ナイトのピッピ 46
「大変でしたね香山さん、大丈夫ですか?」
「ねえ、もうそれ止めない?」
「えっ?」
「香山さんってやつよ。もう仕事は終わったんだから、アダムちゃんと同じようにマナナって呼んでよ。私もサオリンって呼びたいしね。年も近いんだし敬語もやめて」
「いいんですか?」
「もちろん!またパフェを食べに行きましょ」
「あのっでも、サヤカちゃんが車の中で言ってたように―」
「サオリン、敬語になってるよ」
「あっはい、私は今弱ってるから、マッマナナ・・・と普通に喋れるんだけど、そのうち私に近寄るだけで気分が悪くなるから・・・」
沙織が胸の前で指をニギニギしながら答えるのを見て、マナナは今までの沙織の苦労を推し量った。その上であえて明るく接する。
「サオリ~~~ン。それがどうしたの?今は仕事も自宅で出来る時代なのよ?サオリンが力を取り戻して、私が近づけなくなってもリモート女子会すれば良いじゃない。美味しいスイーツをお取り寄せしてさ。そんな自分から壁を作ってないでさ、楽しもうよ。私はこれでも上級システムエンジニアよ?ドンと任せなさい!」
「マナナ・・・うん、グスッうん」
沙織は涙が零れそうになりながら頷く。
「アポロはまた一緒にあの店でパフェを食べたいでしゅ」
「サヤカは、美味しいりんごパイの店に行きたいッスね。もっと美味しいりんごパイ作れるようにないたいッスから」
「俺は、ボスの威厳を見せつけたいから美味いコーヒーか紅茶のある店に連れてってくれ」
「ピッピは梟カフェに行きたいッピ」
アダム達はいつの間にか追いかけっこを止めて二人の元に集まっていた。
「そうだね。全部行こうね」
沙織は涙をこぼしながら言う。
マナナとサヤカは沙織を抱きしめ、アポロは頭によじ登ってグルーミングし、ピッピは肩に止まって高らかに鳴く。そんな様子を離れて見るアダム。アダムは思う。
『サオリン、良かったな。マナナ、サオリンを怖がったりしないでくれてありがとよ。陰陽師でもない、普通の女子との出会いはサオリンを大きく変えてくれるはずだ。サオリンを宜しく頼むよ』
月の光に照らされて佇むアダムは、ボスの威厳に満ち溢れていた。