未来へ ⑰
「そうだサヤカ。誰も止められない。いや、西九条弘様なら止められると思うがお忙しい方だ。来てくれるか分からないし、来た頃にはもう・・・」
「“弘のヒロシは広死のヒロシ”ッスか、何か逆に会いたくなってきたッスね」
「やめて!」
今度は沙織が大声で否定する。
「その名前は出さないで」
沙織がガタガタ震えている。その尋常じゃない雰囲気に皆が黙る。
「・・・えっと、まあこれで阿修羅の剣の説明は終わりです。ですが、まだまだ私の知らない事も沢山あると思います。試練をクリアした時に阿修羅様と何か契約を交わすのかも知れませんし、沙織さんのお母様はお父様を止める術を持っていたのかもしれません」
「そうかもしれませんね。お父さん、お母さんだけは怒らせないようにしていたみたいだし、もしからしたら阿修羅化したお父さんより強かったのかも・・・」
「そっそうかもしれませんね」
白百合はスサノオナックルをチラッと見て言う。
「なんだアリタン、このナックルもそんな凄え力があるのか?それともこれが阿修羅の剣を止めるキーなのか?」
「いや・・・その・・・」
「白百合さん教えて下さい。恐くなっちゃうじゃないですか」
「・・・沙織さんがそう言うなら・・・これはスサノオナックルというものなんですが、私もよく能力は知らないんですが、一つだけ超有名な能力があるんです」
「「「超有名な能力?」」」
「これにはスサノオ様の力が宿っているのですが、スサノオ様の娘 スセリビメ様を知っていますか?出雲大社の祭神である大国主命様に嫁いだのですが、大国主命様は浮気性でしてね。スサノオ様はそんな大国主命様にカンカンなのですよ。だからこのナックルは、浮気した旦那に罰を与えようとする妻に力を与えてくれる能力があるんです。ちょうど瀕死の重傷になるらしいです」
「浮気・・・」
場がしんと静まりかえる。アポロだけがその状況が分からず、どうしたの?どうしたの?と言いたげにキョロキョロしている。
「いやっ浮気をした訳ではないと思いますよ。女性とお酒を飲む店に行ったとかですね、それでもスサノオ様にとってはアウトだと思いますから。そっそれに良い考えだと思いませんか?お父様が阿修羅化したとしてもスサノオナックルで瀕死の重傷を負わせれば阿修羅の剣を取り上げることなんて簡単ですからね。いやーーーーーっさすが沙織さんのお父様お母様、素晴らしい策です。ハハッハハハッ」
白百合の乾いた笑い声が部屋に響く。
「そっそうだな。やるじゃねえかパパリンにママリン。この俺もその作戦にゃあ一本取られたぜ。自分の身を犠牲にして弱者を救う。これこそ西九条家だぜ」
「そっそうッスねアダム。サヤカと違ってなんて深い考えを持ってるんだとサヤカは猛烈に感動してるッスよ。沙織さんのお母さんも涙ながらにお父さんを殴ったに―」
アダムがサヤカの脚を蹴り、白百合が頭にゲンコツを落とす。
「いやっ使った事はないんじゃ無いですかねー。新品のように輝いていますからハハッ」
『お前は余計な事を言うんじゃねえ!だから考えが浅えって言われるんだ』
白百合が沙織のフォローをし、アダムはサヤカを叱る。
「三人ともありがとう。大丈夫よ。もしお父さんが大国主命様のように浮気者だったとしても、死んだ後も私を心配して降りてきてくれるんだよ。そんなお父さんを嫌うことなんてあるはずないじゃないですか。あの世でもお母さん笑っていたし、仲の良さも大国主命様とスセリビメ様と同じなんだと思ってます」
沙織は三人を真っ直ぐ見て笑顔で応える。
「そうですよ沙織さ~ん」
「綺麗な目をしてるじゃねえかサオリン。そうだな、パパリンが浮気したかどうかなんか関係ねえ。ツチグモと共に命を散らそうとしていたサオリンを助けに来た姿が本物だ。あの愛が偽物なんかのはずがねえ」
「そうだ!私は会ったことないッスから探偵事務所設立したってお墓に報告しにいきましょうよ」