ナイトのピッピ 28
周囲を警戒していたサヤカが、こっちに向かって飛んでくる木に気が付く。
「さっ沙織さん!木が飛んで、すぐマナナを移動―」
「大丈夫。それよりサヤカちゃん。私の符で身を守って。道真様、力をお借りします。我は道真。我が怒りは嵐、我が怨みは雷となりて、左遷を決めたヤツをブチ殺す。【お前の家に雷神降臨!】」
沙織が呪文を唱えると、飛んで来る木に雷が落ちる。木を運んでいた呪いは全て消滅し、木は悉く道路に落ちる。雷の影響で繊維をズタズタに焼き千切られ、かろうじて形を保っていた木はその衝撃で粉々になり道路に散らばった。
「はっ?・・・」
呪いの本体が、訳が分からず固まっていると遂にアダムが動く。
「サオリン今だ!ただ精霊化は直前までするな。俺達を信じろ!」
それを聞いて沙織は走り出す。
「サヤカちゃん。お願い」
「了解ッス」
沙織が呪いの本体に向かって走って来るのを見て、慌ててそれを防ごうとする。
「アポロ、ピッピ!全力を出せ!」
「了解ッピ」
ピッピはアダムの言葉を噛みしめる。『お前のステルス能力、結界を通り抜ける力をもっと高めればこんなレベルの低い呪いなんか、お前に触れることなんか出来やしないんだ』。ピッピは生前の狩りを思い出す。夜の闇に同化し、音も無く忍び寄り獲物を狩った記憶を。ピッピのオーラが闇に同化していく。
「ピッピはお前等なんかに負けないッピ。マナナを守るッピ。お前等邪魔するなッピー!」
ピッピにトドメをさそうと一斉に飛びかかっていた呪霊は、さっきまで目の前にいたピッピを見失う。ピッピは目の前にいた。
しかし、極限までステルス能力を高めたピッピに、呪霊達は違和感すら覚えず素通りしてしまう。右往左往している呪霊達をよそにピッピは空高く舞い上がる。
そして羽根を思いっきり広げ、地上にむけて、呪霊達を倒す強い意志を漲らせて羽ばたく。
ピッピが巻き起こした風に気づいた呪霊達は上を向く。
ザクッ
呪霊達はオーラを含む風にズタズタに切り刻まれ、さらに地面に叩き付けられる。
ピッピは続けて羽ばたき、呪霊の本体が展開していた右翼の呪霊達は全滅した。