落とせ!難攻不落の姫路城!!29
「ちょっとアダム、早くサヤカに教えて欲しいッス」
「ああワリィワリィ。アイツはよ。何も姫路城が欲しいとかそういう理由で占拠している訳じゃなかったんだよ。動物達は各々檻から見える美しい姫路城をテリトリーにしていたが、移転が決まって、戦わずに自分の縄張りを手放さなければならなかった。そんな動物霊達の悔しさを昇華してあげるためにガイは姫路城を占拠したんだ」
「あの・・・アダム申し訳ないッスけど、それだと数が合わなくないッスか?この三の丸広場にいた霊は数千ッスよ。それに動物園が移転しても動物霊達はここにいたら良くないッスか?今まで問題が起きていないんだし、祓う必要もないッスよ。ていうかそもそも地縛霊ッスよね?移動なんか出来る訳ないッス」
「まず数の話だが俺も不思議に思ってた。この事件の発端は動物園の移転が原因だ。だからサヤカーンの言う通り、俺も動物園関係の霊が数十頭暴れているんだろうって思ってたらこの有様よ。でも俺はピンと来た。姫路城の歴史を調べるついでに俺は周辺の地理も調べてたからよ。そしたら近くに霊園があるのを思い出した。姫路城の北西に広大な霊園 名古山霊園っていうのがあってな、そこにはあの人間国宝の落語家 桂米朝の墓があるってことで落語に関わるものの間じゃ結構有名な霊園らしい。アイツはそこからも集めてきたんだ。名古山霊園は動物の火葬も請け負ってるから数千匹はいるだろうな」
「なるほどッス。勉強になるッス。アダムがそこまで調べてたなんて・・・。じゃあ数の問題はひとまずそれでいいッス。でもサヤカの二つ目の質問はどうなんス?なんでそのままいたら良いだけなのに、動物園が移転することで暴れることになったんスか?」
「そう、それも難しい話だ。一般的に殺されたことで強い怨みを持ったり、何か強い執着があるとその場所に縛られる霊のことを地縛霊という。地縛霊は建物を壊そうがその土地に縛られてるから移動することはない。だから新しく建てられた建物にも現れて霊によっては問題を起こす場合がある。東九条家はそんな案件を山ほど請け負っているだろう。そしてこの事がサヤカーンの勘違いの原因だ」
「勘違い?サヤカが地縛霊の定義を間違ったスか?いやでもそんなはず・・・」
「サヤカーン、お前は人間が霊について全て理解してるとでも思ってんのか?そんな訳ねえよな。そもそもこの案件はレアだ。俺でさえアダムのヒントが無ければ分からなかったんだぜ。お前を教えてる教師が誰なのか知らねえが知っている可能性はかなり低い。知っててもまだ勉強を始めたばかりのお前に教えるとも限らねえ」
「じゃあ何スか?教えて下さいッス」
サヤカはアダムの肩をつかみユッサユッサと揺らす。
「こっこら落ち着けサヤカーン」
「サヤカちゃん落ち着いて!ね!」
沙織がサヤカをアダムから引き離す。
「ふーっ、おいサヤカーン焦るな。そういう所だぞお前の駄目な所は。お前は人間が実験や、経験則から得た法則を用いて答えをだすのは得意だ。だが霊に関してはそうはいかねえ。俺すらも分からねえ事だらけだ。神様なんか特にメチャクチャだ。だから理解出来なくても焦るな。それが当たり前だ。色んな奴の言う事に耳を傾け、取捨選択し推理するんだ。取りあえず今は静かに聞け」
「はい・・・分かったッス」
サヤカは落ち着きを取り戻し、アダムの言う事を一言一句漏らさないように集中する。
「よし。じゃあ地縛霊だが、あいつ等は土地に縛られてたんじゃねえ。動物園に縛られてたんだ」
「動物園に縛られる?まさかそんな事が・・・」
今度はウィングが声を上げる。
「信じられねえかもしれねえが、そうとしか思えねえ。あいつ等は人間が自分たちを見に来てるのを知っていた。そしてその事を誇りに思っていたんだ。あいつ等は世話をしてくれる飼育員ともっともっと一緒にいたい。自分たちを見に来てくれる人間達にもっともっと見て欲しいという欲求により動物園に縛られてしまったんだ。だから動物園を移転するとなると当然動物園と移動してしまうことになる。だから今回のような事になったんだ」
「なるほど・・・でも一つ納得いかないッス。それだと結局暴れる動物霊は、アダムも言ってたように動物園と共に移動してしまう数十頭になるんじゃないッスか?なんでガイはわざわざ霊園にいる霊も集めたッスか?」
「何故数十体が数千体になったか?それはな、バランスだよ」
アダムはニヤリと笑う。
「バランス?・・・そうか!!」
サヤカは一気に顔が明るくなる。
「そうッスよね!何も動物園の霊だけが姫路城をテリトリーにしてる訳じゃないッスよね!名古山霊園の動物霊も姫路城をテリトリーにしてたッスね」