ナイトのピッピ ⑬
「アポロ、コレを被って後ろに乗れ!」
アポロは投げ渡されたヘルメットを素早く被り、後部座席に座ってアダムに抱きつく。
「しっかり掴まってろ。飛ばすぜ」
アダムはアクセルを開ける。エンジンは爆音を轟かせ、タイヤは空転し白煙が辺りに立ちこめる。そして焦げくさい臭いがすると同時にバイクは急発進する。アポロは振り落とされそうになるが、なんとか持ち直した。
アダムはまず、大きな道路に出ようとバイクを走らす。車が通れないような狭い生活道路を構わずぶっ飛ばしていく。前から歩いてくる住民をギリギリで避け、自転車を追い抜き、やがて目の前に幹線道路に平行して伸びる歩道が見えてくる。
アダムは歩道に出る直前、ドリフト走行をするかのように、車体を寝かせながら向きを九〇度変える。ギャリギャリギャリという音とタイヤの焦げる臭いを乱暴に撒き散らし、横滑りしながら歩道に出ると、直ぐにアクセルを開き、バイクを起こしながら加速する。
時間はまだ午後十時、歩道に人も多い。その中をアダムは、右に左に避けながらぶっ飛ばしていく。
「アッアダム、危ないでしゅよ~。人を轢いちゃいましゅよ~」
アポロが目一杯アダムに抱きつきながら言う。アポロの言う通り、アダム程の精霊がオーラを物質化したバイクに人間が当たると、普通にケガをするし、触れると気を失ってしまうなどの大変な事態に陥ってしまう。
「大丈夫だよアポロ。俺は精霊だぜ。人間と違って目で見るのと同時に、魂やオーラも感じて走ってる。例え物陰に誰かいようとお見通しさ」
アダムが振り返って、得意な顔をしてアポロに説明する。
ドンッ
嫌な感触がアポロに伝わってくる。
「アダッアダム!誰か轢いちゃったでしゅよ~!後ろなんか見てるからでしゅよ~!すぐに引き返すでしゅ!」
アポロは必死にアダムに訴える。しかしアダムはカラカラと笑っている。
「笑い事じゃないでしゅよ~!」
「大丈夫だよアポロ。俺が今轢いたのは、サラリーマンに付いてた悪霊だ。なに調子こいて急いでる俺の前に突っ立ってんだよ。そうだ、アーサー探偵団四十八の殺人奥義を勝手に作ってるサヤカーンに教えてやろう。その名は【ドンッ】だ」
「シンプルだけど想像力をかき立てられて嫌な汗が出る名前でしゅ」
「ハハハッそうだろ。おっと、ついでにお前もだ」
またドンッという衝撃がバイクに走る。悪霊をもう一体轢き散らす。
「ホッホントに悪霊なんでしゅよね?大丈夫でしゅよね?」
「大丈夫だよアポロ、このバイクは俺のオーラで作ってるから、俺の手足のように動く。間違っても人を轢いたりしねえさ。さあ、そんな事よりアポロ。これから幹線道路に入る。しっかり掴まっとけ!」