落とせ!難攻不落の姫路城!!33
「一番手は俺だ。それで俺の相手はどこにいるんだ?」
「ホッホッホッ一番手はウィングか。すぐ呼ぶから待っておれ」
鎧武者は指笛を鳴らす。
城外にまで響き渡るその音を聞き、沙織達が入って来た入り口から何かが入ってくる。
それは沙織達の横をすり抜け、鎧武者の前で止まる。
「紹介するぞ。これが姫路城テリトリー争奪合戦第一階層将軍 オオタカのタカシ君じゃ」
「やっ!僕が第一階層将軍タカシだよ。みんな宜しくね」
「宜しくね沙織よ」
「おうアダムだヨロシク!」
「アポロでしゅよ~!」
「サヤカッス!ヨロシク」
「白百合です。宜しくお願いします」
「俺が対戦相手のウィングだ。将軍様と露払いじゃ釣り合いが取れないかもしれないがヨロシクな」
タカシは陽気に沙織達に挨拶すると、鎧武者の腕に止まる。
「さて、それでは始めるとするか。もう駄目じゃと思ったら降参せよ。それでは姫路城テリトリー争奪合戦 第一合戦開始じゃ!」
鎧武者はそれと同時に用意していた太鼓をならす。
「行くんだよ!」
タカシは一直線にウィングに向かっていく。
ウィングは至近距離の鳥相手に銃は不利だと判断し、ナイフを抜く。
タカシはカワイイ言葉使いからは想像出来ないほど凶悪な爪をウィングに向ける。
ウィングはそれをナイフで受け止める。
「やるね~」
「お前もな。負けたらボロカスに文句を言われるのが分かってるからよ。負けられんのよ」
「ヘヘッ僕と同じだね。僕も鳥代表で出てるから簡単に負けちゃ何言われるか分かんないの」
「お互い大変だな」
「そうだね♪じゃあ行くよ」
タカシはナイフをギュッと掴むとそれを軸にしてウィングの脳天に嘴を突き刺そうとする。
ウィングはそれを右手でガードする。
「へ~良く反応出来たね。それに僕の嘴が刺さらないなんてスゴイなあ~」
「ヘヘッこれは呪術グローブと言ってな。刃物などの攻撃を通さない防刃グローブに呪術的防御も上乗せしたものさ。だから精霊の攻撃と言ってもこの程度じゃ通さんよ」
「うん、分かった。じゃあ次行くよ」
タカシは素早くさっき自分の嘴を防御した手首を掴んで羽ばたくと、ウィングを軽々と持ち上げる。
「グッ離せ」
呪術グローブの上から掴まれているとは言え、このグローブはタカシの人を軽く凌駕する握力には無意味だ。あくまで防刃および呪術的攻撃に効果を発揮するのであって単純な握力には効果がない。
「アハハハッじゃあ行っくよ~~」
タカシはウィングを掴んだまま城内を高速飛行する。もちろん途中にある柱や壁に思いっきりウィングをぶつけながら飛ぶ。
ウィングはタカシが自分をぶつけようとしている壁や柱を予測して防御しようとするが、ぶつかる直前に急激な方向転換や上下移動するため上手くいかない。
「グホッ」
柱に思いっきり腹を打ち付けたウィングが胃液を吐き出す。
「ウィング大丈夫?」
タカシはウィングを床に投げ捨てる。
「どう?降参する?したほうがいいよ♪」
「ゴホッありがとうなタカシ。お前は本当に優しい良い奴だよ。お前は大切に育てられたんだな」
「うん。飼育員の人すっごい優しかったの。だから人間をあんまり傷付けたくないの」
「そうか・・・これは俺の失敗だ」
「失敗?降参じゃなくて?」
「ああ、失敗だ。この第一階層の試合、俺ではなくサヤカが出るべきだった」
「どう言う事ウィング?」
「タカシ・・・降参してくれねえか?心優しいお前を痛め付けたくねえんだ」
「なんだよそれ。負けそうになってるからってそんなハッタリ―」
広間に爆発音が響く。
「呪符クレイモア。鳥の精霊のタカシは知らねえと思うし関係ねえと思うが世の中には地雷ってのがあるんだ。今爆発したのは指向性対人地雷クレイモアっていうやつを呪符に落とし込んだ物だ。簡単に言うと小さな数百発の鉄球に見立てたオーラの弾が俺の意思一つで飛んで行くんだ。タカシ、俺はそれをお前に掴まれて飛んでいる間、部屋中に貼り回った。お前が今いるその場所も危険だ。だから降参してくれ」
タカシは部屋に張ってあるという呪符を探す。
「無駄だタカシ、見えねえさ。そもそも地雷ってのは見えてちゃ意味がねえんだ。クレイモアは地面にこそ埋まってねえ地雷だが、実際の軍隊が使用するときも草なんかで見えねえように隠すんだ。当然この呪符にもカメレオンのように周囲の物と同化する術を仕込んでいる」
「ハッ、ハッタリなんだよ!」
「タカシ頼む。諦めてくれねえか?」
「諦めるなんてそんな訳にはいかないんだよ!僕は代表なんだよウィング。広場でもみんな一生懸命戦ってたんだよ。僕はずっとそれを見てたんだよ。僕が無傷なんてそんな訳いかないんだよ!」
タカシは己を鼓舞するように叫ぶと、冷静さを失ったままウィングに突っ込んでくる。
「そうか・・・」
タカシの上で爆発音がする。
タカシの眼に小さな粒が自分に向かってくるのを捉えた。嘘じゃなかった。タカシは、自分は消滅するだろうと覚悟し目を瞑った。タカシの身体に衝撃が走る。
その時、自分が死んだときの事を思い出した。
衰弱して弱っている自分を毛布に包み、『大丈夫かタカシ、痛くないかグスッずっと一緒にいてやるからな』と励ましてくれた飼育員達の事を思い出した。
「なんでこんな事思い出してるんだろう・・・あれ?あんまり痛くないんだよ。どうしたんだよ?」
タカシはそっと眼を開ける。
そこには自分を抱きしめ、代わりに鉄球を背中で受け止めているウィングがいた。
「大丈夫かタカシ、痛くないか?・・・」
「ウィング~~~~~~!!!!!」
タカシは慌ててウィングから離れ、背中を見る。
背中には夥しい数の穴から血が出ていた。
「大丈夫ウィング!ちっ血だらけだよ!」
「今日は動きの速い動物達とやり合うってんで、クソ重い防弾防霊チョッキ着てこなかったからなあ。でも心配すんなタカシ。血が出て痛そうに見えるが、俺はそこまで符にオーラを込めていなかったから骨や内臓には届いてない。それよりタカシ、勝負続けるか?」
「もうウィングのイジワル~!僕の負けでいいよ。ウィングの勝ちなんだよ!」
タカシの降参を聞き、鎧武者が太鼓を鳴らす。
「姫路城テリトリー争奪合戦 第一合戦はウィングの勝利じゃ!」