表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/292

サヤカのクリスマスウォー ⑮

白百合が、部屋のすぐ近くまで来た時、声を掛けられる。


「白百合主任ここにいたんですか?明日のスケジュールなんですが・・・」


白百合は一瞬ビクッとしたが、自分に声を掛けたのが部下の陰陽師、花村だったことに安堵する。ホッと息を吐き、気を緩めて、『そう言えば明日、何があったっけ』と思い出しながら、部下の目を見る。直感、長年呪詛を行う者を見てきた経験が、花村の目に濁りを見る。


白百合は花村の腹に思いっきり蹴りをぶち込む。花村は胃の中の物を撒き散らし、床に体を打ち付けながら転がり悶絶する。


「花村・・・貴様!」


白百合が部下を蹴った左脚には麻痺の呪符が貼られ、全く動かない。白百合は壁にもたれ掛かり、何とか倒れ込まず耐えている。


「どこだあいつは!サヤカはどこだーーー!!」


そう叫んだあと、白百合の部屋のドアがゆっくりと開く。そして中から上下漆黒の服を着た者が出てくる。そうサヤカだ。


「サヤカ・・・貴様~!!」


「ア~リタン♪そんなに私と会いたかったッスか?大声で呼ぶから出て来てあげたッスよ。どおッスかこの喪服?アリタンの為に用意したんすよ♪」


そう言いながらサヤカは今も悶絶している陰陽師に近づき、しゃがみ込んで声を掛ける。


「大丈夫ッスか?花村先輩」


「サッサヤカ・・・おっ俺、西九条様に無礼を働いた罪は、償えた・・・かな?」


サヤカは花村の手を、両手でキツく握って答える。


「当たり前じゃないッスか!花村さんの勇姿、このサヤカが見届けましたッス。輝いていましたよ。花村さんの犯した罪の汚れなんか、花村さんの穢れ無き魂から放たれる輝きで、かき消えましたッス」


「ハハ・・・良かった・・本当に良かった・・・」


「花村先輩、ゆっくり休んで下さい」


サヤカは、死んだ者にするように手で瞼を閉めてあげる。


「コラ!死んでない!花村は死んでいない!お前は何をしている!」


「死んでない?アリタンにはそう見えるッスか?花村先輩は西九条様を守るという自分の心の中の聖戦に殉じたんッスよ」


「聖戦だと?」


「賭けをしている事はもちろん知ってるッスよね?花村先輩はサヤカを襲ってきたんスよ。人望があるんスねアリタン。花村先輩はアリタンが不利なのを察知してサヤカを早く倒そうと襲ってきたッス。まあ返り討ちにしてあげたッスけどね。でも花村先輩は罪悪感で一杯だったんス。聞いたら昔、沙織さんに助けられたみたいッスね。だから言ってあげたッス。『花村さんはアリタンに対して十分義理は通したッス。じゃあ今度は大恩ある西九条様に報いる番じゃないッスか?この罪を償うには、サヤカの敵であるアリタンを襲うしかないんじゃないッスか。でも西九条様は優しいお方ッス。大した事をする必要はないッスよ。この札をアリタンのどこかに貼れば、花村さんの罪は許され昇華されるはずッス』とアドバイスしてあげたんス」


サヤカは、白百合の脚に貼られた札と同じ物をポケットから出し、ヒラヒラさせながら笑う。


「誰にも分け隔て無く優しい花村の綺麗な心を利用しやがってこのクズが!そもそもその賭けをそそのかしたのもお前だろが!お前は花村の心を操り、もてあそび、利用したんだ!」


「そうは言ってもサヤカは陰陽賭博会の提示するルールを守っているッスよ?今回の賭けは、手助けするのはありなんすよアリタン。その証拠にサヤカには沢山の協力者がいるッスよ。アリタンには花村さんしかいなかったみたいッスけど。まあ最後にはサヤカ側についたんでアリタンを手助けしてくれる人は実質0人スね。クククククククククッ」


サヤカはニヤニヤしながら、わざとらしく辺りを見渡して言う。


「言っとくッスけどズルはしてないッスよ。そんなズルしたらサヤカの信用、はてはアーサー探偵事務所に傷がつくッスからね」


「ハッ!そうか貴様、何ということを思いつく!」


「やっと気付いたッスか。でもサヤカが何かした訳じゃないッスよ。ただ皆が私を追い回して西九条様の不興を買いたくないだけなんじゃないッスか?」


「沙織さんを出汁に使いやがってーー!!」


白百合の額に青筋が限界まで浮かび上がる。


サヤカはアリタンに悪い顔をする。そう手助けありルールは、事実上サヤカにのみ有利に働いていた。サヤカは先の撮影会で沙織に対する東九条家の心情を把握していた。しかし、それでもサヤカに攻撃をしかける者がいなかった訳ではない。そんな時、サヤカはこう言うだけで良かった。


『サヤカは西九条沙織さん率いるアーサー探偵事務所の一員ッス。間違ってもこんな事で負けて沙織さんの顔に泥を塗るわけにいかないッス。さあ掛かってくるッス!』


それを聞いて『そうだ。大恩ある西九条様に泥をかけるなどありえない』と数人が立ち去った。また『西九条様に逆らっては東九条家で生きにくくなる。割があわん』と悩む者達にはサヤカが買収案を持ちかけた。そして西九条様に敵対してしまったと良心の呵責に悩む者達には、『確かにあなたは西九条様に刃向かったとんでもない恩知らずッス。だけどまだ終わってないッスよ。サヤカはあなたの力を必要としてるッス。あなたの力が、あなたの一押しがサヤカを、西九条様を勝利に導くッス』と手をとり、その者の罪悪感を煽りながら英雄願望を刺激し、サヤカ陣営に引きずりこんだ。



白百合は、聞くに堪えない言葉を紡ぐサヤカ目がけて呪いを放つ。しかし白百合の攻撃は、サヤカの前に見えない鏡でもあるかのように反射される。帰って来た呪いを白百合は急いで祓う。サヤカは何もしていない。サヤカを守りたいと思う者達から結界を張って貰っているからだ。


その者達とは、サヤカの前から立ち去った者達だ。サヤカがそんな鴨ネギを逃がすはずがない。サヤカはその者達を追いかけ、昨夜パソコンで九割がた作った資料に、その者達の事を書いてばら撒いた。ビラにはこう書いてあった。【西九条様が、会社を盛り立てようと青森で死にそうになりながら頑張ったのに、その従業員の足を引っ張り、倒産に追い込もうとする外道の安西、非道の大西。この西西にしにしコンビを断固糾弾すべし!!】二人は、すぐに協力を申し出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