ナイトのピッピ ⑪
三十分後、香山の部屋に異変が起きる。
「来た!」
アダムが被っていた布を勢いよく取りながら、無線でアーサー所員全員に伝える。
「サヤカーン、今から三十秒たったら霊を外に出さない符を張りに行け!アポロ、お前はサヤカーンに何かあったらすぐに俺達に連絡しろ。攻撃されることはないと思うが警戒はしとけ」
「了解でしゅ!」
「了解ッス!」
「サオリン、準備はいいか?もう少ししたらアイツが現れるぞ」
「大丈夫。いつでも行けるよ」
香山は逃げていた。走っても走っても追いかけて来るナイフを持った不審者から。いつもと同じようにうつ伏せに押し倒される。しかし今日は明らかに今までと様子が違う。夢という感じが全くしないのだ。自分の吐く息の荒さが、倒されてすりむいた膝の痛みが、そしてナイフのギラギラした輝きが、これが現実であると本能で感じる。全身から汗が噴き出す。
「夢じゃない。本当に死ぬ。助けてー!!」
そう香山が思った時、何者かが不審者を背後から攻撃し、胸に穴が開く。香山が釘の穴と思っていたもので、そして黒い者は断末魔の叫び声を上げながら消え去った。香山は守ってくれた者の正体を見た。
「ああ・・・あなたがずっと私を守ってくれていたのね・・・」
香山はハッとなって目を覚ます。
そこには香山を助けてくれた存在が、次々と現れる先程の黒い者達と戦っていた。
しかし戦況は芳しくない。理由は二つある。一つは香山を庇って戦っているため、そしてもう一つの理由はその者にとって部屋が狭すぎるためだ。香山は目の前で起こっている訳がわからない、どうしようもない状況にオロオロしている。余りのことに脳が思考を放棄寸前である。そんな状況にも関わらず、さらに誰かがガラスを窓枠ごとぶち破って入ってくる。
「こんばんは香山さ~ん。それとごめんなさ~~~~い!!」
沙織だ。
それが分かった時、香山は心の底から安堵した。そして彼を助けてあげてと願った。
しかし、沙織の背中にくっついて入って来たアダムの行動は、香山が期待するものとは正反対だった。
「お前はちょっとこの中に入ってろ」
そう言って彼を閉じ込め、その後どこから出してきたのか、両手に持ったハンドガンを連射し、部屋にいた黒い者を全員倒した。
「サヤカーン。符を貼り終わったか?」
「完了ッス」
「よしエントランスのオートロックを解除するからアポロと上がってこい」
「了解ッス」
「マナナ、すまねえな。こんなお邪魔の仕方をして。俺はマナナをお姫様気分にさせてあげることが出来なかったけど、代わりにコイツがナイトの役割を果たしてくれただろ?」
マナナはやっと思考できる程度には落ち着くと、アダムに慌てて言う。
「彼、彼を解放して!彼は私を守ってくれたの。悪い者じゃないの!」
「落ち着けマナナ。全部分かってるから安心しな。もうすぐサヤカーンがこの部屋に来る。それから説明する。ほら、お前も落ち着けよ」
アダムが閉じ込めた檻、鳥籠の中には大きなミミズクの精霊が暴れていた。
全部で100話以上あるこんな長い話を見てくれてありがとうございます。次は今週末までに、出来ればナイトのピッピ編の終わりまでアップしたいと思います。また良ければ見て下さい。