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サヤカのクリスマスウォー ⑤

「五十嵐さん、菅原と白百合がまたやり合うらしいですよ。でも今度は呪詛合戦みたいですよ」


「あっちゃ~マジか~。それじゃあ賭けに何ねえじゃねえか」


「そんな事ないッスよ」


サヤカは東九条家の賭け事を主催する人物、五十嵐の前にヒョイッと現れた。


「ああ?お前白百合を舐めてるだろ。あいつは強えぞ。どう足掻いたってお前は勝てねえよ」


「そうッスね。私一人だけなら無理ッスね。そこで手助けありの賭けにするのはどうっすか?」


「手助けあり?」


「そう、どちらにも手助けありにするんッスよ」


「どちらにもにしたら、お前の不利は変わんねえだろうが」


「そこは賭け事ッスからねフェアじゃないと。いくら何でもアリタンが東九条家の多くの陰陽師達を相手にして勝てる訳ないッスからね。手堅くもうけるならアリタンに賭ければいいし、大穴狙いはサヤカにかければ良いっす」


五十嵐はサヤカの提案に悩む。


「中々面白い企画じゃないですか五十嵐さん。やりましょうよ五十嵐さん!」

五十嵐の賭け仲間が乗り気で言う。


「そうでしょ。参加型の賭けッスよ。これは大きなお金が動くっすよ。東九条家の実力順を決める順位戦には及ばないにしても、参加者が多いッスからね。サヤカやアリタンは別にしてあいつが出るから賭けようっていう人もいると思うッス」


サヤカは悪い顔をする。

五十嵐は、まだ決められずにいるが、サヤカに伝える。


「わかった。最近面白い賭けがないからな。会員のストレスを晴らす良い賭けだと思う。しかしだ、さっき言った通り、お前と白百合では実力差がありすぎて話にならん。そこをどう調整するか、今から幹部と会議をする。議題は、お前と白百合との実力差をどう調整するかだ。そこで良い案が出なかったらこの話はなしだ。東九条家陰陽賭博会胴元として、くだらない賭けを主催しては信用に関わるからな」


サヤカはニヤリと笑う。そして言う。


「分かりました五十嵐さん。ただ会議の席でこれだけはお伝え下さい。勝つのはサヤカだと。そしてぶっ飛んだ展開、血湧き肉踊る結末を皆様に約束しましょうと」


サヤカの眼に、五十嵐はブルッと身震いを覚えた。そして賭け仲間に言う。


「今すぐ幹部を集めろ、菅原サヤカと白百合アリサの呪詛合戦賭博を開催する。議題はハンデの調整だ」





サヤカは当主に技術研究室へのアポを取って貰い、指定された時間に研究室に行くと、サヤカと同じくらいの年齢に見える青縁眼鏡をかけた女性が待っていた。


「待ってたよんサヤカちゃん。東九条家に来て一週間も経ってないのに有名になりすぎだよ。でも有名人はえてして早死にするもんだから気をつけてねん。二日後に死ぬってことはないようにねん」


サヤカに不吉な事をいいながらニコッと笑う。


「桃宮さんッスね。自己紹介の必要はないみたいッスね。二日後に死ぬかはここで百万円を稼げるかにかかっているッスよ。百万円分の仕事を早く教えて欲しいッス」


「ニャハハハッ元気がいいね~~。じゃあこっち来てねん」


そう言うと桃宮はスキップで自分に用意された研究室に向かう。


「さあサヤカちゃん。これが百万円の仕事だよ」


サヤカは机の上の物を見る。


「何スか?何もないッスけど?」


「これこれ。これだよん」


桃宮は指で透明なシートをつまみ上げる。


「火の護符のシートだよん。青森支部が開発したものだよん。今はこれを寒冷地の任務に赴く人の装備に利用してるんだけど、これを糸にしてボディースーツにしたのがコレだよん」


真っ黒のボディースーツがある。


「普通のスーツに、火の護符の糸を半分使ったものなのよん。これで軽量かつ、今までの防寒具よりも寒さに強くなったはずだよん。さあ実験始めるよん。さあサヤカちゃん更衣室はここだからとっとと着替えてねん」


