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土蜘蛛殲滅 ②

八岐大蛇の八つの首が女目がけて咆哮を浴びせる。女は涼しそうな顔でそれを受け流す。


「残念ね。完全体の八岐大蛇じゃなくて分体しか呼び出せないなんて。まあ神々の作った強固な牢に閉じ込められてるから当然か。本体の力に遠く及ばないにせよ。持ってるんでしょうねアレを」


八岐大蛇は生娘を喰おうと襲い掛かる。女は攻撃を間一髪避けるとその巨大な頭を殴る。しかし、蜘蛛の時とは違って弾け飛ぶ事などなく多少のダメージを与えるだけだった。


「チッ固い!」


女が次々に襲い掛かる八岐大蛇に苦戦しているのを見て蜘蛛のリーダーは笑いがこみ上げる。


「ギャハハハハハハッあいつ神にも牙を剥いた邪龍を呼び出すなんて馬鹿だろギャハハハハッ言う事聞いてくれる訳ねえじゃねえか。さあ俺のしもべ達をやってくれたお前の死に様の見物といこうか」


女は八岐大蛇の攻撃を躱しながら攻撃を当てていく。しばらくすると女は攻撃するのを止めた。

自分の力に余る大きな存在を召喚した罰を受け入れる覚悟をしたのか、静かに立っている。


そんな女に八つの首が襲い掛かる。赤い砂が大量に空中に舞い上がる。蜘蛛達は笑う。女は死んだ。これで自分達は危機を脱した。八岐大蛇も目的を果たして大人しく還るだろうと安心していた。赤い土煙が風に吹かれて晴れると、その光景に蜘蛛達は絶句した。


やられたのは女ではない。八岐大蛇だった。あれは攻撃では無かった。八岐大蛇の首が力なく倒れふす光景だったのだ。


「フーッやっと酔いが回ったようね。さすが大神神社の御神酒の力。ここに来るまでに一週間飲み続けた甲斐があったわ。でも神様のお力を直接打ち込んでもこんなに時間が掛かるなんてさすが八岐大蛇ね。さあ今のうちに」


女は眠っている八岐大蛇にナイフを突き立てそこに巨大な稲妻を落とす。八岐大蛇の命の灯がゆっくりとゆっくりと小さくなっていくのがわかった。そのまま女は背後に周り今度は尻尾をナイフで切り裂く。


「あった。伝説の通りね」


天叢雲剣。日本の三大神器の一つである。


「分身が死ぬまでの時間制限ありの偽物だけど、これで蜘蛛共を狩ってあげるわ」


女が剣を振るう。すると剣から出たオーラが、再び逃げようとする蜘蛛達を捉える。蜘蛛達は斬られたことも気付かず走る。その走る振動で身体がズレていき最期にはワインをこぼしたように体液をぶちまけ、斬られた蜘蛛はいつ死んだのか分からないまま息絶えた。


女は剣を振る振る振る振る振る振る振る振る振る振る振る振る振る振る…。


日本武尊が天叢雲剣を使って草を刈った事から別名草薙の剣と呼ばれるその剣は、凶悪な蜘蛛の妖怪を、草でも刈るかのように、振る度に簡単に死体を増やしていった。そしてあと蜘蛛が50体ほどになったところで握っていた剣が消失する。


「チッあと少しだったのに」


「なっ何だアイツは!俺達は学校を襲って人間の子供をたらふく喰うだけのはずだったのに何でこんなことになってんだ。そもそも精霊界だぞ。なんで人間があんなに動けるんだ。人間が精霊界にくるともがき苦しんで死ぬだけだろうが!」


蜘蛛のリーダーが愕然としていると、息も絶え絶えの身体を半分切られた蜘蛛が這いずりながら近寄ってきた。


「頭、これを・・・使って下さい・・・」


死にそうな蜘蛛が必死に前脚を伸ばす。それに応えて蜘蛛のリーダーも前脚を伸ばす。脚と脚が触れた瞬間、土蜘蛛のリーダーに様々な情報が流れ込んでくる。


「良くやった!お前は本当に良くやった!!なに、お前は死んでもまた俺が生み出してやるから安心して死ね」


蜘蛛は笑いながら息絶えた。女は蜘蛛を逃がさないように追おうとしたが、蜘蛛は女を待ち構えているように動かない。


「一際大きい蜘蛛。コイツが土蜘蛛の親玉か。こいつを始末しないとまたウジャウジャと増える。でも何故逃げないのかしら?」


女が蜘蛛の思考を読もうとしたが、すぐにそれを放棄した。数分後にはいなくなる物のことなど考えても仕方がない、時間の無駄だと。なにより土蜘蛛の思考を読むなど反吐が出る。女は強く歯を食いしばり、目の前の蜘蛛共を滅ぼすことに執念を燃やす。


