ナイトのピッピ 37
本体の最期の命令を遂行するべく、サヤカが守る車の近くの森から、周囲の呪いを合体させた身長2メートル程の人型の呪いが現れた。
しかし、その呪いの命運は現れた瞬間に尽きていた。今まで数多くの命を奪ってきた十字架の呪い、アダムがすでにライフルのスコープで照準を合わせていたのだ。
アダムは神社で、『今日は使うな』と渡した銃をサヤカに使わすことがないよう、この戦いの間、ピッピとアポロだけではなく、サヤカにも常に気を配っていた。
「お前等は俺に何度も同じ事を言わすんじゃねえよ!俺がそんな事を許すと思うか?舐めるな馬鹿野郎!」
「アダム!大丈夫ッス。見てて欲しいッス」
サヤカからアダムに思いもよらぬ言葉が飛ぶ。真意を確かめようと、アダムはスコープの照準をサヤカに移し、値踏みする。
「ヘヘッ仮社員が生意気に!でも言うだけの事はあるか」
そう呟き、引き金から指を離す。しかし、スコープを覗くのは止めない。サヤカに危険が及んだ時には躊躇無く引き金を引くと心に決めているからだ。
呪いはサヤカを縊り殺そうと両手を伸ばしてくる。そんな状態にも関わらずサヤカは冷静だ。そして・・・
「お前程度の呪いが考えそうな事を、この魔王サヤカが見抜けないとでも思ってるッスか?見くびるなッス。逆にサヤカの前に現れた事を褒めてやるッス。お前ぐらい弱っている呪いなら、当主と藤森部長から鍛えられたこの技の初披露に丁度いいッス。さあ喰らうがいいッス!アーサー探偵団四十八の殺人奥義の一つ【えっ!?ちょっ魔王!?そんな!セーブしてないのにタックル】ッス」
サヤカはレスリング選手の様に腰を落とし、低く構えた状態から、脚に漲らせたオーラを爆発させて高速タックルを敢行する。それは呪いの両手をかいくぐり、両脚を見事に刈り取った。呪いが道路に倒されると思ったその時、
「喪ヤカーーッ」
『オウ!任せろ』
呪いが消える。サヤカが掴んでいたはずの呪いが、フッと音も無く消えた。