ナイトのピッピ ⑲
「ねえ!ピッピは大丈夫なの!?」
「香山さん、言ったはずッスっよ。東九条家の『ここより良い事務所を探すのは難しい』それは沙織さん、アダム、アポロを指す言葉だって。そのアダムとアポロの二人が向かったんッスよ。絶対、絶対大丈夫ッす。安心してくださいッス」
サヤカは香山に笑顔を見せる。そして香山の願いを叶えるため、沙織に注文する。
「沙織さん、もっと飛ばすッスよ。アダムとアポロが向かったから大丈夫としても、早くピッピの元気な顔を見て安心したいんスから!」
「そんな事言っても、今でも制限速度+20だよ。これ以上スピードを出したら・・・」
ウ~~ウ~~、今一番聞きたくないサイレンが聞こえる。
「あ~やっぱり・・・」
「何すかあの白バイむかつくッスね!沙織さん、ここはサヤカに任せて下さいッス。正義は我にあり。困っている人を助けるためならしょうがないッス。サヤカがアイツにタックルしますんで、沙織さんはそのままぶっ飛ばしてピッピを助けに行って下さいッス」
「駄目!駄目だよ!」
「心配しなくても大丈夫ッスよ。霊長類最強というわけにはいかないッスが、陰陽師最強のタックルをお見舞いしてあげるッス。なあにヘマなんてしないッスよ」
「サヤカちゃん!?ヘマとかそんな話をしてないの!車から降りてきた一人が白バイ隊員にタックルして、車はそのまま逃走って。ヤバイどころの話じゃないよ!今、呪いの百鬼夜行を潰そうとしてるのに、警察の百鬼夜行が出来ちゃうよ。それに香山さんがいるの!大人しくしてて。メチャクチャ急いで切符書いてくるから」
沙織は大人しく止まろうとするが、白バイ隊員は運転席の横に来て敬礼し、沙織の車の前に移動する。誰かと通信しているようだ。そしてサヤカのスマホが鳴る。スマホの画面を見てサヤカは驚く。
電話をかけてきた者は、東九条陰陽道総本家当主 東九条武臣だった。
「サヤカ、スピーカーにするヨ」
サヤカは言われた通りにする。
「当主、申し訳ないッスけど今、急いでるのに白バイに止められて沙織さんも話してる時間はないんスよ」
「サヤカ、分かってるヨ。私もその件で電話しているネ。サオリン、前にいる白バイは、この車を先導するために警察が用意したものヨ。切符なんかを切るためにサオリンの車の前にいるわけじゃないヨ」
「えっ?なんでそんな事が出来るッスか?警察が用意したってなんスか?」
「何を当たり前のことを言っているサヤカ。お前は警察が精霊、悪霊、呪い等と戦えるとでも思ってるのか?そんな事をしてみろ。警察官の死体の山が出来るだけだ。それならば東九条家にまかせるだろ?
そしてこのサオリンの車は、香山さんから依頼を聞いた時に、警察に連絡して登録して貰ってるヨ。別に害はないから安心して欲しいヨ。ちょっと前に、「ホットパンツ姿で、覗きをしてた女性が、いきなり覗いていた部屋に飛び込んだあと、しばらくしてからその部屋から発砲音がしたっていう通報が入ったんで出動したんですが、登録されてる車が下に止めてあるんですけど、何か霊関係の仕事ですか?」とウチに確認が来たヨ。だから、「そうだ。近寄るな。命がいくつあっても足りないぞ」って言って無罪放免にしといたヨ。
全く隣のマンションから飛び込むなんて無鉄砲な人だ。いや依頼人の窓をぶち破って入るんだからサオリンは鉄砲玉みたいな人ヨ!ハハハハハハハハッ」
自分の行動を人から聞くと、余計に自分は何て事をしでかしたんだろうと、沙織は恥ずかしくなった。
「おっ大家さん、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ依頼を受けて貰って本当に助かったヨ。じゃあ話は終わりネ。サオリン、前で先導する白バイに引き離されないように付いていってネ」
通話が切れる。すると前の警官が誰かと通信するような仕草をとった後、後ろを振り返り、会釈をする。そしていきなり加速する。
沙織は引き離されないようにアクセルを踏む。
よく周りを見ると、警察官が沢山いる。白バイの前にもパトカーが先導し、車を左右に避けさせて道を作っている。
しばらく、そのまま進むと辺りに車や人もいなくなる。先導する者も白バイだけになった。
そして、白バイがスピードを落とし、左に注目してくださいと手で合図を送ってきた。
沙織は訳が分からず、スピードを落としながら、意識を左に向けると、大きな交差点に差し掛かる。