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サヤカのクリスマスウォー ③

「当主、アリタンメチャクチャッスよ。サヤカも売り言葉に買い言葉で呪詛合戦引き受けたけど途方にくれてるッスよ。今日、呪詛修行したんスけどやっぱりアリタン強いッス」


「ハッハッハー当たり前ヨ。総本家の主任ヨ。他の支部なら部長でもおかしくないヨ。いやアリタンなら支部長でも良いヨ。それに才能もあるネ。遠隔呪術部期待のホープヨ。簡単には勝たせてくれないヨ」


「でもそれじゃあ三日後サヤカは死んでしまうッス」


「それもまた人生ヨ。ハッハッハッハッハッ」


「笑い事じゃないッス!サヤカはここに修行に来てるんスよ。それが呪い祓いに失敗して死にましたじゃ、沙織さんはせっかく人生に希望を持ちだしたのに悪いし、東九条家も沙織さんやアダムやアポロを敵に回すつもりッスか。って言うか、なによりサヤカは死にたくないッス」


「そうネ。サオリン、アダム、アポロちゃんを敵に回すなんて考えたくもないヨ。ただ呪い合戦だから勝ち筋がない訳ではないネ」


「本当ッスか?」


「考えるヨ。呪いってなんなのか。この呪詛合戦で起こることは多少のことは目をつむるから。サヤカ、お前は生き残るために全力を尽くすヨ。楽しみにしてるヨ。あとここ総本家でミー以上に呪いに精通している人物を紹介しておくヨ」


大家は机の引き出しから名刺を取り出し、その裏に何やら書いてサヤカに渡す。


「これを持って、サヤカの実家の近くのワクドナルドに行って、店長にこの名刺を見せるヨ。きっと力になってくれるはずヨ」


「ありがとうッス」

裏を見ると


藤森へ

マジでアリタンに呪詛合戦を挑んでるヨ

おそろしい位の馬鹿だから、色々教えてあげて。

ウソじゃないヨ。だから助けてあげて欲しいヨ

                東九条武臣


「ちょっ馬鹿ってなんなんッスか!」


「ハッハッハッこの内容を見てそう言うのはサヤカだけだと思うヨ。東九条の人間が見ればこれでも足りないって言うと思うヨ。それぐらいアリタンは強いヨ。それにこれ位書かないとアリタンと戦うなんて信じて貰えないし、親身になってくれないと思うヨ。あっそうそうサオリンサンタからサヤカにプレゼントが届いてるヨ。一つはこれ、総本家にある技術開発局でアダムが既存の製品を組み替えて新開発した凄いアイテムヨ。これはアーサー探偵事務所所員の備品みたいヨ。とりあえずサヤカのために一個だけ早く作って貰ったそうネ。そしてこれはサオリンからヨ」


サヤカは大家からプレゼントを受け取り。まずアダムが作ったというアイテムの袋を破る。


「これは・・・スマートウォッチッスか?」


「チッチッチッこれはそんな物じゃないヨ。トランシーバーと霊的存在レーダーと位置情報レーダーを組み合わせたゴーストウォッチネ。これと同じ物を今、技術開発局で三個作ってるよ。それを装着した者と会話が出来るし、位置情報も分かる。誰かが霊などに襲われたりした時も警告音が鳴って知らせてくれるヨ」


