未来へ ⑩
【ブーーーーー。パスワードが違います。東九条家に通報します】
「はあ!?ちょっ何でッスか。絶対合ってるはずッスよ」
サヤカは機械に向かって叫ぶ。その後ろで笑い声が聞こえる。サヤカが振り返ると、アダムが床に転がり腹を抱えて笑っていた。
「アダム!何をしたッスか!?」
アダムは笑いを押し殺し、どうにか立ち上がってサヤカに答える。
「ハハハハハハハッお前は本当に面白えな。いつも言ってるだろ?お前は天才だが馬鹿だって!こんな簡単な手に騙されるなんてな。笑いを堪えるのにブフッちょっやっぱ無理ヒャハハハハハハハハッ」
「チクショウ!これならどうッスか!」
「ブーーーーーーーー」
「じゃあこれなら!」
「ブーーーーーーーー」
「チクショーーーーーーー!!」
サヤカは本棚に両拳を叩き付ける。
「あーーーー笑った。それで盗聴器から仕入れたパスワードは品切れかい?」
サヤカが目を剥き、アダムを見る。何でその事を知っていると言いたげだ。
「盗聴器!?なに言ってんのアダム。今、東九条家の方が持って来たばかりじゃない?」
「サオリン、その東九条家に修行に行ってたのは誰だ?」
「そりゃそうだけど、修行に行ってたんだよ?こんな本棚関わることあるはずないじゃない?そもそも買ったことも知らないはずでしょ?」
「全くその通り。サオリンの言う通りだ。でもなサオリン、サオリンが知らないだけでこういう世界があるんだよ。そんな訳がない、あり得ないっていう人の心理の裏をつく情報戦がな」
沙織は、さっき二人がバチバチとやり合っていた事に合点がいった。二人はそれぞれがパスワードを入力する前にすでに準備を済ませていたのだ。