ナイトのピッピ 38
アダムは驚き、スコープから目を離して確認するも呪いの気配すら感じられない。『しくった。見失った』ライフルを握るアダムの手から嫌な汗が滲み出る。
沙織は、橋本を地面に優しく寝かせた。そして呪いの本体の思惑を看破し、完璧な対策をしていたアダムを信頼し、事の成り行きを見守っていた。しかしアダム同様、今まで経験したことのない呪いの消滅の仕方に、先程人を斬るときにも動揺しなかった沙織が焦る。アダムならばどうだと視線を移すと、スコープから目を外していた。
沙織はアスファルトを深く抉りながら、サヤカの元に疾走する。祓魔の剣を固く握りしめて。
アポロもアダムのもとへ行こうと、軽やかなステップで走っていたその途中、サヤカの声を聞き、いつでも助けられるようサヤカを見守っていた。そして異常消失。
しかしアポロはそれを見ても、自分もいつの間にか呪いが消えていたからこういう種類の呪いなのかな?と考えたが、直後に沙織が爆発音とともにサヤカのもとに向かっているのを見て、サヤカがピンチなのだと理解するより早く、再び黄色い閃光となった。
ピッピは、上空からどこからか予想外の攻撃がこないか警戒しながら戦いを見ていた。
アーサー探偵団の凄まじい力に驚くとともに、一人だけレベルが格段に落ちるサヤカを注視していた。自分の守りたい存在マナナ、彼女を一生懸命守っているサヤカに怪我などさせてなるものかと。
そして現れた呪いを見ても、あの程度の呪いではサヤカが持つ符の力によって、ダメージを与えられないだろうと、子の初めての狩りを見守る親鳥のように微笑ましく見守っていた。
しかし呪いの異常消失。
ピッピは自分の優れた視力でもって、呪いが夜の闇にまぎれ、どこかに隠れていないかと首をグルグルと回して周囲を探したが発見出来なかった。
やられた!
ピッピは急降下する。呪いがサヤカにまだ完全に同化出来ずに一部でもはみ出していてくれとピッピは願った。それさえあればこの爪で必ず呪いを引きずりだして助けてみせるからと。
翼は闇を切り裂き、さらにスピードを増していく
アスファルトの道路をめくりあげながらサヤカの元に駆ける沙織、黄色い閃光となったアポロ見て、さらにピッピが巻き上げる風を感じてアダムはハッとする。一歩出遅れながらもバイクを具現化しサヤカの元に急ぐ。