落とせ!難攻不落の姫路城!!55
沙織達は跳びはねて喜ぶ。
「なんという逆転劇!誰がこんな結末を予想したでしょうか。ボクシングの試合にも関わらず天井を利用するなど前代未聞!これがルールも知らない素人の怖さなのでしょうか?いや、ルールを知っていたとしてもこんな事をしようとするのはアリタンしかいないでしょう。まるで空襲!太平洋戦争時に被害を受けなかった姫路城でしたが、80年の時を経て東九条家の爆弾娘がここ4階層で大爆発しましたーーーー!解説のアダムさん、最後の攻撃いかがだったでしょうか?」
「まさかこんな切り返し方をするとは予想外だったぜ。さすがオッちゃんお墨付きの天才陰陽師だ。アリタンの何が凄えっていうと、残り少ないオーラをぴょん太の攻撃を受け止める左手と、威力を吸収し、攻撃に転じるための脚、そしてフィニッシュブローを撃つ右拳に見事に配分した事だ。ぴょん太のマッハパンチを避けて懐に入るだけでも至難の業なのに恐れ入ったぜ。アリタンとは是非今後ともアーサー探偵事務所と良い関係でいてえな」
「アダムがアリタンを大絶賛しています。確かにあのオーラの配分は見事でした。サヤカではとてもあのような見事な配分は出来ません。しかしそのうち全部パクってやろうと思っています。さあゲストの鎧武者さん、この試合いかがだったでしょうか?」
「うむ天晴れじゃ。二人共見事じゃった。白百合のギリギリの綱渡りとも言える戦いをものにした執念は素晴らしい。そして・・・サヤカ、クックックッお主のリングアナ良かったぞ。ワシが今度何か催す時はお主に頼もうかのう。本当に、本当に楽しかったぞサヤカホッホッホッ」
「ハハッハハハッ・・・ぜっ是非その時は声をかけて下さいッス・・・」
鎧武者から全てを見通すような目で見られて、サヤカは見逃されていたと分かり肝を冷やす。
そう、サヤカはこの試合を裏で操作したのだ。この中では白百合との付き合いが一番長く、一番アリタンの実力も知っている。白百合がオーラを抑えて戦っていることも当然知っていた。
アダムが勝負所と指摘した『2ラウンド2ダウン後』もサヤカは分かっていた。しかし2ダウン目に問題が起きた。サヤカはダウンした瞬間、10カウントで起き上がるのが不可能だと分かった。サヤカは考えた。そして出した答えが白百合を一方的に味方することと、白百合の狙っている事をバラそうとする事だった。
そうすれば勝負事に厳しいアダムはサヤカに怒り、注意する意味も込めて必ずアクションをしてくれるはずだと思って。その予想は当たり、命の危機を感じる程のオーラをアダムが放出した結果、白百合は意識を取り戻す事に成功した。
しかしこれはアダムの期待していたことだった。
そもそもアダムはあれほど鎧武者にブチ切れていたのにも関わらず、実況をサヤカにやらせ、解説を自分がすると名乗り出て、試合に協力するのは不可解だ。実はそれにはちゃんとした目的があった。
実況にサヤカを当てたのは、白百合の事を一番知るサヤカの目線で状況を確認して欲しかったのだ。そして何かあれば行動を起こすのを期待していた。そして実際に行動を起こしたサヤカの考えを瞬時に理解し、サヤカをダシに反則負けスレスレの行動を起こした。二人の台本のないぶっつけ本番のチームプレイだった。
「ぴょん太、おいぴょん太!大丈夫か?」
白百合はぴょん太の頬を優しく叩く。
すると呻き声とともにぴょん太は目を開けた。
「うっう~~ん・・・おお白百合、良いところにいた。まさかあんなパンチがあるとはな。アーサーボクシングジムに入門するにはどうしたらいいか相談しようと思っていたんだ」
「ハハハッそんなジョークが言えるなら大丈夫だな。立てるか?」
「ああ、手伝ってくれ」
「もちろんだ」
白百合はぴょん太の腕を肩に回し、ゆっくりと立ち上がらせる。
「白百合、お前はボクシング素人なんだよな。落ち着いたらしっかりボクシングを習え。この俺に勝ったんだ。他の誰かに殴り合いで負けるなんて許せねえからな」
「ハハハッお前が最初から本気で戦っていたら勝てる道理はなかったよ」
「それはお互い様だろ?俺様のパンチを軽く避けるお前が武器や術式を駆使して戦ってたらと思うとゾッとするぜ」
「軽く避けるだと?戦ってる間ずっとゾッとさせられていたぞ」
二人は声をあげて笑う。