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ドランクタイガー ①

お昼ご飯を食べ終え、へそ天で日課となっているお昼寝をしていたアポロは、ふと目を覚ました。


アポロは喉の渇きを覚えたので、ジュースを飲もうと冷蔵庫を開ける。普段なら沙織がいつも入れてくれるジュースを飲むのだが、アポロの目に気になっていたジュースが目に入った。


それは夜中に沙織が美味しそうに飲んでいるジュースだ。沙織が余りにも美味しそうに飲むので、アポロは何度も沙織に飲みたいとねだったが、沙織は絶対に飲ませてくれなかった。


その事をアポロはいつも不満に思っていたのだ。アポロは沙織とアダムをチラッと見る。どうやら二人は、沙織の車について話している最中で、しかも都合の良いことにアポロに背を向けていた。今なら二人にバレずにこのジュースを飲む事ができる。沙織には悪いと思ったが、アポロはまだまだ子供、好奇心には勝てなかった。


「サオリン、ごめんでしゅ。ちょっとだけ、ちょっとだけでしゅから許してほしいでしゅ・・・グビッグビッグビッ・・・・・・・ヒック・・・ヒック・・・ヒッ・・・」


アポロは視界がぼやけ、グルグルと回るような感覚に襲われる。


「あれっ?どうしたでしゅか?おかしいでしゅ・・・」


アポロはまともに歩けず、少し歩くとぺたんと尻餅をついたり、コロンとこけたりしてしまう。アポロは沙織の言うことを聞かなかったバチが当たったと思った。だから正直に沙織が飲んじゃいけないと言ってたジュースを飲んでしまった事を謝ろうと、フラフラとよろけながら沙織の方に向かう。しかし、やっぱり真っ直ぐに進む事が出来ず、肩から壁にぶつかってしまう。


「何するでしゅか!痛いじゃないでしゅか。この密林の王者に肩パンするなんて前代未聞でしゅ!どこにいるでしゅか!隠れてないで出てくるでしゅ!・・・・・・ムゥ~~出て来ないつもりでしゅか・・・そっちが隠れて出て来ないつもりならアポロも隠れてやるでしゅよ!アポロのスキル『かくれんぼ』をとくと見るでしゅ!」


沙織とアダムは、後ろでギャーギャー騒いでいるアポロに気付き振り返る。


「何してんだアイツ?誰かいるのか?サオリンは何か感じるか?」


「ううん全然。どうしたんだろうね?ねえアポロどうしたの?」


二人の声などまるで聞こえずアポロはスキルを発動する。


「どうでしゅか!これでもまだ肩パン出来ましゅか?フフッごめんでしゅ。意地悪な事いいましゅたね。もうアポロの姿を見失ってましゅのに」


二人は壁に向けてカッコつけているアポロの姿に吹き出してしまう。


「ヒーッヒッヒッヒ、モヒカンなんてカッコイイじゃねえかアポロ!パンクバンドでも始めんのかヒャヒャヒャヒャ・・・」


「ブホッ!草が頭から尻尾までハハハハッ何かそんな恐竜見た事ある。でも何で部屋で草?めっちゃ目立つんだけど!ハハハハハハ駄目、駄目よアポロ、私をこれ以上笑わさないで。笑い死ぬプププッブホッハハハハハハッ・・・」


アポロは耳を澄ませて声のする方、それは沙織とアダムの笑い声なのだが、今のアポロはそれすら分からず、とりあえず聞こえてくる声に向けて「そこでしゅ!」と殴りかかる。本人は方向を間違っていないつもりだが、実際は明後日の方向に殴りかかっている。そう、壁に向かって。


