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落とせ!難攻不落の姫路城!!50

白百合は、脚が自分の意思とは関係無くガクガクと震えて思うように動かない事に苛立つ。


「チッ。この程度で動かなくなるとは修行が足らん」


「オイオイ白百合。この俺のパンチを食らって倒れねえだけで大したもんだぜ。断言するぜ、今のパンチを食らって立っていられる人間のボクサーなんていねえよ。お前は十分すぎるほど化物だ」


「ふん、女に化物などと失礼な奴だ。お前のような奴がいるから私の崇拝する沙織さんが苦労するのだ。来いぴょん太!そんな口をたたけなくしてやる」


白百合は顔からはなおもポタポタと流血しており、左目はあまり見えず、さらに脚は動かず、その上先程のボディブローのダメージで呼吸も浅く速い。それでも白百合はぴょん太を真っ直ぐ射殺すように睨みつける。


ぴょん太は自分の方が圧倒的に有利なはずなのに脚が前に進まない。野生の勘なのかぴょん太の本能が前に出ることを拒否している。


「立ってるのもやっとの状態なのに、自分で動けねえから俺に掛かって来いって・・・お前ホントの化物だわ怖え怖え。止めとくよ。仕留めたと思った時が一番危ねえからな。それにお前には始めから3ラウンドやって貰うつもりだからよ。ここで終わりだ」


ぴょん太がそう言って白百合に背中を向けると同時にカーーーンッとゴングが鳴る。1ラウンド終了の合図だ。


白百合はロープにもたれ掛かりながら自分のコーナーに戻る。


沙織が素早くイスを用意する。そのイスに白百合がドカッと倒れ込むように座る。


「ウィング!この血を止めろ!!」


「任せろ!たとえ銃創であろうとも止めてみせるさ」


ウィングは血止めに専念する。


その間に沙織がマウスピースを取り出し、うがいをさせるために白百合の口に水を含ませる。


「アリタン、アポロが持ってるこのバケツにペッてするでしゅよペッて」


アポロは、自分の身長の半分位ありそうなバケツを両手で抱えながら白百合に指示する。白百合はアポロに言われたとおり水をバケツに吐き出す。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアでしゅ~~~!アリタン、こっこれ真っ赤じゃないでしゅか!大丈夫でしゅかーー」


「大丈夫ですアポロさん。口をちょっと切っただけです。何の問題もありません」


白百合はいつもと変わらぬ笑顔でアポロに笑いかける。しかしその顔は血だらけで笑顔が逆に怖い。


「沙織さん。何か作戦はありますか?」


「えっ!?あっそうよね、セコンドだもんね。アリタンは2ラウンド目、コーナーを背負って戦った方がいいかも。ぴょん太のスピード、あれは普通の人間が捉えられるスピードを軽く超えているわ。ぴょん太が本気を出せばアリタンの背後にすら回れるかもしれない。コーナーを背負うことでぴょん太が動ける範囲を90度に絞ってその優位性を潰しましょ」


「俺もその作戦に賛成だ」


瞼の治療をしながらウィングが答える。


「わかりました。私もそれで行こうと思っていました。沙織さんが同じ考えだと分かってこんなに心強いことはありません。ウィング、お前は黙って治療しろ」


「何でだよ!お前、俺の扱い酷くねえか!」


「うるさい、もう休憩が終わるぞ!治療はまだ終わらんのか!」


「終わったよ!」


その言葉と同時にウィングは白百合の傷の上に仕上げの出血防止グリスを叩き付ける。


白百合も負けじとウィングの顔に「ご苦労」という言葉とともにパンチをねじ込み、ウィングを場外に落とす。


「セコンドアウト」


審判がインターバルの終了を告げる。

沙織が白百合の口にマウスピースを入れる。


「頑張って白百合さん!でももし危なかったならこのタオルを―」


白百合はタオルを握る沙織の手をグローブで抑える。


「沙織さん、絶対にタオルは投げないで下さい」


「でもそれじゃあ・・・」


沙織は泣きそうな顔で白百合を見る。白百合は自分の事を沙織がこんなに心配してくれることに嬉しく思うと同時に、安心して試合を見させられない自分の不甲斐なさに怒りを覚えた。


「分かりました沙織さん。ですがこのラウンドだけは我慢して下さい。3ラウンド目に沙織さんが危ないと思えばタオルを投げて貰って構いませんから。お願いします」


「セコンドアウト!聞こえないのか!!」


審判がリングから降りない沙織とアポロに怒鳴る。


「うるさいでしゅね~!ちょっとぐらい良いじゃないでしゅか!」


審判に詰め寄ろうとするアポロの首の余った肉を掴み、沙織はアポロと共にリングから出る。


「分かったアリタン!頑張って!」


沙織とアポロが突きだした拳に白百合が優しく叩く。


「では第2ラウンド始め!」


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