落とせ!難攻不落の姫路城!!46
沙織達はサヤカとアダムの役割に疑問を抱きながら準備を進める。
控え室に入ると、グローブ、シューズ、マウスピース、テーピング、バケツ、水の入った瓶、治療道具そして女子用のボクシングユニホーム等が置いてあった。ウィングとアポロが必要な道具を外に運び出した後、白百合はスーツを脱ぎ、それに着替える。
「白百合さん、ボクシング出来るんですか?」
沙織がグローブの手首部分にテーピングを巻きながら聞く。
「いえ、習った事はありません。ただボクシングを使う者とは何度も戦っておりますので大丈夫です」
「えっでも、多分あのカンガルーさん、人間の世界チャンピオンよりずっと強いと思うし、それに白百合さん、所属は遠隔呪術部だったんじゃ・・・」
「おおっ嬉しいです沙織さん。私の所属部署を覚えていてくれてたなんて。大丈夫です沙織さん、全てオーケーです。ああ、テーピングもそれぐらいで大丈夫です。ありがとうございます。それではぴょん太を倒しに行きましょう」
沙織が準備出来たことをサヤカに伝えると、城内の照明が落ちる。
「レディ~~~スア~~ンドジェントルメ~~~~ン!大変長らくお待たせしました。皆様が夢にまで見た世紀の一戦がここ姫路城四階層ホールで始まるッス。カンガルー対人間、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか~?まずは青コーナー、白百合アリサ選手の入場ッス」
ホールに大声援が木霊する。いつの間にか300人の観客が入っていた。三の丸広場で戦った英霊達と動物霊達だ。
「ちょっと待て!霊は分かる。何故英霊達が!?」
ウィングはその光景に焦る。鎧武者の正体が自衛隊の予想していた神とは違うのではと冷や汗を流す。だとしたら俺達が戦っているのは誰だと思考を巡らすが、こんな事が出来る神などウィングには思い当たらなかった。そんな事を考えていると、控え室からガウンを着た白百合が現れた。
スポットライトが一斉に浴びせられる。それと同時に入場曲として東九条家応援歌が流れる。
「人間代表として陰陽道最大派閥である東九条家総本家遠隔呪術部主任白百合アリサがリングに上がります。東九条家次期エースとの呼び声高い白百合が、習った事もないボクシングで精霊と対決します。これは暴挙か?それとも自信の現れか?白百合がどのようにしてぴょん太をねじ伏せるのか!皆様刮目してご覧下さい」
白百合は照明に目を細めたが、目が慣れたあとは普段と同じように背筋を伸ばし、自分は生粋のボクサーだと言わんばかりに威風堂堂と歩く。その背中には『西九条大将軍付 太刀持 白百合アリサ』と金の刺繍が入っている。リング上まで来るとゆっくりと深呼吸をし、ウィングが拡げたロープの間からリングインする。
「続きまして、赤コーナー、ぴょん太選手の入場です」
白百合と同様、ガウンを着たぴょん太にスポットライトが浴びせられる。そして入場曲に姫路市立動物園のテーマソングが流れる。
ぴょん太の肩には子供のカンガルーが乗っている。おそらく子供なのだろう。そのカンガルーもガウンを着ている。ぴょん太の背中には四階層将軍ぴょん太と、子供のカンガルーにはぴょん吉と赤で刺繍されている。
「姫路市立動物園の人気者ぴょん太!彼は生前からその筋肉とサービス精神旺盛の性格で観客を魅了してきました。そして今日、その筋肉が凶器に変わる!白百合?眼中にない。俺はここに観客を楽しませにやってきた。それだけだ!俺は約束する。このホールにいる全員を興奮させることを!ぴょん太のショータイム、まもなく開幕です!」
ぴょん太はリング下までくると、リングに上がる階段など使わず、一気にジャンプしてリングインする。
「両者リングインしました。この試合の審判をヤマアラシの精霊 嵐が行います。そして試合の最高責任者として鎧武者、解説はアダム、実況はこの私、サヤカが行います。なおこの試合は鎧武者のご厚意により、東九条家に配信しております。皆様、試合が始まるまで今しばらくお待ち下さい」
サヤカは深々と頭を下げ、リングを降りる。
サヤカのリングアナウンスに大きな声援が送られる。
「ホッホッホッサヤカよご苦労じゃった。やはりお主に任せて間違いなかったわい。ワシも嵐も盛り上げるのは得意じゃないからの」
「このくらいならサヤカはいつでもやるッスよ」