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サヤカのクリスマスウォー ⑲

時は白百合がサヤカに呪いを押し当てた直後に戻る。


サヤカはいつまでも続く痛みに悶絶し続けている。白百合は、動かない脚を引きずりながらサヤカに近づく。


「痛いか?今楽にしてやる」


そう言うと白百合は、床で悶絶しているサヤカの上体を起こし、優しく抱きしめる。そして術式を唱える。


「術式 吸呪 サヤカの呪いは私の呪い。呪詛転移」


何重もの印を組み、サヤカの呪いを全て受けるためにもう一度サヤカを抱きしめる。今度はまるで残り少ない歯磨き粉の残りを押し出すかのように、強く強くサヤカを抱きしめる。

サヤカの身体に覆い被さっていた分厚い呪いが徐々に白百合に移っていく。


「サヤカ、聞こえているか?聞こえるわけないか、魔境で戦っている最中だものな。まあ都合が良い。お前に、増幅が必要な事や負の感情以外でも呪いを飛ばすことが出来ると言わなかったのは、負の感情を使用する呪いを多用させるためだ。お前が自信満々で見せてくれた呪詛玉も私の予想通りだよ。他から集めて来てくれればさらに自分の闇に囚われるだろうと思っていたから都合が良かった。そして今日、お前は闇に侵食されて飲み込まれる寸前だった。他の事では何度驚かされたか分からんが、一番重要なこの一点において、私は天才のお前を凌いだぞフフフッ。お前は天才だから、難易度が上がるが負の感情以外でも呪いを行使できたかもしれない。でもその場合、闇のサヤカもゆっくりと力をつけていってしまう。正直に言おう。私はお前が恐かったんだ。


ここで修行をして、様々な知識や技を身につけていくのと同時に、力を増していく闇のサヤカに果たして勝てるのか?だから私はお前を痛め付け、負の感情を暴走させ、闇のサヤカを早期に顕現させた。普通こんなにハッキリと顕現する事などありえないのだがな。天才故に深淵を覗きすぎたのだろうな。全くお前は普通はこのラインを飛び越えたらヤバイんじゃないかと躊躇するところを、走り幅跳びの踏切線だとでも思っているのか思いっきり飛び越える。こっちはたまったもんじゃないククククッ。


・・・サヤカ、すまなかった。お前に必要以上の苦痛を与えることになったのは私の力不足だ、許してくれ。しかし、ここに来てまだ一週間も経っていないのに、私をここまで追い詰めるとはな。私の目は間違ってなかったという事だ。それにやり方は正直私好みではないが、藤森部長ならA評価を貰っているだろうな。・・・・・お前はまだまだ経験が足りない。頭でっかちで何事も自分の思い通りになると思っている馬鹿だ。これからビッシビッシ鍛えてやるからな。まあ、こんな事を言っている私も自分は強い、最強だと自惚れていたのを藤森部長に叩きのめされたんだがなフフフッ」


白百合は世間の広さを知らず、調子に乗っていた過去の自分を思い出し笑う。


「サヤカ、お前は強くなる。今は安心してゆっくり休め」


白百合は、サヤカの耳元で優しく囁く。サヤカを覆っていた呪いの全てが白百合に移った。

白百合は立ち上がり、ゆっくりと歩いてサヤカから離れる。そして吐血し、壁にもたれ掛かる。

身体は震え、明らかに異常な状態になっている。呪いが勝つか白百合の精神力が勝つかせめぎ合っている。


「ぐっぐふぉ」


また吐血する。しかし白百合はそれでもゆっくり歩いていく。


「陰陽賭博会公式戦 白百合対サヤカの呪詛合戦 勝者は白百合。お前が任務以外で封印を解除するとは予想外だったぜ」


いきなり五十嵐が白百合の前に現れて宣言する。


「何が勝者だ。私はそんな賭け試合などやった覚えはない。封印を解いたのが気に入らんなら、勝手に私の負けでも何でもしたらいいだろう」


「まあまあ白百合怒るなよ。ほら肩貸してやるから。行くんだろ?浄化陣に」


「いらん。触るな」


白百合は五十嵐目がけて突きを放つ。しかし力のこもっていないその突きは五十嵐にあっさり止められてしまう。


「オイオイ。お前は俺に一度も勝ったことがないのに、今のコンディションでやる気か?勘弁してくれよ。こう見えても俺は近接呪術部部長よ」


五十嵐は左手の指をパチンッと鳴らす。すると白百合は糸が切れたように崩れ落ちる。


「おっとっと。重たいね。よっこらせっと」


五十嵐は白百合を担ぎ、そしてスマホで連絡を取る。


「藤森、準備出来てんだろうな。今すぐそっちに行くから。かなりヤベエ状況だ。気合い入れて浄化しろよ」



当主は、アリタンとサヤカの決闘の結末を嬉しそうに眺めている。


「陰陽賭博会の真の目的、魔王の発見。陰陽師同士の火種を見つけ、煽り、争いを起こし、陰陽賭博会が禍根を残さないように仕切り、パーティーのような賭け試合をさせて憎悪を昇華させる。その争いの中から魔王の目覚めをいち早く察知し、暴走を防ぐ。・・・魔王の器、名刺を見た時はまさかこの子が?と疑問に思ってましたが、いやはや当主は見る目がある。我々が探し求めていた者がやっと見つかりましたね」


遠視の術をテレビに投影して一緒に戦いを見ていた藤森が言う。


「フフフッでも白百合は私より早く気付いていたみたいだけどね。サヤカはパーフェクトだ。道真様の智と怨を併せ持っている。藤森、分かってるな?サヤカを決して闇落ちさせるんじゃないぞ。魔王の器の力は制御してこそ、この東九条家を束ね、そして日本を守る大きな力となる。暴走を抑える鞘として白百合を鍛え直せ」


「仰せのままに。おっと失礼」


藤森のスマホが鳴る。


「それでは当主、今からアリタンの浄化に向かいますので失礼します」


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