「お待たせ土蜘蛛」


女は誰もが恐れる妖怪土蜘蛛のリーダーを前にして、待ち合わせ場所で彼女を今か今かと待っている彼氏にでも言うように軽く挨拶する。


「ケッ俺を目の前にしてそんな余裕を見せるなんてプライドがズタズタだぜ。まあそれも当然だな八岐大蛇すら倒しちまうんじゃ俺程度にびびる訳ねえか」


「覚悟したのね。いいわ。サクッと殺してあげる。あなたの顔なんてもう一秒たりとも見たくないから」


「まあそう言うなよ、もう少し付き合えよ。お前、最初に言ったよな『本当に本当にこの時を待ちわびたわ』って。俺は不思議だったんだよ。なんでお前は俺達をそんなに憎むのかって。俺はお前なんか知らねえ。そしたらよ、俺のしもべが教えてくれたよ。お前が俺を憎むのはこれが原因か?」


土蜘蛛は大きな口を開けて何かを見せる。


「土蜘蛛――――――――――――!!」


女は激怒する。余りの怒りに攻防一体の銀のオーラにスキが出来る。


突然、土の中から飛び出して来た一体がそこを目がけて牙をたてた。


しかし牙が女を貫く事はなかった。スキは一瞬だけ。牙が刺さるか刺さらないかの一瞬だったため、蜘蛛の大きな牙は女の身体に1センチ程刺さっただけで再び纏った銀のオーラにより、蜘蛛の牙は身体に刺さった先端を残して砕け散る。さらに女は振り上げた拳を、一気に自分の胸に噛み付いていた蜘蛛目がけて振り下ろす。地面はクレーターのように大きく陥没する。頭部を潰された蜘蛛はすぐに動かなくなった。


女はゆっくりと顔を上げ、憎しみに満ちた顔で土蜘蛛の親玉を睨み付ける。


「よくも・・・よくもよくも私にそんな物を!」


女が土蜘蛛の命を刈り取るべく地面を蹴ろうとした瞬間、力が抜け、膝をつく。


「お前、何をした?」


「ヒューーーッ良かった良かった効いてくれて。俺の残りの僕全てを猛毒に変換してお前が今殺した一匹に持たせてたんだ。しかし冗談じゃねえよ。土蜘蛛数十体分の毒を濃縮して打ち込んだんだぜ。普通なら皮膚がドロドロに溶けて今頃ジュースになってるはずだぜ?それが膝をついただけで、今も元気に俺とお喋りしてるじゃねえか。おっと喋りすぎた。お前は何をするか分からねえ。お別れだ」


土蜘蛛はここに戻ってきた時と同じような空間の裂け目を、女が膝をついている場所に開ける。女は入って来た場所と同じような高さから落ちていく。


「子供を食べれなくなるのは残念だがお前が死ぬまでは我慢しよう。空腹は最高のスパイスっていうからなギャハハハハハハ」


土蜘蛛は穴から落ちていく女をニヤニヤと眺める。女は最期の力を振り絞り、自分のオーラを纏わせたナイフを投げる。ナイフは土蜘蛛の顔を大きく抉る。


「チッやっぱりお前は油断ならねえ。落として正解だったぜ。でも残念だったな、俺は他の奴と違って特別なんだよ」


女は目を見張る。


先程消し飛んだ顔の半分がもう修復され、下卑た笑みを浮かべていた。


「チクショーーチクショーーーお前だけは、お前だけは私が!」


さっきまで一秒たりとも見たくないと思っていた顔に必死に手を伸ばすが、空に開いた穴は閉じ、女の目には冬のどんよりとした曇り空が映るだけだった。


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