家と日記
ふぁ~ぁあ…………あれ……ここは?
そうだ……キャンピングカーか……
俺は異世界にいるんだったな……
異世界での初めての朝……
時計を見るに朝の7時
ギルドの初心者冒険者講習には参加できそうにないな……
早く無人島から脱出する手立てを見つけないと!
……ってあれ?カリンは?
ソファーベッドにいない
──ガチャ
ブンッ……ブンッ…ブンッ
あっ、砂浜にいた。
「おはよ~カリン。朝から剣の素振りとは精がでるな。毎日やってるのか?」
「えぇ!…冒険者をやっている以上!…体が資本!…こうやって!日々の積み重ねが!重要なの!…よしっ終わり!」
「トレーニングもいいが気を付けろよ。この砂浜にも何が出てくるかわからないんだからな」
「わかってるわよ。それよりお腹減った。ご飯作って!」
「パンが戸棚にあるからそれでも食っておけ。食いながらでいいからこれからどうするか話し合おう」
「どうするって?魔獣島を探検よね?」
「いや、それよりも先に拠点となる場所を探そう。車で移動するから早く乗れ」
「ここじゃダメなの?」
「この砂浜は狭すぎる。高波や満ち潮になったらキャンプ道具も広げれない」
「なるほどね。それで拠点の当てはあるの?」
「そうだな~とりあえず海岸沿いに島を一周してみて島の全体像を把握しながらもっと広い砂浜に移りたい」
「おっけー」
そうして島を回ることにしたのだが……
この島……
それなりに大きい
一周約20㎞はあるな
そしてどこにも港のようなものはなく手付かずの大自然ばかりの島だった
「あっ、この砂浜なんていんじゃない?」
とりあえず、かなり広い砂浜が見つかった
「そうだな。ここを拠点にしよう」
「じゃあ、さっそく森へ入って冒険に行こう!」
「いや、俺は遠慮しとく。カリンだけでいってこい」
「なんでよ?一緒に行こうよ!」
「さすがに何の装備もなく戦う手段もない俺が魔物のいるかもしれない森に入る気になれんし、足手まといになるだけだ。それに車の点検とかしときたいからな」
武器は包丁があるといっても
魔獣島と呼ばれるような島だ……何が出るかわかったもんじゃない
女の子一人で、そんな森に行かすのも気が引けることではあるがカリンなら多分大丈夫だろう。
「そう……ざんねん」
「まぁ、カリンがある程度探索して安全が確認できたら俺も森の奥に行ってみたい。そんときは一緒に行こう!」
「うん。絶対よ!じゃあ、行ってくるね!」
カリンは森に向かって砂浜を走りだした
「それと食べれそうな果物あるか探しといてー!魔物も倒したら魔石を忘れんなよーー!」
「うーん!わかったー!」
カリンはそう言って手を振りながら森へと消えていった。
さてと!
まずはキャンピングカーの車体を確認しよう
昨日は盗賊を撥ね飛ばしたり崖から落ちたり海底を走ったりと酷使したからな……
なんともなってないといいが……
…………
凹みなし……
タイヤに貝殻などの破片もついてないな……
うん。異常なし……
車体に傷一つないって……オプション【壊れない】の効果凄すぎだろ!
お次は床下の収納スペースに入っている物全部出して広げて何があるのかしっかり確認しよう。
昨日は床下の収納スペースが広すぎて表面にある物しか見てなかったからな
えっと……まずは
5人用ぐらいのテントに……
懐中電灯、ランタン、万能ナイフまである……
バーベキューセット……
水着、防寒具、Tシャツが1着ずつ……
毛布……
おいおい!どんだけ出てくるんだよ……まだまだあるし
小さい折り畳みテーブル……
アウトドアチェア……
アウトドアワゴン……
オール付きゴムボート……
木に掛けるタイプのハンモック……
釣竿セット……
パラソル、浮き輪、ゴーグル……
よくビーチにある折り畳みのサマーベッドもある……
ふぅ……
これで全部みたいだな……
というかどんだけあんだよ!
キャンピングカーの周りの砂浜が物で埋め尽くされてしまったぞ!
【キャンピングカーにだいたいある備品】とは言ったがここまでとは……
そしてこれらが入るだけのスペースを床下に作りだしていた【空間拡張】もすごい……
それを言ったらこれだけ物を積んでたのに今までスムーズに走っていたキャンピングカー自体が凄いのか…………
神様……改めて、ありがとうございます。
これだけあれば異世界の無人島でもなんとかやっていけそうな気がします!
