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ナイトのピッピ ⑭

アポロは言われた通り、アダムの身体をより一層力強く掴む。


アダムは幹線道路に接続している道路から入る。タイヤがアスファルトを力強く噛む感触が伝わってくる。


バイクはさらに加速し、唸りをあげて片側二車線の車の間を爆走する。

アポロは必死にしがみついている。正直アダムの運転は信用しているが、恐い。もう何も恐い事が起こりませんようにと願うアポロの願いもむなしく、アダムが言う。


「アポロ、俺が合図したら身体を右に倒せ」


「わっわかりましゅた」


バイクが交差点に差し掛かる。


「よし、倒せ!」


アポロは恐怖に駆られながらも意を決して身体を右に倒す。

アダムはバイクを膝どころか、肘がつくぐらいまでバイクを倒しながら交差点を曲がっていく。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーー。直ぐ横に地面があるでしゅー」


「ハハーーッこれが世界最高のレーサー マルクマルケスのコーナーリング技術だぜ!」


アダムはコーナー一杯、ガードレールにぶつかりそうになりながら曲がっていく。


「アダッアダム!何してるでしゅかーーー!バターじゃなくて挽肉ひきにくになっちゃうところでしゅたよーーーーー!」


「ハハハハハハッ」


アダムはアポロの文句を笑い飛ばし、バイクもさらに飛ばしていく。

しばらく道なりに進んでいくと、今度は信号がチカチカと点滅し、赤に変わりそうになっていた。


「アダム、信号が赤になりしゅよ。止まらないといけないでしゅよ!」


「アポロ、問題だ。160キロで走るバイクは5秒で何メートル進む?」


「えっ?え~っと、え~っと・・・」


「答えは222.22メートルだーーッ!」


フルスロットル、アダムは身体を限界まで前方に倒す。前など見ていない。周囲の状況は、魂やオーラを捉える精霊の能力に任せて、風の影響を限りなく少なくするためにバイクにへばり付いている。

アポロもアダムに倣って、震える身体をアダムに精一杯密着させる。


そして、左右の信号が青に変わり、進んでくる車の隙間を間一髪走り抜ける。


「フーーーッ危なかったなアポロ!黄色まだまだ赤勝負って言うが、命がいくつあっても足りねえなハハハハハッ」


「ハーッハーッハーッもう!駄目じゃないでしゅかアダム。赤は止まれでしゅよ。それに飛ばしすぎでしゅよ~~」


アポロは手を振り上げながら、顔を赤くして怒る。


「すまねえなアポロ。でもよ、本当に時間がねえんだ。それにピッピは今、一人で戦っているんだよ。いくら精霊でも今回は多勢に無勢。一人じゃ危ねえんだ」


アポロは振り上げた手を降ろす。


「それにアポロ、何故俺は今回、お前を俺の後ろに乗せたと思う?別にお前はサオリンと一緒に後から来ても良かったんだ」


「・・・ごめんでしゅアダム。アポロは分からないでしゅ」


「いいよ気にすんなよ。俺がお前に教えたいことがあったからなんだ。アポロ、お前はここまでの俺の運転恐かったよな?」


「メチャクチャ恐かったでしゅよ~」


「正直俺も恐かったよ」


「もう、アダムは速すぎでしゅよ~」


「お前は俺より速い」


アポロはアダムの言葉に、キョトンとする。


「アポロ、お前は俺なんかより全然速いんだ。俺だけじゃねえ、俺よりもっと速いピッピでさえも、お前が本来の力を引き出せさえすれば、ピッピが飛んでいった後に追いかけても余裕で追いつけるんだ」


アポロは今までミッチーの神社まで、何度もアダムと駆けっこしても全然勝てなかったのに、突然そんな事を言われても信じられなかった。


「アポロ、自信を持て。アダムなんかより自分の方が速いと思い込め。俺達精霊は意思の力が大きく作用するんだ」


「お前が仲間を守るんだ。お前は誰だ?密林の王者だ!今、山の中で傷ついてるピッピを助けるのは誰だ?密林の王者アポロだ!」


アポロの心に火が付く。


「でもさすがに今日、何かしろとは言わねえよ。ただ、俺は知って欲しかったんだ。俺のことをいつも凄い凄いと褒めてくれるが、俺は今も恐怖に震えながらも、出来る!出来る!と覚悟を決めて心を奮い立たせている。そしてピッピもそうだ。勝てないと分かっていても勝負にいった。マナナを守るためにな」


アポロは静かに聞く。


「アポロ、少しずつでいい。覚悟を決めるんだ。何だっていい。お腹を凹ますためにやっている腹筋を必ず毎日する。強くなるために好き嫌いはしない。サヤカーンの作る符なんて絶対破り続けてやるでもな。そういう積み重ねが、いつかお前の本来の力を引き出す。お前は誰よりも家族や友達のために力を使える奴だ。今度ピッピが一人で無茶しようとしたらアポロ、お前が止めてくれよ。それで一緒に説教しようぜクククッ」


「・・・アポロ、スピードを落として欲しいでしゅ。少しの間で良いでしゅから落として欲しいでしゅ」


「アポロ?」


アダムは失敗したと思った。恐い思いをさせた挙句、覚悟を決めて頑張れと言ったことはアポロに極度のプレッシャーを与えてしまったんじゃないかと。アポロが人間で言えば幼児くらいだということを失念していたことを悔いる。アダムは取りあえずアポロの言う通りスピードを落とす。


そして50キロぐらいになった時、突然アポロが飛び降りた。


「バカ!アポロ、おまえ何やってんだよ!」


急いでバイクを止めようとするアダムにアポロは叫ぶ。


「アダム、止まらないでくだしゃい。先に行ってくだしゃい。ピッピを助けてあげてくだしゃい。アポロは必ず追いつきましゅから!!」


道路にゴロゴロと転がりながらも直ぐに立ち上がり、歩道に移動してトテトテと走る。


「アポロは絶対、絶対自分の脚でピッピのところにいきましゅから」


アダムはアポロを見くびっていた事こそ悔いた。アイツは小さくても密林の王者だ。

今日も強くなるんだって、エイトパッドでトレーニングしてたじゃねえかと。


「よし、分かった。今回の戦いはアーサー探偵団全員で戦うんだ。アポロ絶対来いよ!」


「了解でしゅ」


まあ、歩道を走っていたらサオリンが見つけてくれるだろうと思いながら、アダムはアクセルを開ける。ミラーに映るアポロは、みるみる内に小さくなり、見えなくなった。




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