サヤカのクリスマスウォー ⑫
暗い部屋の中、サヤカはゴーストウォッチを見る。長井が白百合のスーツに取り付けた発信器は正常に作動しているようだ。アリタンの動きが手に取るように分かる。
「クククククククククッお疲れさまッスアリタン。いくらサヤカを探しても無駄ッスよ。さて、そろそろ次の指示を送るとするッスかね。次は強いッスよハハハハハハハハハハ―」
白百合はサヤカを求めて歩き回る。しかし、広大な東九条の敷地、簡単に見つかるものではない。サヤカの居場所を、通りを歩く者達に逐一聞くが有用な情報は得られない。
「チッ、サヤカの事だ、何か考えてるはずだから、あいつが何かしても直ぐに対応出来るように、目視出来る状態で呪いをぶつけたかったが仕方がない。場所が分からないと威力は落ちるが・・・」
そう独り言を呟きながら、白百合が呪いを発動させようと適当な場所を探して歩いていると、突然地面が消える。
「なっなにーーーー!」
白百合は一瞬慌てたが、すぐに召喚できる防御術式、土楯を自分の足下に発動させる。幸いな事に、落とし穴の下には竹槍が牙を剥いているということはなかった。という事はと、白百合は意識を上に向けると同時に土楯を召喚する。
ドガンッ
間一髪、土楯が間に合った。何が楯に当たったのか分からないが、山本の呪いを祓った時に受けた傷、ミルク連盟から受けた傷に衝撃が走り、白百合は悶絶し、膝をつく。しかし休んではいられない。土楯が先程の攻撃により大きく損傷してしまっている。もう一度同じ攻撃を受ければ、良くて楯が壊れるだけだが、悪ければ楯を貫通し、白百合は甚大なダメージを負うことになる。白百合は痛みに耐え、土壁をもう一度素早く召喚する。
ドガンッ
召喚した瞬間、先程と同じように骨まで響く衝撃が白百合を襲う。この攻撃でさっき防御に使用した土楯は粉々に砕け散った。
白百合は今度の攻撃には膝をつくことをせず、敵、さらには攻撃手段を見極めようと土楯から顔を出し、空を見る。
そこには、陰陽師が四人いた。
「白百合、お前は完全に包囲されている。絶対的不利な位置関係と、我らの土術式【土竜兵の突撃】による一斉攻撃でお前はミンチになる。しかし我らミルク同盟も鬼ではない。お前が投降さえすればこれ以上の攻撃は加えない」
「次はミルク同盟だとぅ。ミルクのクズ共が!」
白百合の額に青筋が何本も浮かび上がる。
「さあ早く両手を挙げて投降しろ!」
白百合はスーツの内ポケットから鳥形の式紙を四枚出す。式紙はその形に合わせた生物を簡易に召喚できるアイテムである。白百合はそれらを扇形に広げて唱える。
「我が親愛なる土梟。式紙に宿りて、上にいるミルク同盟を抹殺せよ!」
すると式紙が光りだし、周囲の土を取り込み、梟の形を形作る。そして一斉に土楯から飛び出して行く。
「!!ッ撃て撃て!」
ミルク同盟が放った四発の土竜兵の突撃は、憐れ、土竜の天敵である梟の強靱な脚に握りつぶされる。そして勢いは止まらず土梟はミルク同盟目がけて飛翔する。
「「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ」」」」
白百合は土楯から上を覗き見る。誰一人見下ろす者がいないことを確認すると、土楯を消し、勢いよく穴の壁に向かってジャンプし、三角飛びの要領で一気に穴の外に出る。
そこで白百合が見た物は、白百合が放った土梟によりミルク同盟お揃いの白の道着が、汗と血で所々イチゴミルク色になったクズパパ共の姿であった。
「白百合、ギブ、ギバーーーープッ」
必死で土梟を両手で掴み、これ以上肉をついばまれないようにしている姿を見て、白百合は憐れに思い術を解いてやる。それにこいつらミルク同盟の子供には罪はない。コイツ等が稼ぐミルク代がないとひもじい思いをするかも知れないと思うと、白百合はこれ以上追撃をすることが出来なかった。
「ふぅーーーっ助かったぜ」
「このクズ共が!お前等は降参したんだ。さっさと消えろ」
「ハイハイ分かったよ。白百合、すぐに攻撃をやめてくれたお礼に一つ良いことを教えてやるよ」
「良いことだと?サヤカの居場所でも教えてくれるのか?」
「違う違うそんな事じゃない。白百合、お前負けるぜ」
予想外な返答に白百合は目を剥く。そして両拳をギリギリと握りしめる。
「オッオイオイ!止めろよ。殴るなよ。俺は親切で言ってやってんだぜ」
「お前等ミルクのクズ共が何度襲ってこようとも私は負けない。その証拠にミルク連盟に続き、お前達も返り討ちにしてやっただろうが!」
「ミルク連盟?」
襲撃者の顔が、こいつ何を言ってるんだと言う顔から、しばらくするとニタ~ッと気味の悪い笑顔になる。
「ヒッヒッヒッ白百合~。やっぱりお前負けるわ」
「どう言う事だ!」
白百合は胸ぐらを掴み問い詰める。
「これは言えねえ。陰陽賭博会案件だ~面白くなってきたぜヒヒヒッ」
「クズが!」
白百合は、襲撃者を投げ捨てる。
その後、白百合は様々な団体から攻撃を受けることになる。