ナイトのピッピ 41
「お前、俺をこんな姿にしてどうするつもりだ!」
「魔王が、刃向かってきた者をどうするか。分かるだろ?」
橋本は震えながら、そして慈悲を乞うように喪ヤカを見る。
「・・・ットだ」
喪ヤカはゴニョゴニョ言いにくそうに言う。
「何だ!ハッキリ言え、俺は何をされるんだ!」
「だっだから・・・バットだよ・・・」
「ああ!?」
「尻バットだよ馬鹿野郎!何度も言わせんじゃねえ!」
喪ヤカは橋本に平手打ちをブチかましながら叫ぶ。
「けっ尻バットだと。ふざけるな!」
「俺に言うんじゃねえーーーーー!!俺だって好きでこんなことやってんじゃねえんだよ!仕方なく―」
喪ヤカは、橋本の胸ぐらを掴んで不満をぶつけるが、そこにまた天の声が聞こえる。
『・・・・』
「えっ?ちょっおま、それは・・・・・・・もう!分かったよ!やるよ」
喪ヤカは顔を赤らめてまた独り言を喋っている。聞いているとどうも魔王に指図をしている者がいるようだが、魔王すら躊躇している姿を見て橋本は自分の尻が無性に心配になる。
「ゴホンッそっそれじゃあ、魔王に刃向かった者を処刑する」
コツ、コツ、コツ、喪ヤカは靴音をならし、ゆっくり時間をかけて橋本の尻を目指す。橋本にとってそれは、絞首台の13階段を昇っていくような気がして、さらなる恐怖を橋本に与えた。ただ喪ヤカ自身はそんな気は毛頭無い。ただ恥ずかしくて恥ずかしくて、何で俺がこんな事をしなければと思っていると足が鉛のように重くなっただけである。
そしてついに、喪ヤカは橋本の尻に到着する。
「橋本、お前にチャンスをやろう。三回、三回尻バットに耐えれば解放してやる。その後はマナナを殺しに行くと言っても、ここから快く送り出してやるさ」
「本当だな!」
今まで恐怖に震えていた橋本の目に灯がともる。己の存在意義、香山を殺すという目的を果たせるのならたった三回の尻バットごとき耐えてみせると歯を思いっきり食いしばった。
「まず1回目、オラァァァァーー!」
パンッという音とともに橋本の尻に焼きごてを当てられたような熱さを感じる。その痛みが通り過ぎてしまうのを歯をさらに食いしばって耐える。
橋本の顔を見に来たのか、喪ヤカは目の前に戻ってきた。橋本は喪ヤカに狂気を含む笑みを見せながら言う。
「ハーッハーッハーッ1回目終わりーーーー!!ヘヘッ金属バットで尻バットやられると流石に痛えなあ。でもあと二回!耐えられねえ痛みじゃねえ」
勝ち誇るように言い放った橋本の言葉に、喪ヤカはまたモジモジしていると、またまた天の声が聞こえてくる。
『なにモジモジしてるッスか!喪ヤカはサヤカとの賭け、【最終的に香山さんにかけられた呪いはここにくるか】に負けたんスよ。言う事聞く約束でしょうが。早く言うッスよ』
「分かってるよ!・・・いっ今のは金属バットではない。プラバットだ!」
喪ヤカは後ろに隠していたプラスチック製のバットを橋本に見せながら言う。
「なにーーーーーー!!!そっそのテンプレはーーーーーー!!」
「知ってんのかよ!まっまあ良かったよ。ここで『は?』って言われたら、俺もう恥ずかしさに耐えれなくてお前の頭パッカーーンってやっちゃってたよ」
別に橋本はゲームの魔王のこととか、知らなかった訳ではない。喪ヤカにいきなり魔王と言われて「何言ってんだコイツ?」と思っていただけだ。だが、喪ヤカの圧倒的な実力、喪ヤカに有利な空間、そしてテンプレによって橋本の中で喪ヤカは魔王となった。
しかしそのせいで、この先に待っているのは絶望だと分かった。橋本は大好きなマンガの勇者達は、どうやってこんな場面を乗り越えていたか懸命に記憶を探る。そんな橋本に絶望の声が聞こえる。
「二回目だ」