ナイトのピッピ ⑱
香山はサヤカの説明にポカンとした顔をしている。
「あっすいません。今の話は別にいいッス。理解出来なくて当然ッス。香山さんは現場にもいなかったッスから。それに言いたかった事はここからッスから。
符に使われる紙の繊維がズタズタだと結界符の場合、結界に隙間が出来るッス。アダムはその穴を突くことが出来る能力に思い当たる節があったんス。
ステルス能力。この能力が高い者は結界そのものをすり抜けることが出来るらしいッス。しかも今回は隙間が、あちらこちらにあるんだから能力者にとっては、すり抜けることなんて造作もないことだったッス。
じゃあ正体は何だ?始め四足歩行の獣かなと思ってたんスけど、アダムは追いかけているときに足音がしなかった事を思い出したッス。かといって羽音も聞こえなかった。逆にそれで気付いたッス。闇夜に音もなく忍び寄って獲物を狩る狩人、梟かミミズクだって!」
「たしかに、梟とミミズクは腕に止まらせて羽ばたかせても全く音がしないね。あれビックリするよね」
サヤカはニヤッとする。
「香山さん、普通、そんなこと女子は知らないッスよ。香山さんのお父さんの名前は香山修二さんスよね」
「えっ!?なんで知ってるの?言ってないのに」
「逆にそんな事も調べられない探偵事務所なんてヤバくないッスか?ソースは教えられないッスけど」
サヤカはニヤッと笑う。
「それでお父さんは、鳥の保護活動をしていますよね」
「ええ、昔からやってるわ。私も父と一緒に巣箱を木の上に置いたものよ」
「香山さん、お父さんと自分の善行に救われましたね。ピッピは、東九条家のデータによると、お父さんが保護活動している山々を守護している精霊なんスよ」
香山はあのミミズクの精霊と自分にそんな繋がりがあったなんてと驚く。
「香山さん、三ヶ月前に山に登ったッスよね。その時、ピッピは香山さんを見に来たと思うんスよ。
『誰だッピ!ピッピが守護する山に呪いを持ち込む奴は・・・・・・うん?えっ?真菜ピッピーーーーーーーーー!!』ってメチャクチャ驚いたと思うッス。
それと同時に絶対守ろうと思ったんだと思うッスよ。我が子同然の鳥達の命をたくさん守ってくれた修二さんの子供、それと香山さん自身もそれを手伝ってくれてたという事にピッピは感謝していたと思うんスよ。だから自分が守護する山から出て来てまで、香山さんを付きっきりで守っていたんスよ。
ほらっ穴が開いてる傷あったでしょ?あれはピッピが嘴や脚の爪で呪いを攻撃してたから付いた傷ッスよ」
香山は何ヶ月も陰から見守っていてくれたピッピの行動に涙する。それと同時に思いだす。アダムは確かに言ってた。『一人じゃ無理だ』と。