
「へえ、ヒグマか。確かに俺には少し相性が悪い相手だな。その全身を覆う固い体毛は普通の銃弾なんか絡め取って身体にダメージが届きそうにねえ。だが」
ガシャッ
「俺の武器は銃だけじゃねえライフルもこの通り具現化出来る」
アダムは一瞬でライフルを創造し、銃弾を装填する。
「お前のそのデカい身体は俺にとっちゃ単なるデカい的だ。どうする?やるか?」
「・・・お前は俺を怖がらないんだな」
「ハッそんな訳ねえだろ。これからヒグマとやろうってのに怖くねえって奴はぶっ壊れてるだろ。平気に見えるのは怖がっている時間が勿体ねえからさ。俺はお前を最大限警戒してるんだよ。得意技は何だ?この空間で警戒すべき攻撃は何だ?ってな。それとお前の事をデカい的だと言ったが外したら俺がヤベエ」
「フン。油断してくれた方が有り難かったんだけどな。クマったな」
五階層に微妙な空気が流れる。
「ゴホンッ。・・・・クマったな」
「・・・おっおう」
「ちょっそこのコーギー。なんなん?ワイが滑るのを覚悟して、いや、絶対滑る事間違いあらへんダジャレを言うたんやで!そこはツッコんでくれなアカンやろ!ワイ、クマなんやから『クマったな』は絶対避けられへんボケやろ。ほんまこれやから京都住みの奴は性格悪いって言われるんやで。ボケたらツッコむ。これは一番大切にせなあかん礼儀やで君」
ヒグマは両腕を胸の前で組んでプンプンと怒っている。
「すっすまねえな。悪かったよ。じゃあそろそろやるか?」
「やるって何をすんねん?まさかケンカせえ言うてるんちゃうやろな?アホか!お前はアホか!誰がライフル持った奴と戦うねん。ワシ普通のクマちゃうど。精霊に進化しとるからエラいねん。それで撃たれたら一発で成仏するぐらい分かってんねん。お前それイジメやで。せやから京都住みの奴は性格悪い言われんねん」
「おっおう悪かったよ。じゃあどんな対決にする?」
「じゃあどんな対決にする?嫌いやわ~~。その何でも力で解決しようとするとこ嫌いやわ~~~。イジメって言う言い方が分からんのんか?じゃあ言い方変えたる。君それパワハラやで。桁違いのオーラを持ってる事を良いことに上から命令するやり方・・・嫌いやわ~~~せやから京都住みの―」
「ダァァァァァァァーーーーーーー!」
会話が全く進まない事にアダムがブチ切れ咆える。そして横にいる鎧武者に向き直り言う。
「おいガイ!こいつをどうにかしろ!俺達はお喋りしに来てんじゃねえんだ。お喋りの相手はお前がしてやれよ!」
「ふむ。そうじゃな。その前に・・・」
カーーーンッ
「あん?ゴングなんかまだ持って―」
「アダム!!!」
沙織達の叫び声がアダムの大きな耳が拾った瞬間、身体が飛ぶ。
ゴシャ
アダムは壁に思いっきり叩きつけられる。
「やるやん。これで終わりやと思たのにガードするやなんて思えへんかったわ」
アダムは沙織達の悲鳴を聞くやいなや、持っていたライフルを引き上げてヒグマのなぎ払いを受け止めたのだ。
「グフッテメエ・・・」
アダムは叩き付けられた壁からずり落ち、床に膝を突く。
「ホッホッホッ大丈夫かアダムよ。治療はしてやらんぞホッホッホッ」
「やかましい!引っ込んでろ!」
アダムはライフルの狙いをヒグマに定めて即撃つ。
カンッ
甲高い音を立てて向きを変えた銃弾は天井にめり込む。
「なに!?」
「せやから言うてるやん。普通のクマとちゃうて。エエやろこれ!通販で買ってん。ライフルの弾も防ぐ盾なんやて。それを鎧武者さんにオーラ攻撃にも対応出来るようにしてもろてん。人間には重すぎて使いにくいかもしれへんけど。ワイには丁度エエ重さや。クマのワイがライフルも効かんってなったら無敵やろ?そう思わへん?なあ」
ドガンッ
ヒグマは楯を持ったまま素早く走り、そのまま楯と城の壁とでアダムをサンドイッチにした。しかしそれだけにとどまらず城の壁を突き破りアダムを外に突き落とした。
ヒグマの体重は250~500キロ、走る速さは50キロを超える。しかも今戦っているのは精霊のヒグマ。身体能力は段違いだ。ただのタックル、それだけで必殺技である。
「世界遺産に見事な穴が開いたもんや。お~月が綺麗や。さて鎧武者さん、カウント頼んまっせ」
「ウム。ワン、ツー・・・」
鎧武者は城外カウント20を数え始める。