ナイトのピッピ ⑮
歩道を息も絶え絶えにトテトテと走り続けるアポロ。
「ハーッハーッそうでしゅよ~アダムの言う通りでしゅよ~。ハーッハーッアポロは密林の王者でしゅよ。ピッピが今、山の中で命をかけて戦ってるというのに、こんな姿で行ったら邪魔でしゅよ~。ハーッハーッほとんど覚えてないでしゅが、アダムが言うからにはアポロは強いはずでしゅハーッハーッ覚悟をきめるでしゅよ~~」
アポロは走る。手を振ることさえしんどくなったが、それでもピッピを助けに行くために走る。しかし、身体は言う事を聞かない、脚がもつれ頭からこける。
鼻をすりむき、血が流れる。
アポロは痙攣する脚に力を入れて立ち上がる。流れる血を手で拭う。
「ハーッハーッこんなのが何でしゅか!サヤカーンの方がもっと痛そうだったでしゅよ。ハーッハーッアポロはみんなを守りたいでしゅ!ピッピもマナナもサオリンもアダムもサヤカーンもミッチーもオッちゃんもアリタンも山しゃん達もみんなみ~んな助けたいでしゅ!それがアポロの目指す王様でしゅ」
アポロはまたヨロヨロと走りだす。目には涙が浮かんでいる。
「それなのにピッピを、それも森の中で苦しんでるピッピを助けられないなんてそんなの絶対嫌でしゅ!密林の王者アポロが絶対絶対助けるでしゅよ~~~~!」
大粒の涙を流しながら、なけなしの力を振り絞って走るアポロ。
その時、アポロの心の中で、誰かが笑ったような気がした。
次の瞬間、アポロの身体がゴールデンレトリバーぐらいの大きさになる。オーラも今までの比ではなく、氷狼と同じくらいに増加している。
「なっなんでしゅか?これは!?」
アポロは四足歩行になり、オーラの増大した自分の身体の変化に驚く。
しかし、今はそれどころではない。ピッピを助けに行くのだ。
アポロは地面を蹴る。
景色が飛ぶ。
アポロが一蹴りするごとに、今までアポロをビュンビュンと追い抜いていった車を、逆にアポロが抜き返していく。
「すごいでしゅ!まだアダムほど早くないでしゅけど、これならピッピを助けに行けるでしゅよ~」
アポロはドンドン加速していく。アポロはアダムほど速くはないというが、それに迫るスピードでアダムを追いかけていた。
交差点をピョーンと跳び越え、人を左右にステップすることで躱し、また車の間をすり抜けるようにして駆け抜ける。決戦に備え、自分の力を確かめるように。そして、アポロはふと、ある事に気付く。
今まで走っていた車や人がいない。アポロの周囲には一台の車や人もいなくなり、その状況に違和感を覚えた。おかしいなと思いながらも走っていると、アポロに声をかける者が現れる。
「アポロさん。ご立派になられて。アダムさんは真っ直ぐ進まれました。ご武運を!」
「なっなんでこんな所にいるでしゅかー!」