落とせ!難攻不落の姫路城!!42
三階層の床には白い線が何本もひかれていた。
「うわ~なんでしゅかコレ!線がひいてありましゅよアダム~」
「これはトラックっていってな。駆けっこするときに使うものだぜ」
「じゃあ次は駆けっこなんでしゅね!でましゅ!次アポロでましゅ!」
駆けっこと聞いて眼をキラキラさせるアポロ。
「おいちょっと待てアポロ。相手をまず見ないとだな」
アダムとアポロが騒いでいると目の前にフッと現れる者がいた。
「紹介しよう。此奴が三階層守護者チーターの精霊シバフじゃ」
「皆さんごきげんよう。僕が―」
シバフが自己紹介していると三人が走ってきた。
「大将軍!太刀持ちを置いて移動する暴挙はおやめください!」
「すいません皆さん。ついつい熱くなっちまって」
「全くサヤカは殴られ損ッスよ」
「みんな失礼だよ。三階層将軍が私達に挨拶してくれてるのに」
三人はシバフを見て、一斉に頭を下げる。
「「「すいませんでした」」」
「ハハハッいいさ。全く気にしてないよ。さて続きだ。僕が三階層将軍サバンナの稲妻シバフさ。ヨロシク」
優雅に沙織達に頭を下げる。
それに応えるように沙織達も頭を下げる。
「さて皆さんに申し訳ないが、ここで僕とスピード勝負をして貰うよ。簡単に言えば駆けっこさ」
「フッフッフッアダム、どうやらシバフもアポロと戦うことを望んでいるみたいでしゅよ」
「アポロお前はちょっと黙ってろ。待てシバフ。なんで俺達が現世で陸上最速の動物チーターの精霊のお前とスピード勝負しなくちゃならねえんだよ。そっちが有利すぎて話にならねえわ。お断りだ」
「そうですよねえ~僕もそう思うのですよ。しかし鎧武者様から、対戦相手に私より速い者がいるなどと聞き捨てならないことを耳にしたものでね~。サバンナの稲妻を名乗る僕としては私が№1ということをハッキリさせておきたいのですよ。ちなみに鎧武者さま、この私より速い者とは一体誰なんでしょうか?」
「ホッホッホッ決まっておるではないか。のうアポロ」
鎧武者は駆けっこをしたくてウズウズしているアポロに満面の笑顔を向ける。
「アダム、ガイは分かってましゅ。このアポロが最速だと見抜かれましゅた!」
「アポロお前はちょっと黙ってろ。おい鎧武者、お前が余計な事を言ったせいで変なことになってんじゃねえか。俺は認めねえ。普通に勝負するぞ」
「ふむ、たしかにワシは余計なことを言ったかもしれんなあ。しかしアダムよ、サヤカが言っておったではないか『お前等のテリトリーを全部サヤカ達が奪ってやるッスよ』と。本人を目の前に言うのも申し訳ないが、シバフは姫路城を守護する将軍の中でも強い部類にすら入っておらん。では何故他に己より強い者がいるのにも関わらず、姫路城は己のテリトリーだと主張するのだ?」
「・・・チッ最速だからか」
「そうだよアダム。姫路城をテリトリーに持つのはこの陸上最速の動物であるシバフが相応しいと心の底から思っているからさ。まあタカシも銀次も各々自分の思想でそう思っているがね。私のテリトリーを奪おうとするなら駆けっこで勝つしかないよ」
「いや、確かにサヤカがそう言ったが―」
アダムが鎧武者達に反論しようとすると白百合がアダムの肩を叩く。
「アダムさん、これはチャンスなのではないですか?」
「なに?」
「考えたのですがアポロさんはスタートダッシュがお世辞にも上手いとは言えません。駆けっこという平和的な勝負で出した方がいいと私は思います」
「アリタン!アポロはスタート上手いでしゅよ!」
「ちょっと黙ってろアポロ。アリタンはそういう意味で言ってるんじゃねえんだよ」
「私もアリタンと同じ意見よアダム。いきなり即死攻撃をしかけてくるような危ない相手とアポロを戦わすのは・・・」
「う~ん確かに。今までウィングとサヤカーンが頑張ってくれたおかげで一敗は出来る。だがこの後の勝負は全て勝たなければいけなくなる。サオリンの勝ちは確実として、俺達も負けられない。それで良いのかアリタン」
「気をつかわせてすみませんアダムさん。沙織さんと同じくアダムさんも確実に勝利するでしょう。問題は私ですね。私は苦戦するでしょうが必ず勝ってみせます。なのでここは負けても最後にガイと戦うならば、覚醒すれば強力な戦力であるアポロさんが無傷で勝負を終えることが重要かと」
「もうアリタン!アポロは負けないでしゅよ~」
「あっそっそうですよね。ごめんなさいアポロさん」
プンスカと怒るアポロを抱っこして慰める白百合。
「うん。俺はアリタンの意見に賛成だが、みんなはどうだ?」
「私も賛成よ」
「俺も賛成です。全部勝つ必要なんてないですからね。ここは戦略的撤退で」
「軍師のサヤカを差し置いて全く、アリタンに言いたい事全部言われたッス」
「そうか分かった。おいアポロ、良かったな!駆けっこ出来るぞ!」
「やったでしゅ~アポロ絶対勝つでしゅよ。アーサー探偵事務所に敗北の二文字はないでしゅ」
「良かったですねアポロさん。私も必死に応援しますので頑張ってください」
「ありがとうでしゅアリタン♪」
アポロは喉を鳴らしてご機嫌だ。
「アポロに決まったようじゃの。それではスタートラインに立つのじゃアポロ。勝負はトラック10周じゃ。皆もわかったの」
「数はサヤカ達が数えるッスから、アポロは何も考えず全力で走るッスよ!」
「わかりましゅた!」
アポロはトテトテとスタートラインまで走って行く。