未来へ ⑭
「酷い?アダムさん酷いですか?」
「いいや。今ならスパイの交換とかあるが、昔はそんなもんないからよ、侵入に失敗した、正体のバレたスパイの末路なんて拷問の末に死ぬ以外なかったぜ。サヤカーン、お前は情報の奪取に失敗したんだ。成仏しろよ」
「そっそんな・・・サッサヤカちゃん」
沙織はサヤカに下された判決を聞いてガタガタと震えている。
「沙織さん落ち着いて下さい。おっおいサヤカ!本当は撲殺したいところだが、お前は初犯だからな、今回だけだ、本当に今回だけ大幅に減罰してやる。何がいいか・・・良いことを思いついた!」
アリタンに限って良いことなんて思いつくはずがないとサヤカは思ったが、合掌して沙汰を待つ。
「お前がいつも私にかけようとしているアーサー探偵団48の殺人奥義を試してやろうじゃないか。うん、それがいい。沙織さんにも見て貰って技の感想を頂きたいからな」
「ちょっ死ぬ―」
白百合はサヤカの言い分など聞く耳持たず、震えているサヤカに流れるような動きで技を極める。
「ギャアアアアアアア―」
「こっこれはアーサー探偵団48の殺人奥義 №1サオリンの得意技【紅茶ブリーカー】!!」
「サオリンの得意技でしゅ~~」
「コッコラ!だれが私の得意技なのよ!それにアーサー探偵団48の殺人奥義ってなんなのよ!初耳よ」
「得意技じゃねえかよ。いつもこの技で俺の腰を破壊しようとするだろ。それにサオリンが言ったんだぜ?俺にこの技を初めてかけたときに、『アンタの腹を割ったら紅茶が吹きだしてくるのかしら?あらっホットケーキにピッタリじゃない』ってな」
「あっ・・・」
沙織の顔が青ざめる。確かにそんな事言った気がする。
「でっでもこれだけでしょ!?48ってそんな・・・」
「えっ無いんですか?サヤカはいつも言ってますよ。私は沙織さんから奥義を全て受け継ぐんだって。東九条家では一時期、沙織さんが紅茶ブリーカー以外の奥義を出さないのは危険過ぎるからだって。その他の奥義をくらった47人はもう・・・」
「そうだな、47人は星になっちまったなあ~」
「サオリンのおかげでお星がたくさん増えたでしゅ~」
「殺ってない!殺ってないから!ちょっと二人共いい加減にしなさいよ!」
ギャーギャー騒いでいる内に、技をかけられていたサヤカは気を失う。
「むっ!もう落ちたか。フンッ」
白百合はサヤカをソファの上に投げ捨てる。
騒いでいた沙織が慌てて、サヤカの様子を見るために近づく。グッタリしていたが、オーラの流れも問題無く、ただただ気を失っているだけのようだ。
「白百合さん、やり過ぎです!」
「えっ?そうでしょうか。アダムさんからは半殺しまでは許可すると聞いていたのですが・・・」
白百合は助けを求めるようにアダムを見る。
「ああ、オーケーだアリタン。いつもありがとうな。俺達じゃ、ここまでサヤカーンを痛め付けられねえ。可愛い奴だからよ」
「あっそうだった・・・そっそれでも15歳の中学生にいくら何でもやり過ぎですよ!」
「沙織さん、お言葉ですがコイツは天才だが馬鹿なのです。考えが浅い。確かに経験を積み、同じく天才のアダム様と切磋琢磨すれば、いずれ私達の上に立つ者になるでしょう。ですが、何の罰もなしに許していけば、命の危険が伴う任務でさえ、何の罰もない練習の延長と考え、実戦の理不尽に押し潰され早々に命を落とすでしょう。それに何も好きで半殺しにしたい訳じゃありません。サヤカがこの状況を予測し、私から逃げる事が出来ていたなら、逆に褒めていたでしょう」
白百合は沙織の目を真っ直ぐ見て訴える。その後、沙織からサヤカへと視線を移して溜息をつく。
「だがしかし、現実は無様にのびている。自分は勝つと信じて疑ってもいないこの傲慢な性格を直さなければ、サヤカはもちろん、大勢の人間が巻き込まれて死にます。当主も言われているように成人式は迎えられない。沙織さんから酷い人認定されるのは大変、いや死ぬほど苦しくて泣きそうですが、私はサヤカのためになると信じています」
白百合はサヤカの前に座り、のびているサヤカの頭を慈愛に満ちた顔で優しく撫でる。その姿から沙織は、サヤカを護るという強い信念を感じる。それは本来、所長である私が持たなければいけないものだと恥じた。