ナイトのピッピ 39
そんな四人の気持ちなど知らず、呪いが消えた事で支えを無くし、体勢を崩して道路の上を転がっていたサヤカが爆発音に驚いて顔を上げると、沙織、アポロ、アダムがもの凄い速さで自分に迫っているのが分かった。そして上空からはピッピが。
しかも沙織が祓魔の剣を固く握りしめているのを見て、自分に振り下ろすつもりだと瞬時に理解した。精霊化した沙織に近づかれただけでアウトなのに、さらに剣で斬られるって・・・。実際に斬られる事はないが、それでも脳が死を感じてしまったら死ぬこともあると本で読んだことがあるサヤカにとってシャレにならない事態である。
「ストーーーップ!沙織さんストーーーップ!解除して、振り下ろさないで、撃たないで、引っ掻かないで、ついばまないで」
サヤカが自分の意思を持っていると思い、沙織、アダム、アポロ、ピッピは急いでブレーキをかける。
自分を殺しに来てた呪いにさほど恐怖を感じなかったが、仲間に死の恐怖を味わわせられるとは、サヤカは身を持って『ここより良い事務所を探すのは難しい』といった東九条家の言葉を体感した。
「サヤカちゃん!大丈夫なの?本当に?」
「おい!呪いに支配されてるとかじゃねえよな?アイツはどこに行ったんだ?こんなの初めての経験だぞ」
「大丈夫ッスよ二人共。呪いは魔王の所に送ったッスから。フフフッ」
サヤカは顔の前に右手を置き、指の間から二人を覗き見ながら、中二病全開にして妖しく笑う。
「不味いぞサオリン。俺も初めての経験で良く分からねえが、サヤカーンは乗っ取られてやがる」
アダムはサヤカが変貌し、襲撃してくることに備え、サヤカーンの身体を出来るだけ傷付けないように、暴徒撃退用のゴム弾を射出する銃を具現化し、銃口をサヤカに向ける。ゴム弾と言っても当たり所が悪ければ死ぬ。
「ちょっアダム大丈夫ッスよ。信じてくれないかも知れないッスけどサヤカは魔王なんスよ。それで呪いはサヤカの精神世界にいる喪ヤカって奴の所に送ったッス」
「アダム、サヤカちゃんを車に乗せるの協力して!東九条家までぶっ飛ばすから」
「ウプッ止めてくださいッス。本当ッスから!当主に依頼が成功したと報告するついでに聞いて下さい。サヤカが魔王って言ってるけどどう言う意味だ?って」