─と、心の中で思っているとどこからか声が聞こてきた
「リオーーン!おーい!リオーン大変よー!」
カリンの声だ
振り返り森の方を見るとカリンが手を振ってこちらに走ってきていた。
何かワクワクや嬉しさがこみ上げたような顔してるな
「おー、カリン、どうした?何かヤバい魔獣でも現れたのか?それとも隠された財宝でも見つけたのか?」
「いえ、残念ながらまだ珍しい魔物には遭遇してないわ…………て!ええ!!何このアウトドアグッズの山!」
驚いてる驚いてる
「凄いだろ!全部キャンピングカーの床下に入ってたんだー!」
「す、凄いわね!……て、それどころじゃないわよ!それより凄いのが森の中にあるのよ!ちょっと来て!」
カリンが俺の手を引いて連れてこうとする
「おいおい、強引だな、何かあんのか?ついて行ってもいいが森は安全なんだろうな?」
「大丈夫!今のとこ角兎、スライム、アイアンヘッド猪ぐらいの弱い魔物しか見かけてない」
「それならいいが……そんな魔物がいるんだ。まぁ安全ならついて行こう。それで?森の中に何があるっていうんだ?」
「ついてからのお楽しみ。あっ、それと角兎とアイアンヘッド猪は弱いけど突進してくるから気を付けてね」
「……そ、そうなんだ……危なかったら助けてくれよ」
「ええ、いきましょ!ついて来て!」
そして俺達は森へ入っていった。
森をカリンの後ろをついて進んでいく。
──が、俺は足を止めた
あっ、あそこで角の生えた兎が草食ってる……
あれが魔物の角兎か……
確かに全然弱そうだな
あっ、角兎と目があった!
かわいいなー
ん?こちらに向かって……
「うわっ!」
俺はとっさにジャンプし飛び上がった
─ズサッ
鋭い角を向けて突進してきた角兎はそのまま下を通りすぎ、勢いで横の木に突き刺さった。
「リオン大丈夫?」
「角兎が襲ってきた!角兎やべぇ!あなどってた!」
「確かに当たれば痛いけど。避けれない速さじゃないし、何かにぶつかるまで一直線に走り続けるから一歩ズレればばそのまま突き進んでどっかいてしまうよ。今みたいに木に突き刺さって身動き取れない状態になることもよくあるし」
「だとしても……当たったら痛いってだけじゃすまんだろ…………気をつけんとな」
「まぁ、食料はこれで安心ね。角兎って結構美味しいのよ!」
「こんなにかわいいのにやっぱり食べるんだよな……」
そんなこと言ってる状況ではないことぐらいわかってるが……
「もちろんよ。……それよりそろそろ見えてくるから!行こう!」
──そうして進んでいくこと数分
俺達はそこにたどり着いた
「確かに……これは……凄い…………どういうことだ?」
俺達が森を抜け、たどり着いた所は学校のグランドのように開けた場所
100m×100mはありそうだ
左手前側には今は荒れ果てているが畑のあった痕跡もあり、その近くに朽ちてぼろぼろになった物置小屋がある
右手前側には濁ってるが池が見える
そして最後に中央には物置小屋とは打って変わって今も人が住んでそうな綺麗な家がある
しかもかなりの豪邸だ
横幅は20mはある3階建て
「ね?おかしいでしょ!」
「ここにはなぜか魔物がいないしな。そして魔獣島は無人島じゃなかったわけだな」
「そこじゃなくて!あの建物の作り見てよ!変でしょ?」
「え?無人島でどうやって建てたか不思議だが、作りに変なとこはないと思うが?」
「あー、そうだった。リオンは異世界にきたばかりでわからないのね。いい、よく聞いて。この世界にあんな建築技術はまだないの!壁の素材にしても窓枠のアルミ部分も含めて」
「あっ、確かに!東街にあった建物は木造か石造りばっかりだった!……つまり」
「そう!あそこに住んでいるのは私達と同じ世界からきた地球人の可能性が高いのよ!」
「神様に持っていきたい物を《豪邸》と望んだってわけか…」
「えぇ。それ以外考えられない!さっそくインターホンを押してみましょう」
─ピンポーン……ピンポーン
………………
…………………………ピンポーン
………………
「出ないな……出かけてんじゃないのか?電気もついてないみたいだし」
「そうかもしれな…………あっ…鍵かかってない……」
カリンが取っ手に手をかけ引くと"ガチャッ!"と音を立てた
「これは……入っていいのか?」
普通に考えて不法侵入だが……
「入りましょう」
ということでドアを開いて玄関へと入ったが……
さすが豪邸……玄関がとても広い
だが、靴が一つもないな
そのままリビングまできたがやはり広い……
