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サヤカのクリスマスウォー ⑯

「くっ卑怯だぞ!」


「卑怯?何がッスか?アリタンは言ってたじゃないッスか。『私にどう勝利を収めるか楽しみだよ』って。それは勿論、こういう状況も想定していたでしょ?サヤカ達がやっているのはスポーツじゃないんスから。むしろその逆、スポーツマンシップの反対、呪い合い殺し合う呪詛合戦なんスからね。買収、脅迫なんて可愛いもんッスよクケケケケケケケケッ」


「クズが!周りを貶めて犠牲にしやがって。それに買収だと?お前にそんな金がどこにある!」


「ああお金ッスか。そうなんスよ。サヤカにはお金が無かったッス。拉致られたも同然だったッスからね。だから氷狼デリバリーの報酬で後払いすることも考えたッスけど、借金なんてしたら、沙織さんに恥をかかせる事になって、サヤカ陣営に引き入れる際の説得に違和感を覚えられたら嫌ですし、それと流石にそんな事をすれば何でもありって事になると思ったから、自分で百万円稼いだッス」


「かっ稼いだだと?一万や二万ではないんだぞ!三日でどうやって百万も稼いだ!」


「サヤカも悩んだッスよ~。でもさすが上司ッス。良いヒントを与えてくれてたッス」


「上司?・・・アダムさんの事か。そう言えばアダムさんが新商品を開発したとかで、次の任務には新装備として支給されるとか。まさかお前も」


「チッチッチッ。サヤカは元スパイのアダムのように機械に精通してないし、戦闘に関してはまだまだ素人ッスから、時間があるならまだしもそんな事は無理ッス。だから桃宮先輩を頼ったッスよ」


「もっ桃宮だと?あのブラックホールと言われる研究室に行ったのか!」


「えっ?ちょっと待つッス。なっ何スかそれ?」


「お前知らずに行ったのか!?あの研究室、ブラックホールに入れば、光すらも重力に囚われて外に出られない。すなわち、あの研究室には希望などない、ただ絶望だけが待っていると恐れられているんだぞ」


「チックショオオオオオオオオオーーーー!当主に頼ったのが馬鹿だったッス。何回、冷凍と解凍されたと思ってるッスか。マグロじゃねえんスよサヤカは。最後の方はいっそ、寿司屋に卸してくれと思う程ツラかったんスよ。あいつ知ってて紹介しやがったッスね!」


サヤカは当主に対してありったけの呪詛を吐く。


「当主は後でぶっ殺すとして・・・さてさてアリタン、呪いについての答え合わせをしましょう?」


「なにっ?」


「アリタンが呪いを勉強しろって言ったんじゃないッスか。サヤカは一生懸命勉強したッス。図書館にあるサヤカに閲覧許可が降りる本は全て」


「何?全部読んだだと!?お前の閲覧許可レベルは最低のDランクだったな。それでも読める蔵書は200冊くらいあるだろう」


「まあそうなんッスけど、殆どパラパラ読みで良かったッスからね。受験の参考書と一緒で結構同じ事書いてたッス。あと別角度で書いただけの本とかッスね。真に読むべき本は四十冊くらいだったッスかね」


白百合は息を飲む。その蔵書は現代文で書いておらず、本の性質上、丁寧にも書かれていないのだ。そのため東九条家に入門した当時の白百合は、睡眠時間を削って読んだにも関わらず半年かかった。


「さあアリタン、そんな事より呪いとは?サヤカは一生懸命考えたッス。呪いの本質的部分である想いのエネルギーとは、心が動くことによって生じるエネルギーッス」


白百合は静かにサヤカの説明を聞く。


「簡単に言えば喜怒哀楽全ての感情から生じるもの。普通に生活してるだけで生じるエネルギーッス。その中でも負の感情から生じるエネルギーを利用したものが、私達が知る一般的な呪いッス。ただ、人には理性があるッスから、多くの人は人を殺すとか思っちゃいけないと、自分を律してスポーツとかで昇華してしまうッス。昇華出来ない人は、負の感情が身体に貯まっちゃって自分に呪いをかけてしまうことになるッス。そんな時アリタンから神社の話を聞いたのを思い出して、なるほど神社は負の感情を昇華出来ない人が、それを昇華する場所でもあるんだと心から納得したッスよ。


そんな結論に至った時、サヤカは思ったッス。じゃあアリタンに勝てないって。例えば愛する家族を通り魔に殺された人から生じる負のエネルギーは相当な物だと思うッス。ちょっとくらいスポーツしたところで焼け石に水なくらいにはね。けど、当然普通の人は、それを相手に放つ技なんて知らないから自分の内に貯めてしまうッス。


さっき言ったッスけどそれは自分に呪いをかけてる状況になってるッス。だとしたら、やり方が不十分だとしても強烈な憎悪によって何割かは死んでしまってもいいはずッスよね。でも実際はそうじゃない。被害者遺族の何人かは死んでいくなんて聞いたことがないッス。想いが人を死に至らすには何かが欠けているのか?そう思ったとき、アリタンがこう言ってたのを思い出したッス。『呪いをかける者の魂は清くなくてはならない』って。


