落とせ!難攻不落の姫路城!!22
沙織は清本に笑顔で語りかける。そして今度は鎧武者に向き直り、厳しい表情で問う。
「さて鎧武者、あなた何をするつもりなのかしら?」
「おお~~っ。お主達いいぞ。武者震いとはこの事じゃ!!今すぐここで戦いたいのぉ~」
鎧武者からオーラが吹き荒れる。しかしそれは一瞬。すぐに何もなかったかのように静けさが戻る。
「しかしそんな訳にはいかん。お主達どけ。姫子に最期の用事があるからの」
「ハッ。敵にどけって言われてどく奴がどこにいる?おまえの―」
姫子の鼻が銃に触れる。そこから姫子の気持ちがアダムに流れ込んでくる。
『大丈夫よ、ありがとうアダムさん。鎧武者さんは優しいから大丈夫よ。必要なことなの』
姫子は、真っ直ぐ微笑みながらアダムに訴えかける。
「心配せずとも良い。ワシが斬るのは姫子を現世に縛っておくためにワシが強化した地縛鎖じゃ。これを斬らんと姫子が地縛霊になってしまうからの」
田中は姫子を見る。
姫子は諭すように頷く。
田中は納得したが、これが姫子を見る最後の時間だと思うと、思いっきり姫子に抱きつかずにはいられなかった。姫子も長い鼻を強く田中に巻き付ける。
『敏ちゃん、私の面倒を見てくれてありがとう。あなたが子供の頃から私の家の前で眼を輝かせていたのを知っていたわ。あなたは私の宝物だった。そんなあなたが飼育員として私の前に現れたとき私はどんなに嬉しかったか。毎日が喜びに溢れていたわ。そして私が死んだ時には、ずっとずっと悲しんでくれたわね。ありがとう。でもね、そんなあなたの姿を見る事が何よりも辛いの。だから今回、私から鎧武者さんにお願いしてあなたと戦わせて貰ったのよ。私なんかの事なんて早く忘れて立ち直って貰うためにね。それなのにあなたって人は。こんなにもボロボロしたのにまだ私の事なんて心配して・・・・・グスッありがとう、本当にありがとう』
姫子は大粒の涙をポロポロと流す。田中も人目を憚らず大声で泣く。
いつの間にか二人が抱き合って泣く背後に鎧武者が立つ。
「田中と言ったな。さあ姫子から離れるのじゃ。本来なら知り得ぬ動物の心の内も知れたのじゃ、満足であろう。これから姫子は旅に出なければならないのじゃ。分かるな?」
田中は頷き、また強く抱きしめて言う。
「姫子!ありがとう!お前と出会えて良かった。また必ず旅のどこかで会おう!」
田中のその言葉に姫子もまたボロボロと涙をこぼし、より一層鼻に力を込めて田中を抱きしめる。そして田中と姫子はゆっくりと離れる。
「姫子よ、辛かったな。しかし・・・良かったの」
鎧武者の面頬から覗く目が微笑んでいるように見える。
「ありがとうございます。ありがとうございます。これで心置きなく旅立つことが出来ます」
「うむ、では気をつけて行くのだぞ。姫子に幸多きあらんことを」
鎧武者が姫子の周りに剣を振る。パキンッという音とともに姫子は黄金色に輝きだした。その後、ゆっくりと天に昇っていく。
「姫子――――――!元気でなーーーーー!!」
田中は力の限り叫ぶ。
姫子もそれに応えるように力の限り咆哮する。
「パオ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン」
姫子の咆哮が夜の闇に溶けて小さくなると共に姫子の輝きも薄くなり、声が聞こえなくなると姫子の姿も見えなくなった。