未来へ ⑮
「そっそうですね。サヤカちゃんは会社員になりたいんじゃないんですもんね。軍隊のように厳しい戦いが待っている陰陽師になりたいんですもんね。何度もすみません」
沙織は白百合に頭を下げる。
「いえっそんな!?頭を上げて下さい。私は当主や皆さんの前でサヤカを冬休みが終わる前までに、荷物持ちが出来るくらいには鍛えあげると約束しました。その約束を果たしているだけですから。それに私が心から尊敬する沙織さんに出来る事なんてサヤカの教育ぐらいですから。もしサヤカについて何か心配な点がありましたら、東九条家総出で鍛えあげてみせますので何なりとおっしゃって下さい」
「本当に何から何までありがとうございます。大家さんからサヤカちゃんが成人式まで生きられないと言われてからアダムと一緒にどういう風に育てようかと悩んでいたんですけど、5日会わなかっただけで、見違えるように逞しくなって、白百合さん本当にスゴイです。私の方こそ尊敬します」
尊敬する沙織から、まさか自分の事を尊敬していると言われ、白百合は両手を口に当て感激する。
「そっそんな沙織さんから・・・今まで生きてきた中で一番幸せです。サヤカに半殺しにされた事が報われた」
「半殺し?ちょっどういう事ですか?」
「あっ・・・いえいえ何でもありません。教育係の私が不甲斐なかっただけですから気にしないで下さい。私の恥ですから。そんな事より沙織さん、引っ越しのお手伝いさせて頂いていいでしょうか?」
えっちょっと待って!私がおかしいのかな?最近半殺しがすっごく軽いと沙織は思った。サヤカが何をしたか気になったが、恥と言われては突っ込んで聞きにくい。それに5日間でサヤカをここまで鍛えあげた白百合に任せておけば問題無いだろうとスルーする。
「いや、むしろこっちからお願いしたいぐらいですけど・・・でも良いんですか?白百合さん程の実力者なら総本家でお仕事があるんじゃ・・・」
「大丈夫です本家の方は部下に任せておりますので、特にやる事はありません。それではお手伝いさせて頂きますね」
「はい、喜んで」
「おう、ありがとよアリタン。助かるよ」
「アダムさん、何でもおっしゃって下さい」
「アリタ~ン。抱っこして欲しいでしゅよ~」
「アポロさ~ん喜んで~~。ほ~~ら高い高~~~~い」
アポロは白百合に遊んで貰って、ゴロゴロと喉をならしてご機嫌だ。
「しょうがないわねアポロは~フフフッ。さあアポロも自分の机に入りきらない絵本を二階に持って上がるわよ」
アポロは散らかした絵本を集めるとともに、どれを机に残して置くべきか悩み始めた。
「あっそう言えば住居を二階にしたんですね?」
「ああ、金庫の事もあるし、普通店舗は一階で住居は二階だし変更したんだよ。その方が、階段を昇ることが難しい人も来やすいだろ」
「そうですね流石です。それで私の仕事ですが・・・アポロさんのお手伝いで良いですか?」
アポロは今まで机に入れていた絵本を全て引っ張りだし、床を絵本だらけにして悩んでいる。アダムと白百合はそれを見てクスクスと笑う。
「ああ、とりあえずそれでいいぜ。二階に散らかしたままの絵本やオモチャの片付けをしてやってくれねえか?アリタンと一緒なら喜ぶぜアイツ。それと一冊くらい絵本を読んであげてくれ。アイツ絶対読んでくれって持ってくるからよ」
「最高じゃないですか。私がアポロさんに絵本を読んであげたと言ったら、アポロファンクラブの人から羨ましがられますよ」
「ハハハッアポロは大人気だな」
「何を言ってるんですか。アダムさんは男からメチャクチャ人気ありますよ。いつも年末はダウンジャケットを着てる者が多いんですが、今はインバネスコートを着ている者が多いんですよ。もちろんアダムさんを真似してるんですよ」
「本当しょうがねえ奴等だな~。そんな格好だけをマネしてもよ~俺のカッコ良さをマネ出来る訳がねえだろチッ本当しょうがねえ奴等だな~また東九条家に行ってやるか~」
白百合の言葉が相当嬉しいのか、アダムの短い尻尾が右に左に高速に振れている。
「ええ、みんな喜ぶと思いますよ」
「本当、しょうがねえな~」
アダムと白百合が談笑していると、アポロがトテトテと近寄って来た。
「アリタ~ン。二階に持って行く絵本が決まったでしゅよ。ごめんでしゅけど少し持って欲しいでしゅよ」
「勿論ですよアポロさん。さあ行きましょうか」
二人は仲良く二階に絵本を持って上がっていく。