これは自分で考えてビックリしたッスね。さっき呪いは負の感情を利用したものって言ったッスけど、もしかしてアリタンは負の感情なんて使って無いんじゃないか。教えて貰った縛縄の術と一緒で、自分のイメージを何らかの方法で増幅して呪いとして飛ばしてるんじゃないかって。だから最初の日にのろいと、おまじないの字面が似てるとサヤカが言った時に、意味合いが正反対なのに同じようなものとポロッと言ったんだと思うッス。だとすると、ただ単に殺したいと想うだけでは人は殺せないんじゃないか。すなわち、人が人を呪い殺す想いの必要量は、個人がどれだけ相手を憎んでも用意出来ないんじゃないか。だから遺族は死なないんじゃないか。・・・・・サヤカが導きだした【呪い】とは、使用する想いは何でもいいッスけど、それを増幅することが必要。そして、スナイパーの話から、増幅したエネルギーのロスをなるべく低く抑えながら何らかの方法でターゲットに当てなければ意味がない。そしてその方法を知らないサヤカがアリタンに勝てる道理はない。そう結論づけた時、サヤカはアリタンを憎んだッス。でもこんな憎しみでアリタンを殺すことなんて出来ないッス。そ~こ~で~借りてきました~~~~~~~♪」


サヤカは右の掌を上に向けるとそこに直径六十センチ程の黒く蠢く物が現れた。多くの人たちから集めた悪意を束ねた呪いを白百合に見せる。


「ジャ~~~ン!どうッスかこれ?サヤカが一生懸命集めた悪意ッス。集めるの苦労したんスよ。アリタンのやり方が分からないッスから、地道にコツコツとみんなの不平不満を聞いて束ねていったッス。見とれるほど綺麗ッスよね。」


蠢く物は白百合に向けて今にも飛びかかっていきそうに触手を出している。実は補助人達もアッサリと寝返りや買収に応じた訳ではない。真相は、この黒く蠢く呪いの塊を見せられてサヤカの側についたのだ。西九条様に申し訳ないというのは、理由の半分であり、ていの良い言い訳にすぎない。特にランドセル買ってあげ隊などのオーラを扱えない者達にとって、呪いの塊などは恐怖でしかなかった。触れたら死ぬ致死の毒。普通、それを扱う者にも躊躇が感じられるものだが、サヤカには一切それが感じられなかった。そのためランドセル買ってあげ隊は、あっさりとサヤカが用意した言い訳と買収案に飛びついた。


ミルク連盟も、「こんなものをぶつけられれば四人の内三人は死ぬ、いや全滅もあり得る。割が合わない」と思っている所に、ランドセル組と同じ提案を受けた。さらに『この理由なら、サヤカが負ける方にかけた人達も、あまり大きな声であなた達を批判出来ないッスよ』とそそのかされ、サヤカの軍門に降った。


あと、恐怖の余りサヤカを攻撃する補助人の役割を放棄して逃げた者達も、サヤカが早朝に長井から受け取った余った発信器を、サヤカの前で腰を抜かしている間に仕込まれ、いくら逃げようとも、サヤカが目の前に何度も現れ、精神的に追い詰められていった。さらにトドメにビラを撒かれ、周囲の人間に二人の西九条様に対する恩知らずな態度を広められて逃げ場がなくなった。二人の取れる選択肢は、もう棄権するしか残っていなかった。そして・・・


「陰陽賭博会に棄権を申し出るなんて、つまらない事はしないで欲しいッスね~。このビラの件、サヤカにちょっと力を貸してくれたら、これはサヤカの誤解であったと、むしろこの二人は西九条様を手助けしている感心な若者だったと、あなた達の地に落ちたイメージを180度変えてあげるッスけどどうッスか?」と逃げ道を用意してあげると二人はそれに飛びつき、ほぼ強制的にサヤカ陣営についた。これが、補助人全てがサヤカの味方に回った真相である。



「さて、これを直接ぶつけることが出来れば、サヤカが想いを増幅する方法やターゲットに当てる方法なんか知らなくてもいいと思わないッスか?いくら術や技術を駆使しても、今のアリタンがこの巨大な憎悪の塊を何とか出来るとは思えないッス。安心して欲しいッス。すぐに地獄に行けるッスよ。ああ、サヤカの事は心配しなくても大丈夫ッス。アリタンが死んで、これが返ってきても、今のオーラの差があれば、少しの間は耐えることが出来るッス。あと・・・二分ッスね。二分後キッカリにここに補助人と陰陽賭博会の連中が集まるように手配してるッス。アリタンを助けられては困るッスからねキヒヒッ。その後、耐えていれば、いくらサヤカを毛嫌いしようと陰陽賭博会の目があるから、補助人達はサヤカを助けざるを得ないッスキヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」


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