ビリビリビリビリ。


「キャアアアアアアアーーー」


沙織の上げる笑い声が悲鳴に変わる。


「フフフッ効いたようでしゅね!」


沙織は脚に渾身の力を込め、アポロ目がけて矢のように飛び、背後から抱きしめるようにして捕まえる。


「きっ効いたよアポロ!私の財布に会心の一撃だよ!殺人拳だよ。確かにこれ以上は笑い死ぬから止めてって言ったけど、今度は経済的に殺しにくるなんて駄目じゃない!」


アポロはまだ幻を見てるのか、アターッ、トウーッと言って手足をバタバタさせて攻撃してるようだ。


「アポロ!ダメ!」


沙織はアポロを自分の方に向き直し、強めに叱った。その一言で少し酔いが醒めたのか、アポロは耳をパタンと後ろに倒し、沙織を見つめる。


「アポロ!この部屋は賃貸なんだよ。綺麗にしてかえさなきゃならないの。傷付けちゃ駄目なの!って言うかどうしたの?さっきから変だよアポロ」


「サオリンごめんでしゅ!アポロはサオリンが美味しそうに飲むジュースを飲んだでしゅ。そしたら目が回るでしゅ~~~」


「お酒飲んじゃったの!あれは私用の特別なお酒なのよ!大丈夫?目が回るだけ?」


沙織はすぐにアポロをクッションの上に寝かせる。


「アポロは大丈夫でしゅ。でもお部屋を傷付けてしまってごめんでしゅ。アポロはどうしたらいいでしゅか?」


「どうしようっていっても・・・とりあえず今はゆっくり横になりなさい」


沙織は傷ついた壁紙をみながら途方に暮れる。そこへ沙織のスマホで何かを検索していたアダムがスマホを差し出し言う。


「ヘイ!ヘイ!ヘイ!お二人さん。俺が良い情報を教えてやんよ。コレを見ろ!虎の子供が闇で、300万で取引されてるぜ!300万ありゃもっと良い部屋に―」


グチャッ。


沙織はアダムの顔を躊躇なく壁に叩きつけた。顔を叩き付けた周りが赤色に染まる。


「もう!アダムのせいでさらに壁が汚れたじゃない。」


「・・・こっこのアマ・・いつか絶対仕返ししてやる」


「え~それは恐いなー。じゃあその前に売ろっかな。えっとスパイコーギーのオークションサイトはっと・・・」


沙織はアダムが開いていたサイトの検索欄に、スパイコーギーとタイプする。


「ちょっ!ちょっと待ってくれよ冗談じゃねぇか。ヘヘッほっ本当サオリンは俺に似て冗談がキツいぜ・・・」


アダムは強引に笑顔を作り沙織に笑いかけるが、沙織はゴミでも見るかのような目でアダムを見ている。アダムは明日には売却済みとして、段ボールに詰められる場面を想像して身震いする。


「わかった。わかったよサオリン。壁を直すの手伝うから機嫌直せよ。でも直すと言っても・・・血と引っ掻き傷か・・・めんどうだな」


「アダムありがとう!さっきはゴメンね。イライラしてた時に、アダムが家族を売るなんて言うから一瞬キレちゃって・・・やり過ぎちゃった。ごめんなさ・・・うん?ちょっと待って・・・あれ?これって前と同じでケチャップじゃないの?アダムは精霊だから体に血は流れてないよね?これ本物の血みたいに見えるけど?」


「血糊だよサオリン。殴られた時に致命傷を受けたように敵に見せるために常に用意してるんだ。サオリンの言う通り、俺達に血は流れてないから、こんな風に血をぶちまけるって事はないが、生前の記憶を引きずっている若い霊や、知性の低い霊なんかは、これですぐ騙されるんだ。スパイの基本だぜ。あとこれは、ケチャップよりサラサラしてて、繊維に染みこむから落としにくいぜ。今日は奮発していつもより多くぶちまけたぜ」


「この馬鹿コギ!」


アダムの顔にサオリンの拳が容赦なく突き刺さる。アダムは口から精霊にとっての血であるオーラを垂れ流しながら、床でぐったりする。沙織はそんなアダムを放置し、お酒を飲んで具合が悪そうなアポロの様子が気になったので、クッションに視線を移す。するとさっきまで開けていた目を閉じていて、顔色も明らかに悪くなっていた。


「 ‼ ねぇアダム大変!アポロがぐったりしてる。なんとかして!」


「いや、見て分かんね?俺もぐったりして・・・」


沙織は目をうるうるさせてアダムを見ている。


「お前本当に卑怯だよな。まぁ紳士として言われなくてもやるよ」


「アダムありがとうー‼」


アダムはアポロに水を飲ませ、その後自分のオーラを分け与えることによってアポロの弱々しくなったオーラを活性化させる。サオリンにもアポロの顔色が良くなってきたのがわかる。


「アダム凄いね。こんなことも出来るんだ」


「俺はスパイだぜ。この程度の事なんて何でもねぇよ」


言葉とは裏腹に短いしっぽをブンブン振っている。しばらくするとアポロが目を覚ます。


「よぉアポロ、大丈夫か。俺達が分かるか?」


「わかりましゅ。アダムとサオリンでしゅ。サオリンは何で泣いてるの?いつもみたいに可愛く笑って欲しいでしゅ」


「サオリンが可愛い?クッまだ危険な状況を脱しきれていないようだ。頑張れアポロ!」


バキッ。サオリンから拳骨をお見舞いされる。


「痛ぇな冗談だろ!この緊張した空気を和らげようとしてだな」


「だから手加減してあげてるじゃない。本当ならアンタの頭蓋骨を柔らげてるところよ」


二人はギャーギャー騒ぎながらも治療を続け、アポロの顔色は更に良くなっていき回復した。


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