落とせ!難攻不落の姫路城!!45
四階層に着いた時、今までの階層と全く違っていた。
リングがある。それに天井が高い。六、七メートルはあるだろうか。その天井には沢山のライトが備え付けられており、リングを明るく照らしていた。
「何スかこれは!?」
「ガイがやったんだろ。城自体をコピーする奴だぜ?階層をちょっと広くしたりするぐらいお手の物だろ。今回の相手はアイツみたいだな」
手にグローブをはめたカンガルーが、リングの中でシャドーをしていた。
沙織達に気付いたカンガルーがこちらに向き直る。
「よう待ってたぜ。上がってこいよ」
「では四階層将軍を紹介しよう。カンガルーのぴょん太じゃ。この階層も三階層と同じく試合方法を限定させて貰う。皆も気付いているじゃろうがボクシングじゃ」
「ぴょん太だ。お前等の中で俺と殴り合う覚悟のある奴はいるかい?」
「なんだカンガルーッスか。言っちゃあ悪いッスけど三階層でアポロが戦ったシバフの方が肉食獣だし強そ―」
パンッ
サヤカの髪飾りが砕け散った。サヤカは全く動けなかった。
「言葉には気を付けるんだお嬢ちゃん。聞かなかったのか?階層を上がるごとに将軍は強くなっていくって。当然、俺はシバフより強い。動物界一のボクサーの自負がある。普通の人間には捉えられないパンチスピードに加えて全てにフィニッシュブローたる威力がある。一発当たれば気持ち良くなれるぜクククッ」
「シバフと同じく、姫路城をテリトリーに持つのは動物界一のボクサーであるぴょん太が相応しいってか。やれやれ、口だけじゃなさそうだし降参するわ」
「そう姫路城にはこの俺が相応しい―えっ!?おいちょっと待てよ降参?本気か?」
「ああ、本気だ。俺達は一敗することは認められてるからよ。ここでそれを使うわ。悪く思うなぴょん太。お前のパンチ凄かったぜ。そんじゃな」
沙織達がぞろぞろとリングを降りる。
「待ってくれよお前達。そりゃねえぜ。鎧武者様、何とかして下さいよ~」
「ふむ。そうじゃな~」
白百合が最後にリングから降りようとすると、鎧武者が語りかけてきた。
「白百合よ、本当に良いのか?」
「私より数段頭の切れるアダムさんが決めた事だ。それに私も同意見だ。精霊の土俵で戦うなど負ける可能性が高い。それならば無傷で降参したほうが良い」
「ふむ。確かにもっともじゃ。しかしお主は沙織が必ず勝つと思っておるが何故じゃ?」
「何故だと?それは強いからに決まっているだろうが」
「じゃが沙織は格下に不覚をとったことがあるのではないか?」
「貴様一体!」
「沙織は優しすぎる。その隙をつけば沙織は負けるじゃろうなあクックック。それになにより、太刀持ちともあろう者が、大将軍を護ろうとせず、戦わせようとするとは笑わせる。そんな腰抜けには用はない。リングを降りて、職も降りて、そのまま城も降りるがよい」
「馬鹿にするな!この大将軍の太刀持ち白百合アリサ。命に替えても大将軍を護る」
「アリタン口車に乗るな!」
長い耳で二人の会話を聞いていたアダムが言う。
「アダムさん、申し訳ありません。しかしここは引けません。こいつの言う通りその可能性がないとは言えない。私達東九条家は沙織さんがやられた時、何故あんな優しい沙織さんが犠牲になるんだと、何故自分じゃなかったんだと唇を噛みました。今、再び沙織さんに脅威が迫ろうとしているなら、この西九条沙織様の太刀持ち白百合アリサが叩き斬ってやる」
「うむ、その意気や良し!悪かったの白百合、お主の覚悟を疑って。では第四階層合戦はぴょん太と白百合のボクシング対決で決まりじゃ」
「ガイてめえ!」
アダムがガイの胸ぐらを掴んで抗議する。
「ホッホッホッ何を怒っておるアダム。ワシは親切心から忠告してあげただけじゃ」
「お前は優しいアリタンを利用したんだ!」
「それがどうした?お主等のためでもある。アダムよ、お主はおそらく次の階層で戦うつもりだと思うが、勝てると思ってるのか?」
「何だと!?」
「フフフッサバンナの猛獣も舐められたもんじゃなお主等の快進撃もここまでよ。ここから三連敗もありえるぞ」
「ほお~面白えじゃねえか。殺しちまっても文句を言うなよ!お前が強いと言ったんだからよ」
「おお怖い怖い。楽しみにしておるぞ」
アダムは鎧武者の胸をドンッと押しながら手を離す。
「必要な物は角のカーテンで仕切った控え室に用意しておるからの」
鎧武者はアダムと対照的に楽しそうに笑う。
「みんな、準備しろ。アリタンがやる」
「どう言う事なのアダム。私のせいなの?」
「違う!アリタンはアリタンの役目を果たすだけだ」
「そうです沙織さん。アイツが弱そうだからここで勝ち星を稼いでおこうというだけです」
「でも・・・」
「サオリン決まったんだ。アリタンのセコンドにつけ」
「えっセコンドって何するの?」
「まず必ず戦って帰って来たらうがいをさせろ。水分補給も少しだけ。それと試合を見てぴょん太を倒すためにサオリンならどうするか、いやそれじゃあダメだ。あくまでアリタンなら出来るだろう事をアドバイスしてやれ」
「うん、分かった」
「ウィングはカットマンをお願い出来るか?」
「まかせて下さい。大流血して帰ってきても血を止めてみせますよ」
「アポロはサオリンのお手伝いだ。バケツが控え室にあるだろうから、お前はアリタンがうがいをした水をそれで受け止めろ」
「了解でしゅ!」
「アダムアダム、サヤカは何をすればいいッスか?」
「お前は俺の横で。実況をしろ」
「実況ッスか?よく分かんないスけど分かったッス。それでアダムは何するッスか?」
「決まってるだろ?解説だ」