落とせ!難攻不落の姫路城!!47
リング上では白百合はシャドーをし、身体を温めている。
「両者中央」
審判が二人を呼ぶ。
「白百合さん、頑張って下さい!」
「アリタン、ファイトでしゅよ~」
「おい白百合、カンガルーなんかに負けるんじゃねえぞ。総入れ歯にしてやれ!」
白百合は振り返らず、拳を挙げて応える。
その時サヤカが沙織達の間に割って入り、リング中央に向かおうとする白百合を慌てて呼び止める。
「アリタン、この試合は東九条家に配信してるって言ったッスが、当然陰陽賭博会が動いて賭けをしてるッス。今の倍率はカンガルー1.5倍、アリタン35倍ッス。アリタンに賭けてくれているのはこのホールにいる英霊達だけッス。残念ッスけど正直東九条家の人間は誰もアリタンに賭けていないし、応援してないッス。特にガラさんはぴょん太にボーナスの残りを全部ぶち込んだらしいッス」
白百合はおでこに血管を浮かび上がらせながら戻って来て、撮影しているサヤカのスマホを覗き込む。
「良い度胸だお前達、そんなにボシングに興味があったとは知らなかったよ。金は財布に残ってるか?残っているならその金でさっさとヘッドギアを買いに行け!綿を多めにつめた特注品をな!あと五十嵐!お前とはしばらく戦っていなかったな。帰ったら勝負だ。お前のアゴの砕ける音を着信音にしてやるよ」
サヤカのスマホがチロリン、チロリン、チロリンととけたたましく鳴る。陰陽賭博界の会員がサヤカにクレームを次々と送って来ているからだ。
東九条家では陰陽賭博会の部屋で、会員および幹部がこの映像を見ていた。
当主は五十嵐が「ちょっバカ!バカバカバカ何チクってんだあいつ!あいつは、いやっ魔王は本ッッッッッッ当に余計なことしかしねえ!!それに白百合はイカれてるし最悪だ。アゴの砕ける音を着信音にするって何なの!?人間の考えることじゃねえよ」とサヤカと白百合にガチギレしているのを見て腹を抱えて笑っていた。
「待たせたなぴょん太」
「構わんよ。俺様のパンチを見てなお、ここに立ってくれるんだ。感謝してるぜ。しかし、一つお前に言っておくことがある。俺様は相手が女であろうと容赦しねえ。もし、俺様が女の顔を本気で殴らないだろうと思ってるんなら、今すぐリングから降りな」
「ほお、私も一つお前に言っておくことがある。お前が動物園の人気者だったのは知っている。だからまさか元の顔も分からないぐらいボコボコになんてされないだろうと甘い考えでいるなら今すぐリングから降りろ」
二人の間にバチバチと火花が散る。
「さあ面白くなってきましたッスね。この試合どう見ますか解説のアダムさん」
「いや~カンガルーと人間のボクシング!何度もテレビの企画とかで見たが、試合と言えるもんじゃなかった。だからと言って人語を理解することが出来る精霊となったカンガルーを相手に出来る人間なんて世界を見渡しても一握り。この一戦はまさに世界が待ちわびた戦いだ。事前に分かっていたなら有料配信で一財産稼げたのにもったいねえ。おっと話が逸れたが、この試合、アリタンが勝つにはあのマッハパンチを早いラウンドで捌けるようになるかにかかってるぜ」
「確かにあのマッハパンチは危険ッスね。では最高責任者の鎧武者さんはこの試合をどう見るッスか?」
「ふむ、あの白百合という者。面白い!ぴょん太の前に立つ資格は十分にある。だが今のままでは勝つのは難しいと言わざるをえん。ぴょん太は人間に対して絶対的優位な技を持っておるからのホッホッホッ」
「オオ~ッと鎧武者さんから気になる発言が出てきました。人間に対して絶対的優位な技とは何なのでしょうか?マッハパンチだけが脅威ではないとなると、これは白百合選手にとって厳しい試合になるかもしれないッス」
リング上では審判が二人のグローブとシューズのチェックし、簡単にルールの説明をしていた。
「二人共、審判の言う事を聞くように。もし言う事聞かない場合には割って入るからな。どうなるか分かるな?」
背中のトゲがバッと立つ。一本一本が槍の様に鋭い。一本でも刺さったら致命傷なのは間違い無い。それが山ほどある。両者黙って頷く。
「よし。試合は1ラウンド3分の3ラウンドで行う。普通のボクシングの試合と違い、クリンチを多用した時点で負けが決定するから気を付けろ。分かったか?」
両者再び頷く。
「よし。コーナーに下がって」