落とせ!難攻不落の姫路城!!40
「サヤカ!お前に昭和の野球ファン全員が度肝を抜かれた魔球をみせたるわ。打てるもんなら打ってみい!」
不規則に変化する銀次の動きにサヤカは対応出来ず、バットは空を切る。
「ガハハハハハッそれが令和の最新最強か?笑かしてくれるでホンマ!お前は陰陽師よりお笑いの道に進んだ方がエエん違うか?」
悔しそうに膝を地面につけるサヤカを見ながら銀次はゆっくり床にワンバウンドする。
「おっと、ショータイムはこれからだぜ」
「はっ!?何でや?」
銀次が声のする方を見ると、後ろにいるはずのサヤカが構えていた。
「アーサー探偵団48の殺人奥義の一つフライボール革命二刀流バージョンだ!」
バッターボックスの後方ギリギリにいた喪ヤカが、思いっきり銀次の顔をぶっ叩く!
銀次は天井にぶつかるが、それでも衝撃を殺せず次は壁に頭からぶつかり、床にボトッと落ちる。
「アッアホな・・・いっいや・・・今は逃げ―」
「クックックッそうはイカの金玉ッス!」
サヤカは床に潜ろうとした銀次の脚を掴んで吊り上げる。
「どうッスか?令和の最新最強二刀流を楽しんで貰えたッスか?」
「アホかおどれ!二刀流はそうちゃうやろが!!っていうかアイツ誰や!」
「ああ、あれはサヤカの分身喪ヤカっす。そんなに怒ってるとこ見るとサヤカは何か間違えたッスか?サヤカは野球をあんまり見ないから二刀流ってこうかなって思ってやっただけッスけど」
「ドアホが!世界中探してもこんな打ち方する奴お前しかおらんわ!ホンマ令和を生きてる奴は常識を知らんというか―」
「ハイハイストップ!サヤカは説教を聞く気はないッスよ。それで勝負は続けるッスか?」
「当たり前じゃアホ!ワイが降参してたまるかボケ!」
「そうッスか~困ったッスね~」
「おいおいサヤカそれは俺も困るぜ。久々に現世に出てきたんだ。もうお役御免さよならじゃあんまりだぜ」
「そんな事言われても・・・じゃあ喪ヤカ何かしたいことでもあるッスか?」
「もちろん野球だろ!俺はもっと打ちてぇんだよ」
「ボールはどうするッスか?」
「お前持ってんじゃねえか」
サヤカと喪ヤカから同時に見られて銀次は喉をゴクリと鳴らす。
「こいつに沙織の呪符をグルグルに巻いてよ、床に潜れねえようにするんだよ。そうしたらノックができるだろ?」
「しょうが無いッスね喪ヤカは。じゃあやるッスか」
「ギバーーーーーーーーーーップ!!降参!降参や!ワイ降参するから勘弁してくれ」
「やったーーーーー!勝ったッス!」
サヤカは喪ヤカに飛びついて喜ぶ。
「おいやめろ!抱きつくな!」
「見事だサヤカーン。二球目後の会話で銀次にお色気路線が通じないって分かったら、今度は熱い野球マンガ路線にシフトして、ワンバウンドする可能性のある決め球、ナックルかフォークを選択させる可能性を高めたな。最後まで勝負を諦めず相手をコントロールしようとした軍師らしい勝利だ」
「そうだったんだ!すごいねサヤカちゃん。でも熱血野球マンガだったらど真ん中ストレートを私だったら意識しちゃうけど・・・」
「たしかにそうッス。でもその可能性は二球目で潰したんスよ。銀ちゃんはサヤカがストライクゾーンじゃないって言ったから曲がったって言ったッスけど、本当は焦ってたんだと思うんス。あのまま曲がらずに行けばバットに当たってたッスからね。じゃあ三球目ッス。沙織さん、バットで殴られると分かっててど真ん中に飛び込んで行けるッスか?」
「いや・・・」
「そうッス無理ッス。かといって今度は変化系も合わせられる可能性があると銀ちゃんは思ったッスよ。だとしたら残るは落下系しかないッスよね。昭和と言えばアダムの言う通りフォークかナックルッス。この二択で悩んでたッスが、銀ちゃんは本当にお調子者ッスね。魔球って言っちゃうんスもん。ナックルで決まりッス。まあどちらにしてもバウンドするんスが、ナックルだったら不規則な落ち方だから万が一空振りする可能性があるッス。だから喪ヤカに落下方向をじっくりと見極めて銀ちゃんをぶっ叩けって言ったッスよ。良くやったッス喪ヤカ」
サヤカは喪ヤカの頭をナデナデする。
「やめろサヤカ!頭を触んじゃねえよ!」
二人はギャーギャーと言い合いを続けている。
「うむ、さすがサヤカーンでしゅ!やっぱりアーサー探偵事務所に敗北の二文字はないでしゅ」
「ふんっ、良くやった。しかし忘れるな。正攻法では全く歯が立たなかったことをな。帰ったらまた一から修行のやり直しだ」
「さすがクリスマスウォーの首謀者サヤカだな。なんちゅう勝ち方するんだよ」