桃宮にスーツを渡され、背中を押されて部屋の一角に簡易的に作られた更衣室に押し込まれ、カーテンを閉められる。


「ああ、青森支部で着たやつと同じようなもんッスね。それなら・・・」


「サヤカちゃん忘れてた。コレを顔にたっぷり塗っててねん」

手渡された入れ物の中には透明のジェルが入っていた。


「なんか気持ち悪いッスね。でも東九条家のやることッスから、たっぷり付けててと言われてちょっとしか付けなかったら命に関わりそうだからたっぷりと・・・何かサヤカも陰陽師の非常識に慣れてきたッスね~。これから普通なら凍傷になるくらいまで冷やされるんスね。この凍傷予防ジェルを念入りに塗り塗りっと。何をされるか予想できるようになるっていうのも、陰陽師の非常識に染まっちゃった感じがして嫌ッスけどね~」


サヤカは顔をしかめながら、「百万円のため、百万円のためと・・・」ブツブツ言いながらジェルを顔に付ける。準備を終えたサヤカは、シャッとカーテンを開ける。

そこにはガスマスクを被り、火炎放射器を持った桃宮がいた。


「うん、いいね。それじゃ行くよん」


「ちょっちょ―」


ゴウッ。


火が生き物のようにサヤカに纏わり付く。

突然の事に身動きがとれずうずくまる。


「うん、終了。火鼠の咆哮レベルでは問題ないっと」


カリカリと書類に実験結果を書いていく。


「予想を超えてきたわーーーーーー!!ちょっと待つッス。何でッスか?何でなんスか?何でサヤカはいきなり火炎放射を喰らわされるんスか!アダムに火炎放射器見せてもらった時に、肺が焼けるから息すんなって注意されてなければ死んでたッスよ!事前の説明を聞いたら、普通防寒がどこまで効くかだと思うじゃないッスか。何で焼くんスか?て言うかいきなり火炎放射器ぶっ放されてまだ敬語使えるサヤカってビジネスウーマンの鏡ッスわ!」


サヤカは全身から燻る煙をほおっておいて、桃宮に叫びながら問い詰める。


「そうだねん。サヤカちゃんはビジネスウーマンの鏡だね。いや~本当にみんなサヤカちゃんみたいに根性あればいいんだけどねん」


「違うッスそこじゃないんス。ビジネスウーマンの所は放置でいいんス。サヤカは褒めて欲しいんじゃないんス。何でぶっ放したか聞いてるんス!」


「えっどうしたのん?実験してるだけだよん?」


「聞いてねえッス!カーテン開けたら二秒で火ダルマって、サヤカは中学生ッスよ?桃宮先輩には良心の呵責って言うもんが聞けやーーーーーーー!!」


桃宮はサヤカが怒鳴っている隣で、さっきの火炎放射で消費した燃料を補充している。


「なに補充してるッスか!ビックリしすぎて流石のビジネスモードのサヤカも敬語が出なかったッスよ。そんな物騒なもんもうサヤカに見せないで欲しいッス」


「えっ?何言ってるの?今日は人体実験するんだよん?聞いてないのん?」


「えっ?」


「サヤカちゃ~ん。君はバイトしたことないの~。あっまだ中学生か。でもお正月にバイトで巫女さんを雇うでしょん。いくらで雇ってるとか知らないのん?多分千円くらいだよん。百万円を稼ごうと思ったら1000時間働かないと駄目なのよん。それを一日で百万円を稼ごうと思ったら普通のバイトじゃないと分かるよねん?勿論口止め料もこの中に入ってるからねん。余計な事を言わないことねん。それで今の火炎放射器実験で十万円分かな。次は、新開発のスーツは熱にも強い事が分かったから、次はカチコチになるまで冷やしてから、火炎放射器で一気に加熱しても大丈夫か試すよん」


そう言うと桃宮はサヤカに呪符を無造作に投げつける。その呪符がサヤカに触れた瞬間、バキバキという音とともにサヤカの身体が氷に包まれる。


「さあ第2ラウンド開始だよん!」

桃宮は無慈悲に火炎放射器のノズルをサヤカに向ける。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!せめてもう一回ジェルを塗ら―」


サヤカの渾身の願いも、自身を飲み込むように向かってくる炎から命を守るために息を止めざるを得ず、桃宮には届く事はなかった。



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