落とせ!難攻不落の姫路城!!51
鎧武者がゴングを鳴らす。白百合はそこから動かず、コーナを背にしながらピーカブースタイルでぴょん太を迎えうつ。
「おいおい白百合~。1ラウンドで見せた元気はどこに行ったんだ?そんな所で亀みたいになってちゃ面白くねえだろ。それともアーサーボクシングジムは判定を狙いにいくようなジムなのか?違うよな。ここに来るまでにサヤカが、アポロが、ウィングが、全員立派に勝利をもぎ取るために全力で立ち向かって行ったんだよな?それなのにハーーーーーッお前はコーナーで縮こまりやがって。それでお前は仲間に胸を張れるのか?そんな訳ねえよな?さあ白百合、お前の魂を拳に載せてぶつけに来い」
「やかましいわぴょん太!1ラウンド目は私から仕掛けてやったんだ。今度はおまえの方から来るのが筋だろうが」
白百合はぴょん太の挑発に乗らず、さらにコーナーでガードを固める。
「チッつまんねえ。白百合、俺はお前のために言ってやったんだぜ。後悔するなよ」
ぴょん太はゆっくりと白百合に近づく。
「やべえな」
「えっ?どう言う事ッスか解説のアダムさん。サヤカはこの作戦悪くないと思うッスけど」
「たしかに普通は悪手じゃねえ。でもサヤカーン、そこにぴょん太の性格を加味した上で言ってるか?」
「性格?」
「1ラウンドのアイツは本当に試合を楽しんでいるようだった。いや、実際楽しいんだろうな。正直、いつでもアリタンを倒そうと思えば倒せたはずだ。だがしなかった。その理由の一つには、アリタンともっともっと打ち合いたかったからだろう。それなのに2ラウンドではぴょん太が望まない形になった。もうアリタンに興味を失っちまったかもな。二人で何やら話をしていたが、この大歓声でまるで聞こえねえから断言出来ねえが、すぐに終わる可能性もある。何か他に目的でも無い限りな」
「でっでもアリタンは強いッスよ・・・」
「強い奴はごまんといる。チームの中でもサオリン、アポロ、俺と三人もアリタンより強い。ああ、隣のコイツもアリタンより強い」
アダムの言葉にサヤカは歯を食いしばる。サヤカにとって師匠であり、ライバルであるアリタンが負ける事など考えたくもない。
サヤカはリングを見る。アリタンなら何とかしてくれると信じて。
だが・・・
リングの上ではぴょん太がアリタンを攻撃し続けている。その一発一発が重く、当たる毎に腕にダメージが蓄積して紫色に変色していく。
白百合も状況を打破しようと打ち返すが、ぴょん太はそれを信じられないスピードのフットワークで躱す。移動範囲を90度に絞ったため、ぴょん太を見失うことはなくなった。
しかしそれと捉えられるかどうかは別の話だ。
逆にぴょん太は白百合の攻撃したことによって出来たスキにパンチをねじ込む。
白百合はアッサリと膝をリングについた。
「ッ~~~~~~。アッアリタンダウンーーーー!ぴょん太のパンチの嵐の前に膝をついた~~。ダメージは深刻かーー?アリタンは立ち上がる素振りを見せません。一方、一分以上強烈なパンチを出し続けたにも関わらず、ぴょん太は疲れも見せず観客に手を挙げて応えています。一体ぴょん太のスタミナはどうなっているのか!ここ姫路城四階層ホールはぴょん太コールに沸いています」
「分かったか白百合。自分がどれだけ愚かな事をしているのか。さあ分かったら早く立って俺と打ち合え!掛かって来いよ!」
白百合は、ぴょん太の言葉には一切反応せず、ゆっくりと立ち上がる。カウント8。
ファイティングポーズを取り、審判のチェックを受ける。
意識がしっかりとしていることを確認し、審判が試合の続行を宣言する。
「さあ、白百合打ち―」
白百合はゆっくりとコーナーに背中を預ける。
「それが答えか白百合・・・」
ぴょん太が一直線にコーナーに向かう。
そしてその勢いのまま白百合に怒りを込めてパンチを打ち込む。
「ぐっ」
ぴょん太のパンチは、既に紫色に変色している白百合の前腕部を、さらに黒い暗紫色に変化させていく。
先程と全く同じ光景が繰り広げられ、白百合は再びダウンする。
「白百合立て!お前の利用価値はもう3ラウンドで俺に派手に倒されることしかない」
冷たい視線を白百合に浴びせ、興味など一欠片も無い様子で早々と自陣のコーナーに戻っていく。
カウントが進んでいく中、沙織、アポロ、ウィングは大声で目の前で倒れている白百合に呼びかける。
もう立たなくて言い、負けてもいい、ただ無事でいて欲しいという悲痛な叫びだ。
ただ、その光景に我慢出来ない奴がいる。そう、サヤカだ。
「立たんかーーーーい!!アリタン何寝っ転がってるッスか!お前は東九条家の看板背負って戦ってるんじゃなかったんスか!そんな無様にリングで寝やがって、お前は命を捨ててでも人々を護ってきた先人達に顔向け出来るッスか!それにアリタンお前は―」
「そこまでだサヤカーン」
アダムの凍える様なオーラが辺りを包む。サヤカは横にいるのがアダムではなく、氷狼ではないのかと錯覚する程の寒気を覚える。
「ぴょん太、悪かったな。リングアナがここまで一方の肩を持つなんてあっちゃならねえことだ。それに・・・起こしちまったみたいだ」
「ハッハッハーーーーッ構わねえよ。こっちにとっても好都合だ」
白百合は意識を取り戻し、急いで身体を起こす。
ロープにグローブを引っかけ上半身の力で強引に身体を引き起こしていく。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁーーーー」
内出血により、もう黒く染まって言う通りに動かない腕を、強引に気合いで持ち上げてファイティングポーズをとる。
審判が白百合の眼を覗き込む。意識がしっかりしているか慎重に確認する。
「行けるのか白百合?」
最後に白百合の意思を確認する。
「もちろん!」
「よし、続行」