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ナイトのピッピ ㉑

「ちょっと沙織さん!なんでこんな事出来るッスか!?」


「ああ昔ね、ドリフト王子って呼ばれてる人を除霊したら教えてくれたの。ツチグモの噂を聞いて来ただけで、私個人の都合でついでに除霊しただけだから報酬はいらないって言ったのに、

『俺は、これでも、昔ドリフトの世界で王子と呼ばれてたんだ。王子が恩を受けておきながら、はいサヨナラじゃカッコがつかん。でも除霊の相場の300万円なんて金は払えん。だから、このイリスって車と明日サーキットを借りて俺の人生をかけて培った技術をアンタに全部教えるから、それでチャラにしてくれ。きっと役に立つぜ』

って真剣な顔して言うもんだから。その人助手席に―サヤカちゃん、左に曲がるよ」


ギャリギャリギャリギャリとタイヤが悲鳴を上げる。サヤカの内蔵が左右にシェイクされる。


「それでその人、私の横にいると体調悪くなりますよって注意したのに、ゲーゲー吐きながらも一日かけて教えてくれたの。そしたら、

『お前、おれと世界を目指さねえか?お前みたいにセンスが良くて、反応も速い、その上動体視力も良い奴見たことねえ。俺の胃は、吐きすぎて空っぽだ。こりゃお前と世界を喰って胃を満たせって神様が言ってると思わねえか?』

って何かドラマのセリフみたいな、ちょっと恥ずかしいこと言ってたから、多分私が横にいたせいで熱でも出たんだなと思って申し出をお断りして、すぐに貰った車でその人の元を離れたの。それからこの車で、私の戦闘中のオーラに当てられて意識が朦朧としてる東九条家の人を病院に送るとかしたなあ。でも乗るときは一人で乗れたのに、降りる時は担架を使って降りることが殆どだったの。あの時は自分の強すぎるオーラを憎んだよ。次、右に曲がる」


ギャリギャリギャリ…

サヤカと香山は、脚を精一杯踏ん張って自分の身体を支えながら、『違う、そうじゃない』と心の中で叫んだ。なぜなら口を開けると、出口を見つけた胃の中の物が飛び出てきそうだったからだ。


サヤカはアダムから、沙織が精霊化したとき、プールに飛び込む感覚で谷に飛び込むし、大の大人三人を抱えて平気でジャンプして登って来たと聞いていた。そんな芸当が出来る沙織にとってはこの程度の車の揺れなど、揺りかごの中で揺れているのと変わらないのだろう。


沙織が今の後部座席に座ったとしても、脚を組み、雑誌のページをめくりながら、タンブラーに入れたコーヒーを飲んで笑っている姿を容易に想像出来る。サヤカは思った。アーサー探偵事務所の私の大きな仕事の一つは、沙織に常識(肉体の)を教える事なんだと。


「ウプッ超絶運転技術の訳は分かりましたッスけど、安全運転してくださいッス。WRCのレースみたいに助手席にナビゲーターがいるならまだしも、次のコーナーがどんなの分からないのに、こんな速度で突っ込むなんて命がいくつあっても足りないッス」


「二人共、恐い思いさせてごめんなさい。でも時間がないの。スピードを落とす訳にはいかない。心配しないでサヤカちゃん。この道はもうアダムに叩き込まれてるの」



~沙織がアダムにエイトパッド ヒップを購入したことがバレた日の朝食後~


『サオリン、サオリンは今まで逃げたことはあるか?』


『あるよ。両親に連れられて逃げたことあるし、気持ち悪い相手とかいたからね』


『クククッ命の危険を感じてじゃあねえか、まあそうだろうな。ハッキリ言おう。サオリン、お前は俺達と【逃げる】という感覚がズレてる。普通敵わない相手なんかそこら中にいるんだよ。俺はインドにいた時は、よく隠れたり、逃げたりしたもんだ』


『今みたいに強くなった後も?』


『当然だ。勝てる相手だとしても、そいつに大半の力を使ったあとに、また強い奴と出会うかもしれないからな。むしろそれを狙ってやる奴もいる。毎回エンカウントするたびに戦ってたら命がいくつあっても足りねえんだよ』