「メチャクチャ凄いじゃないッスか」


「凄いヨ。だからそのアイデアをその時計二個分の値段二百四十万円で買ったよ」


「えっ?・・・こっこれ百二十マ~~~ン!」


サヤカはビックリしてゴーストウォッチを落としそうになる。


「その程度の値段、陰陽師業界じゃあ珍しくないよ。それよりサオリンのくれたプレゼントは何?」


「ああ、これは私が欲しかったトレンチコートです」


サヤカは、沙織が自分の欲しい物をプレゼントしてくれたことを喜ぶ。色も自分が欲しい色だった。サイズも打ち合わせ通り。サヤカは早速袖を通す。


「どうッスか?」


「似合ってるヨ。サヤカ、良かったネ。みんなお前が追いついて来るのを待ってるヨ。頑張るヨ」


サヤカの目頭が熱くなる。


「・・・・はい。必ず沙織さんが精霊化しても、何しても隣に立っていられるようになるッス」


当主はニッコリと笑う。




サヤカは、午後の授業を当主の多少の事は目をつむるという言葉を使って休み、電車を乗り継いでワクドナルドに向かう。


ワクドナルドに入ると、店長らしき人物がオーダーを取ったりと忙しく働いていた。


「いらっしゃいませこんにちは〜。ただ今ギガワックバーガーをお勧めしております。いかかでしょうか」


爽やかな笑顔で、その店長らしき人物がサヤカに対応する。サヤカは名札を見る。“藤森”間違い無い、この人だとサヤカは確信し伝える。


「すいませんッス。私は東九条家でお世話になっているアーサー探偵事務所の菅原サヤカッス。今日は藤森さんに呪いに関して質問するためにここに来たッス」


「ああ西九条様の・・・。でも今日は忙しくて、ちょっと時間が取れそうにないね」


藤森は爽やかな笑顔そのままに、サヤカの申し出を断る。


「そこを何とか!サヤカの命が掛かってるッス」


その言葉と同時に当主から貰った名刺を差し出す。

困ったなと苦笑を浮かべながら名刺を見た藤森が、裏に書かれた当主のメッセージを見て一瞬固まる。しかし、すぐに再び爽やかな笑顔を浮かべる。


「わかったよ。アリタンと戦うなんて君はネジが2、3本ぶっ飛んでるね。頑張って時間を作るから店内で待っててよ。あっちょっと待ってね。今は新商品のバナナシェイクがあるからそれを飲んでて。以前も販売してたんだけど、今回はさらに香りが良くなってて凄い美味しいから。ジュースも飲む?これから呪詛合戦するんだからカロリー取れる時に取っとこうか。このオレンジジュースも改良されて風味がよくなって美味しいんだよ」


