ナイトのピッピ ⑨
「えっそうなの?日記をちょっと見ただけで分かっちゃうんだスゴイ!」
「すごいじゃないアダム。もう分かったんだ。屋上の結界をすり抜けた謎も?犯人は誰なの?」
「ああ、すり抜けた謎もとけたよ。逆にそれがとっかかりになった。犯人はこれから炙り出すのさ」
「さすがアダム、名探偵でしゅ。助手の出番が無かったでしゅ」
「何言ってんだよ。俺には出来ないこの仕事で一番重要な依頼人の心を癒やしたじゃねえか」
「そうよアポロちゃん。アポロちゃんがいてくれて本当に心強かったんだから」
二人はまた抱き合う。
「チッ、アダムより早く謎を解いて所長の座を奪ってやるつもりだったのに」
「お前はまだそんな事言ってんのか!内定取り消すぞ!お前の兄貴のようにお祈りされてえか!」
「ちょっちょっと待つッスよ所長。冗談、冗談じゃないッスかハハッハハハッ」
「じゃあ、使えるって所を見せて貰おうか。サオリンに足手まといはいらないぜ」
アダムは、意地悪く言う。サヤカはムッとして、言い返そうとすると、
「ちょっとアダムどういうつもり!サヤカちゃんは一緒に守っていくんだって言ってたじゃない。私もアダムの考えに賛同したから雇ったんじゃない」
沙織はアダムの態度に、怒気を含んだ声で言う。しかしそれは逆にサヤカを傷付ける。
「どうだ?サオリンはこう言ってるぜ。やることは分かってるよな?サオリンに見せてやれよ」
アダムは日記をサヤカに渡す。
「フーッ、何かアダムには、いつも掌で転がされてるような気がするッス」
「そりゃこっちのセリフだよ」
日記を受け取ったサヤカは、イスに座り直して少し水を飲んだ後、深呼吸をしてから日記を開く。すると半年分の日記を信じられないスピードでページをめくっていく。時間にして約三分、サヤカは日記を閉じる。
「香山さん、犯人は今日現れるッス」
「えっ?」
「正確には、今日の確率95.6%、九日後の確率86%ッス。しかし、そこにサヤカの直感と言えばいいのか、それよりもっとハッキリしたもんなんスけど、それを加味すれば、100%今日の夜、犯人は現れるッス。」
「凄い!何かテレビで見たことあるけどサヤカちゃん、答えが頭の中に浮かんだりする人?ちょっちょっと何この事務所!?さすが東九条家からここより良いところを探すのは難しいって言われるだけあるわ。でも・・・それだけに何であんな残念なビラを撒いたのかお姉さん不思議」
「それは忘れて下さいッス!」
「やるじゃねえかサヤカーン。本当にあのビラが悔やまれるぜ」
そういいながらサヤカの頭をクシャクシャと撫でる。サヤカは赤くなって照れる。
「そうでしゅよマナナ。サヤカーンは凄いんでしゅ。美味しいお菓子もいっっっっっぱい作れるんでしゅよ!」
アポロが自分のことのようにマナナに胸を張る。それが可愛くてマナナは、アポロをまたまた抱きしめる。
「凄いねサヤカちゃん。さっき言った私の言葉は撤回する。ゴメンね」
「沙織さん。撤回しないで大丈夫ッス。まだまだサヤカは三人に守られて実戦じゃ何も出来ないってよく分かってるッスから。サヤカはこれからも頑張って沙織さんの隣に立てるようになるッスから。待ってて欲しいッス」
「サヤカちゃん・・・」
沙織はサヤカの気持ちに涙が溢れそうになる。
「オイオイ。待っててくれって何言ってんだ?サオリンがババアになっちまうじゃねえか。今日だ。今日お前はサオリンと一緒に戦場に立つ。お前の望み、全力のサオリンをサポートするって訳にはいかねえが、今日が最初の一歩だ」
「いいんスか!?うん?でもだとすると・・・」
「ああ、そういうことだよサヤカーン。でも今はまだ秘密だ。準備しておけよ。じゃあマナナ、今日は自宅で寝てくれ。夜に必ず行く。ああ、寝てていいからな。どっちかというとその方が良い。あと、窓の近くには近寄らないでくれ」
「なにそれ恐い」
「大丈夫だよ。東九条家でここより良いところを探すのは難しいって言われたんだろ?俺達を信用してくれよ。それと、ワリィがここから駅まで送るから一人で帰ってくれ。さすがに今日の夜って言われると時間がねえんだ。すまねえな」
「何言ってるの。私のために頑張ってくれてるんだから当然よ。ここからタクシーで帰るから駅まで送る必要もないわよ」
会計を済まし、店を出ると丁度タイミング良くタクシーが通りかかる。それをサヤカが大きく両手を振って止める。
「じゃあ夜、待ってるからね。アダム、また私にお姫様気分を味わわせてね♪」
「ああ、約束するぜ」
アーサー探偵団はタクシーを見送る。そしてアダムがボソッと言う。
「ナイトは俺じゃねえがな」