『でも、それはインドだったからでしょ?沢山いたものね強そうな精霊とか』


『まあ、そうだな。でも日本は日本でヤベエ。日本には八百万やおよろずの神様がいるっていう言葉どおり神様が一杯いるからな。全員が強いって訳じゃねえが、ミッチーなんかメチャクチャ強いし、戦術でも勝てる気がしねえ。それでサオリン、事務所を構えてこれからは一人じゃねえんだ。少なくともサヤカーンと依頼人を守らなきゃいけねえんだ。逃げるってことを真剣に考えなきゃいけねえ』


『うん、そうだね。そうだった』


沙織は今までよりも、さらに真剣にアダムの言葉に耳を傾ける。


『逃げるってのは、基本的な戦術であり、かつ一番重要な戦術だ。だからスパイにとっても探偵にとっても逃走ルートを確保しておくというのは一番大事な事だ。と言うわけで』


ドサッ


沙織の前に京都の地図、電車、地下鉄、バスの路線図や時刻表。女性が多い建物、高速道路のインターチェンジ、山の中のコーナーの数、Rの角度等々様々な資料が置かれる。


『えっ・・・アダムこれは・・・』


『逃げるために必要な資料だ』


『こっこれ覚えるの!?』


『当たり前だろ』


平然と答えるアダムに、沙織は青ざめる。


『ハーーーッ。サオリン、お前勘違いしてねえか?逃げるってのは技術なんだよ。おまえ小学生みたいにただ走って逃げさえすればいいって思ってねえか?簡単じゃねえんだよ、自分より強い奴や速い奴から逃げるってのは。でもまあ量が量だ。大変なのは分かる。その代わりに得られる対価は命だ。覚える価値があるだろ?』


アダムがニヤリと笑う。


『例えば、俺が『ヘマしちまって追われてる。今、依頼人と北に向かってる。上賀茂神社かみかもじんじゃの近くだ』って言ったら、お前達は依頼人を保護しに来なくちゃいけねえ。ゴーストウォッチがあるからいいじゃないなんて言うなよ。必要なのは俺の行動を予測し、先回りして救出する準備をすることだからな。その予測をする上で必要なのがこの資料だ』


沙織は甘く考えていたことを反省する。


『それにまだこんなの序の口だ。俺達が拠点とするこの京都中に、匿ってくれる奴やアジトを作らなきゃいけねえ。ハハッそんな顔すんなよサオリン。俺は今、独自の情報ルートを構築してる最中でよ、それと平行してピックアップしてるから、また相談するよ。さあ、今サヤカーンは命がけで修行してるんだ。所長のお前が気張らねえでどうするよ』


そう言われると、沙織は覚えるしかなく、サヤカが東九条家で暴れている間、アダムと実際に資料の場所に行きながら暗記していった。そして情運山は追いかけてくる車を引き剥がすのに最適な山としてアダムに徹底的に叩き込まれていた。



「アダムに叩き込まれたって何すか?」


「へへ~ん。サヤカちゃんも十六歳になってバイクの免許を取ったら経験するよ。厳しいから覚悟しておいたほうがいいよ♪」


ただでさえ、気分が悪いのに、気分がさらに悪くなることを言わないで欲しい。十六歳の誕生日に地獄が口を開けて待っているなんて・・・閉じて欲しい。今の私の口のように固く固く閉じて欲しい、そうサヤカは願った。


「二人共、踏ん張って」


『最初のコーナーから踏ん張ってますがなにか?』二人はシンクロした気がして、お互いを見た。心が通じ合ったようで、地獄の様な状況でも二人は微笑み合う。しかし次の瞬間二人の顔は恐怖に引きつる。


「いくよ!慣性ドリフト」


今まで以上にタイヤに悲鳴と白煙を上げさせながら、車が高速で横滑りしていく。

フロントガラスから見える景色が横に動く。車がこんな動き出来るのかと二人はパニックになる。香山は目を閉じ、手すりを精一杯握りしめ、歯をこれでもかと食いしばってこの恐怖の時間が過ぎ去るのを待った。


サヤカは今まで経験したことのない動きに対処が出来ず、脚を踏ん張っていたのにも関わらず、窓ガラスに強く頭を打ち付けた。内蔵はさらにシェイクされる。胃の中から登ってくる酸っぱい物を感じながらもサヤカは叫ばずにいられなかった。

「初任給は、絶対ヘルメット買うッス~~~~~~~~~~~~!!!」


すいません。今日はここまでです。続きはまだ書けていません。箇条書きの状態です。

まだ時間がかかりそうです。すいません。

日曜までには、ピッピ編を終えたいと思います。読んでいただきありがとうございました。

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