落とせ!難攻不落の姫路城!!54
「ホッホッホッそうじゃろ。人間には尻尾がないからの」
ぴょん太は自身の身体をカンガルーの強靱な尻尾で支える事によって身体を90度後ろに反らし、白百合のパンチを躱した。
そのあと人間にはその体勢からは絶対に打てない強烈なパンチを、尻尾を支えにして白百合の真下から放ったのだ。
ぴょん太のマッハパンチをアッパーのように貰った白百合のダメージは深刻である。
「おい、リングアナのお嬢ちゃん。まさかまさかはこっちのセリフだよ。どうやったら咄嗟に左手をアゴの下に滑り込まして直撃を避けることが出来るんだよ。初見だぞ?」
ぴょん太が白百合を指しながら言う。白百合がゆっくりと立ち上がり始める。ぴょん太は『やっぱりな』という表情を浮かべる。
白百合はダメージを出来る限り抑えていた。しかしアゴに喰らったため脚が言う事を聞かず、ロープを手繰りながらゆっくりと立ち上がり始める。
「グフッ馬鹿が。ガハッゲホッ・・・ぴょん太、お前は野生生活で一番気を付けなければならない命を刈り取る瞬間に油断した。動物園生活が長かったのが災いしたな。お前の顔に気持ちの悪い笑みが浮かんでいたぞ」
「おい白百合、敵の俺が言うのも何だがもう立つな。ここからお前は逆転する術をもってるのか?俺は十分楽しませて貰ったし、観客も大いに楽しんだ。この興行は大成功だハッハッハーーーーッだから白百合、もうファイティングポーズをとるな。楽になれ」
「そういう所だよぴょん太。野生のカンガルーなら顔色を変えずに瀕死の私を踏みつけて殺しただろうさ」
白百合は審判にファイティングポーズを見せ、「いける」と応える。
その行為にぴょん太の顔から今まで張り付いていたエンターティナーとしての表情が消えた。
「分かった。だが覚悟しろ。お前にとっても、仲間にとっても残酷な未来が待っていることをな。俺はチャンスをあげたぞ。恨むんじゃねえぞ」
ぴょん太はフラフラな白百合にラッシュを仕掛ける。白百合は再びピーカブースタイルでその猛攻に耐える。
「アリタン!」
沙織がその状況にタオルを投げようと振りかぶる。
しかしその手にウィングが飛びつき投げさせないようにする。
「ウィングさんもう無理です!アリタンが死んじゃう!」
「まだです!!まだです西九条さん!!白百合はまだ諦めていません」
「諦めてないからってそれがどうしたの!外から選手の状態を見て試合を止めるのもセコンドの大事な仕事でしょ!」
「ごもっとも!でも待って下さい。アイツはあんな状態でもオーラを練っています。あいつがもう一度攻撃をして失敗したらもうタオルを投げることに反対しませんから」
「でも!」
「あいつがこの先動けなくなったら、私が一生面倒を見ますからお願いしますお願いします」
ウィングが涙を流しながら沙織に頭を下げてお願いする。しかしその態度とは逆に沙織の手を掴むウィングの指は、『絶対に投げさせない』という意思の現れであろう、骨が軋むほど強く握り込まれる。
「えっ!?えっそうなの?でっでも約束ですよ。攻撃に失敗したり、ダウンしたりしたら絶対にタオルを投げますからね」
「ありがとうございます」
二人が喋っている間もぴょん太のラッシュは続いたが、遂に白百合が動く。
1ラウンドから受け続けたためか、パンチの嵐を最小限の動きで躱しながら懐に入り、ぴょん太の顔に向けてパンチを繰り出す。
「無駄だって」
先程と同様、尻尾を支えにして身体をのけ反らせてパンチをかわし、アゴにパンチを放つ。
今度はガードされようとも白百合のアゴを砕く力が込められている。
「終わりだ白百合!」
「お前がな」
そのパンチを待っていたと言うように白百合はリングを蹴って半回転し、逆立ちの状態でぴょん太のパンチをガードする。
「なに!?」
ぴょん太のパンチにより白百合は天井まで打ち上げられる。
「ぴょん太、お前は真のエンターティナーだよ」
白百合は天井に両脚をつけ、そして脚に貯めていたオーラを爆発させながら蹴る。
天井は爆ぜ、白百合は弾丸のように加速しながらぴょん太の顔に右ストレートを叩き込んだ。
ぴょん太の顔はリングにめり込み、白百合はリングに杭が刺さったような姿で静止する。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーー!」
観客が今日一番の歓声を上げる。
ぴょん太はピクリとも動かず、審判が手を交差し試合続行不能を告げる。
白百合の勝利だ。