サヤカは呪詛の話より、ワックの商品についての説明の方がウキウキしている藤森に不安を覚えたが、店内でシェイクとジュースを飲みながら藤森を待った。


「お待たせ。噂には聞いてたけど本当にアリタンと呪詛合戦をやるんだね。君、自殺志願者かい?」


爽やかな笑顔を崩さぬまま藤森はサヤカに問う。


「つい勢いで・・・」


「勢いで言ってしまったのかい?それなら今すぐアリタンに謝ることをお勧めするよ。アリタンの上司である僕が口添えすれば、この呪詛合戦はしなくてすむよ。どうする?」


サヤカの顔にパッと笑顔が咲く。しかしすぐに歯を食いしばり、手はさっきプレゼントされたゴーストウォッチとトレンチコートをギュッと掴む。


「呪詛合戦はやるッス!サヤカは沙織さんの隣に立ちたいんス。迷惑を掛けたいんじゃないんス。役に立ちたいんス」


サヤカの真剣な眼差しに藤森は頷く。


「分かった。それなら力になろう。西九条様には以前、申し訳無いことをしてしまったからね。その借りを君に返そうじゃないか」


「アザーーース。それじゃあアリタンの弱点を教えて欲しいッス」


「いっいきなりだね。まあ今回、アリタンは君を殺すつもりらしいし、必死にもなるか。じゃあ、このジュースとシェイクで説明しようか」


藤森の前にある自分用に持って来たオレンジジュースと季節限定バナナシェイクを指さす。


「君はアリタンの長所を知ってるかい?」


「ないッス。こんなピチピチでカワイイ十五歳の中学生を呪い殺そうってやつに長所なんてないッス」


「まっまあ君の言う事ももっともなんだけど・・・。でもそれじゃ話が進まないからね。さあ何がある?」

サヤカは考える。


「真面目なとこッスね。当主には真面目すぎるとも言われてたッス」


「そうだね。アリタンの長所は真面目で優しいところだよ」


「じゃあ短所はどこかな?」


「人の身体を痛め付けても、心に波風が一つも起きない鬼のような性格、

私を鞭打つだけでは飽き足らず、罵声を浴びせかけるクソみたいな性格、

盗撮を仰撮といって自分を正当化する犯罪者予備軍と言っていい性格、

私の服をズタズタに切り裂いて、それを写真に撮って売りさばこうとしたPTAも真っ青な性格。それと―」


「ちょっちょっと待って。最後のやつメチャクチャヤバくない?私がアリタンを問い詰めなくちゃいけない事案だよ」


「本当なんス。こんな仕打ちされているのに、さらに呪い殺されようとされているサヤカにどうか手を貸して欲しいッス」


「まっまあ確認は後でするとして。私の考えるアリタンの長所は真っ直ぐな性格だよ。そして短所は短気な所だね。ワックのジュースで例えるとアリタンはこのオレンジジュースだ。シャバシャバとしていてスッキリと爽やかな味で飲みやすいね。ではこのマックシェイクはどうだろう?はじめは凄く飲みづらいけど、一旦出てくるようになると結構飲みやすくなるし、シャバシャバなオレンジジュースにはない濃厚なネットリとした味わいがあるだろ」


二人はシェイクを飲む。藤森は「ああ~バナナシェイク最高~」と呟きながら警察の方に見せてはいけないような恍惚の表情をしている。


「私の言いたい事が分かるかい?」


「アリタンの呪いは読みやすい、単純ってことっすか?それと対比するなら、シェイクのような飲むのに苦労するけど、一度飲めれば濃厚な深い味わい・・・準備に時間や根回しが必要な二重三重と重ねていくような呪いが得意じゃないってことッスか?」


「驚いたな。正解。アリタンは真っ直ぐ過ぎるんだよ。一番厄介な呪いってなんだと思う?それは自分が信じている人間が術者もしくはその協力者だった時だよ。自分が祓ったと安心しきってるところに本命の強力な呪いが降りかかってくるんだから、たまったもんじゃない。まあそうでなくても、疑心暗鬼にさせたら良いんだよ。そんな日々が続くと精神はすり減り、何時しか祓うことが出来なくなる。人間関係もズタズタになる。ほらこのシェイクのようにネットリとした呪いをかけるんだフフフッ」


藤森はシェイクの容器のふたをとり、カップに口をつけてゴクゴクと飲んでいく。そして飲み干したと思ったら、舌の上に、まだカップにへばり付いているシェイクを落とすためにカップを振る。舌の上にシェイクが落ちなくなった時、サヤカにまた警察に見せてはいけない顔をする。


次の瞬間、サヤカはゾッとする。藤森の顔が、いや眼が、瞳が赤く、それ以外は真っ黒なのだ。そしてその眼から漏れ出る闇のように黒いオーラと同じ物が、いつの間にかサヤカの身体をネットリと這っている。恐怖から全身に鳥肌が立つ。


『いつ攻撃されたッスか?私は顔を見てただけ・・・あのヤバイ顔がスイッチだったとしても、いつ、何を、どうやって仕込んだか分からないッス。ヤバイヤバイヤバイ!コイツは呪いの申し子ッス』

サヤカは一刻も早く藤森から逃げたいと思った。そしてアリタンはこの人には勝てないだろうとも思った。


「単純な呪いの打ち合いなどしては駄目だよ。勝ち目なんてないからね。ああっ君は僕と似ている。いや僕以上だ。その目は呪いに愛されている目だ。羨ましいよクククッ」


「あっあっあっありがとうございましたッス。失礼しまッス部長」


『冗談じゃない。アンタ以上に呪いに愛されてるってなんなんッスか。防犯ブザー持ってたら思いっきり引いてやるとこッスよ』と愚痴りながら走って店を後にした。


「ふっ僕が出来るのはここまでだよ。これ以上手助けすると君を試せない。それに当主から聞いているよ。アリタンの事を僕からも宜しく頼むよ」


いつもの爽やかな笑顔に戻って呟きながら、シェイクのおかわりを貰いにカウンターに行くと多くのアルバイト達が藤森に向かってヒソヒソ話をしていた。


「店長絶対やってる、絶対やってるって!あれはやってる奴しかできん顔やって!」


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