未来へ ⑧
サヤカの自信がどこから来るのか、沙織は全く分からなかった。この本棚兼金庫のパスワードは普通の英数字だけじゃなく漢字にも対応しているのだ。その組み合わせは無限と言っていい。その中から一つを選びだすなど、どんな天才でも出来るはずがない。沙織はそう思っていたが、アダムはそう思っていないようだった。沙織は、、自分のような凡才など付けいる隙などないと静かに見守る。
「楽しみだ。久しぶりに血湧き肉躍るぜ」
サヤカとアダムの間にバチバチと火花が飛ぶ。
サヤカからしてみれば、東九条家の食堂でこめかみに銃をぶっ放された借りを返す気満々であり、アポロはアポロで、まだまだヒヨッコの部下に負ける訳にはいかねえ、絶対返り討ちにしてやるとギラギラした目をしている。
「クックックッ、アダムに降参と言わせる日がこんなに早く来るとは思わなかったッスよ」
サヤカはコートの中から医者が手術の時に使用するようなピッチリ指に密着する手袋を出してはめる。その後、シールのような物をまたコートの中から取りだし、それを手袋をはめた人差し指に貼った。それから何やらブツブツと独り言を言ったかと思うと、準備が整ったのか、サヤカはニヤリと笑い、その指を指紋認証装置の上にのせる。
「ピッ西九条沙織様、認証完了しました。続けてパスワードを入力して下さい」
「ちょっと何で?何でサヤカちゃんが私で認証されるの?」
「フンッやるじゃねえかサヤカーン!霊紋までクリアするとは驚いたぜ。まあ1個くらいセキュリティーを突破して貰わねえと面白くねえ。俺達は探偵事務所をやるんだ。泥棒の手口くらい熟知しとかねえとな。それとサオリンお前、サヤカーンにクリスマスプレゼントあげた時にメッセージカードとか付けなかったか?」
「ええ、付けたわよ」
「それだよ。サヤカーンはそれからサオリンの指紋を採取したんだよ。メッセージカードから指紋を採取するなんてやるじゃねえか」
「サヤカにかかれば造作も無いことッスよ」
「じゃあ霊紋はどう言う事?」
「方法は分からねえが、さっきサオリンはサヤカーンと握手していたな。そして体勢を崩した。サオリンがだ。まあサヤカーンが手をブンブン振るからサオリンは体勢を崩したと思ってたが、霊紋をクリアしたなら話は別だ。サヤカーンが出来るのか疑問だがドレインタッチ、相手からオーラを吸収する術を使われて膝が抜けたんだと思うぜ」
「ドレインタッチ?あの死霊とかが使う技をサヤカちゃんが!?」
「手をブンブンと振ったのはサオリンに気付かせねえためだろうな。それでサオリンから抜いたオーラを今度は手袋に纏わせて霊紋をクリアしたんだ。違うかサヤカーン?」
「さすがアダムッスね~。やっぱり相手にとって不足はないッス。でもアダムの言う通り厳密にはドレインタッチとは違うッス。サヤカの相棒に手伝って貰ったんスよ。さっきからギャーギャー五月蠅いんスよ。『お前はなんつーオーラを吸収させんだ!』って。沙織さんのオーラに触れられたんだからそこは喜ぶところでしょうがってケンカしてる最中ッスよ。まあ後日詳しく話をするッスから突っ込むのは勘弁してくださいッス」
「ハッやるじゃねえか。東九条家の最新技術をこんなにもあっさりクリアされちまうとはな。まあ俺はサヤカーンが頼もしくなってくれりゃあ文句はねえ。東九条家にも奥義とかあるだろうから無理に説明しなくていいぜ。そこを根掘り葉掘り聞けば信用を失っちまうからな。これからも頑張ってくれ」
「ありがとうッスアダム。あと、心配しなくていいッスよ。霊紋チェックをクリア出来る奴がいるなんて聞いた事ないッスから。日本全国の優秀な陰陽師が集まっている総本家でもそうなんスから。安心していいと思うッス・・・でも今回は相手が悪かったッスね。この天才サヤカに不可能なんてないんスから!アダムはまだ余裕そうッスね。その顔すぐに青ざめさせてやるッスよ」
「ケッひよっ子が言うじゃねえか。無限の組み合わせがあるこのパスワード、破れるもんなら破ってみやがれ!」
「フフフッじゃあいきますか」