落とせ!難攻不落の姫路城!!49
「オオーーーッとぴょん太の右ストレートが決まったーーーー!!解説のアダムさん、アリタンほどの使い手がぴょん太を見失っていたみたいッスがどうしてッスか?」
「これは素人がボクサーとスパーリングした時によく起こるんだ。素人がパンチした時に一流のボクサーが本気で避けると素人では目で追うことが出来なくて消えたように見えるって聞いたことがあるだろ。そのトリックはこうだ。人の動体視力は上下の移動に弱い。左右に動く物を捉える力と、上下に動く物を捉える力を比較するとなんと上下運動はおよそ8割も低下するんだ。アリタンは今度こそパンチを食らわせようとぴょん太の顔に集中していた。ぴょん太はそのパンチをギリギリまで引きつけて下に避ける、ダッキングって言う技術だな、普通はぴょん太の異常なダッキングスピードそれだけで見失うがそこはアリタン、ギリギリ目で追い下に視線を移す。しかしぴょん太はその前に自慢の脚で今度は高速で横に動く。そうするとアリタンの視界にはぴょん太は何処にもいない。消えたってなる。そこをぴょん太が死角からズドンッてな訳よ」
「なるほど。これはアリタンにとっては難しい戦いになりそうッスね。まさかこれが鎧武者さんの言っていた人間に対して絶対的に優位な技なのかーーー?」
「アダム、お主物知りじゃのう~。それで白百合は避けられなかったんじゃな。勉強になる」
「違った~~~!これは一気にアリタンの勝利は遠のいたか~~~~~!この配信を見ているガラさんは笑いが止まらないことでしょう!」
サヤカのその声に反応して白百合がゆっくりと立ち上がる。そしてサヤカのスマホに向かって鬼の形相で言う。
「五十嵐!絶対お前は殺す。絶対にだ!」
東九条家で配信を見ていた五十嵐は青ざめる。
「ちょっ誰かサヤカに通信つなげ!!あの野郎絶対楽しんでやが―ちょっお前等!なに俺対白百合でオッズ組んでんだよ!」
大家は近接呪術部部長 五十嵐の普段絶対に見られない狼狽えように大いに笑う。
「白百合行けるか?」
審判が問う。
「ああ大丈夫だ」
「おう大丈夫か白百合?これで終わっちまうんじゃないかと心配したぜ」
「ぴょん太、手加減したことを後悔させてやる」
「ハッハッハーーーーッそんな震える脚で強がっても滑稽なだけだぜ!じゃあ今度は俺様から行かせて貰うぜ」
ぴょん太はその場でピョンピョンと飛び上がりステップを踏む。白百合はピーカブースタイルで攻撃に備える。
二人がお互いの機を探る。そうしている間に白百合の左瞼から血が流れる。先程のぴょん太の攻撃は直撃ではなく、僅かに顔を逸らし時に眉尻を切ってしまったためだ。その血が白百合の眼に入る。白百合が瞬きした瞬間、ぴょん太が消えた。いや死角に逃れた。白百合は急いで左を向く。
「遅い!」
ぴょん太の左ボディーブローが深く打ち込まれる。
「ゲホォ」
白百合がくの字に曲がる。さらに下がった頭にぴょん太の右フックが直撃する。
白百合はロープまで吹っ飛ぶ。そのままロープからズレ落ち、またしてもリングの上で大の字になりそうなところを、腕をロープに引っかけそれを防ぐ。しかし審判にスタンディングダウンを取られる。
「またまたアリタンダウン~~~!!ぴょん太のボディからのフックの直撃を喰らってしまった~~~!!かろうじて立ってはいるがダメージが深刻なのは一目瞭然!アリタン続行出来るのか!いや~~ぴょん太の連携見事でしたねアダムさん。しかし、以前サヤカはアリタンに目潰しをしたッスが、サヤカが発するオーラを追跡されて全く効かなかったのにどうして今回は見失ってしまったんでしょう?」
「そうだな、今の攻撃で一番見るべき箇所はそこだ。俺達が相手にしているのは誰だ?カンガルーだ。野生動物なんだよ。人間と違って生まれ落ちてから死ぬまで命のやり取りをガチでやってて、老衰なんて望めない野生動物を相手にしてんだ。サヤカーン、お前はアリタンに目潰しが効かなかったって言ったが、それはお前が気配を消せてねえからだ。目を潰したからってそれがどうした?目以上に鼻が利く、耳が利く動物なんざごまんといる。気配を消せない奴なんざ大人にもなれねえ。野動物達はそんな戦いを四六時中やっているんだよ。野生動物にとっちゃ隠れる時にオーラを極限まで小さくする、風向きを警戒するなんて基本中の基本。ただぴょん太の凄えところはそれをアリタンの間合いの中でやる度胸よ!オーラを小さくすると言う事は攻撃を食らったら大ダメージを免れねえからな」
「なっなるほど!おおっとアリタン、ファイティングポーズを取ります。続行!続行です!」