リビングは3階まで吹き抜けだ
「やはり人が住んでるのね。とても綺麗。家具も手作り感が満載、それに電気もつく」
「キッチンも綺麗だ。家電はさすがにないみたいだが、水道も使える……おー!ガスまで使えるぞ!」
「なんだろう?何かこの家、違和感があるのよね。人が住んでるようで住んでないみたいな……物が少ない点はオプションの限界だったからかもしれないけど」
「確かに、言われて見ればこの家綺麗すぎるし……。カリン、ひとまず、手分けしてこの家を調べてみよう」
「えぇ!そうしましょ」
─────30分後
「やっぱり家に人はいなかったな……家の中はだいたい見て回ったが」
1階は暖炉のある広いリビングと、キッチン、トイレ、お風呂、畳の客間が2部屋、縁側付き
そしてなぜかトイレがボットントイレ……
2階は大きめの部屋が5つ、広いバルコニー
3階は4畳ほどの小部屋が6つ、そして屋根にはソーラーパネルと小さな風力発電機のような物があった。
ほとんどの部屋は何もなく使われてないみたいだ
テレビ等の家電はさすがになかったが、手作り感満載のテーブル、椅子、ベッド、包丁、陶器はあった
そして、家の裏手側、2階のバルコニーのちょうど下あたりにそれなりに大きな工房らしき場所があった。
なぜかこの工房だけ家の中とは打って変わってノコギリやトンカチ等の工具が揃ってるだけでなく、陶芸釜、炉、鍛造設備、砂型鋳造設備、溶接設備、木材加工設備、等が充実していたのだ。
家にあった家具、包丁、陶器は多分ここで自作したと思われる
「本当にこの家凄かったわよね。家に色々オプションを付けたんだと思うけどやり過ぎな気がするわ。ズルい!最終的に《日本刀》を選んだ私が馬鹿みたいじゃない!!」
「まぁ、そう言うなって。それより唯一生活感があった部屋に置かれてたこのノートを見てみようで!」
「そうね。これが唯一の手がかりっぽいからね」
俺の手には一冊のノートがある
表紙に異世界語で『最後のページを開いてください』と大きくマジックでかかれている
家の付属品か自作の物しかなかったこの家でなぜかあった一冊の地球製のノート
軽くペラペラっとめくる
どうやら日本語で日記が記されてるようだ。
まあ、そこは後でよく見るとして、まずは表紙にかかれている通り最後のページを開く───
ここは異世界言語だ……なになに
『このノートを見ているということはこの無人島にたどり着き、この家を見つけだしかからでしょうね。私はまだこの世界をよく知らないのですが、この家はこの世界の人達から見れば驚くべき物なのでしょう。突然ですがこの家を今読んでいるあなたにプレゼントしてあげましょう!私はこの無人島で7年……雪が降る時期を7回越した?と言った方が通じるかな?まぁ、ともかく長い年月をこの島で過ごしてきたので、私は島を脱出し世界を見て回ることにしました!もう、戻ってくる予定はありません。だからこの家あげます。大事に使ってね!
─とある異世界人より
PS:山にいる大きい犬には気をつけてね。できれば仲良くしてあげて』
明らかにこの世界の人に向けた文章だったな……
「つまり……この家にはもう誰も住んでない……てことだよな?」
「え……えぇ。しかもこの家貰っていいみたい!やったわね!!」
「マジでこんな凄い家を貰っていいのかよ。俺って運がいいのか?」
死んでも異世界で生き返れるわ、初日にカリンと会えるわ、無人島にくることになってしまったが、家が手に入るわ……
というか異世界人って珍しいもんじゃないのか?
こんなにポンポンと関わることになってるが……
「貰えるもんはありがたく貰いましょ!今日からこの家は私達の物ね!!!」
カリンはかなりテンションが上がってるな
俺も人のこと言えないぐらい昂ってきてるが
「とりあえず、この人が日本語で書いてる日記の部分も読もうか」
「そうね。じゃあ1ページに戻ってっと─」
俺とカリンは日記を呼んだ
──────────
2009年11月11日
私の名前は緑山千香15歳。
死んで異世界にくることとなったので今日から日記をつけることにする。
──────────
「2009年か……10年も前だな」
「今生きてたらこの人25歳よね。それと7年この島で過ごしたらしいから……この家3年は無人だったみたい」
────────────
神様が異世界で生き返らしてくれたの。しかも6つのオプションを付けた"何か一つ持っていきたい物"を与えてくれるという。
私は人のいない田舎でゆったり日曜大工でもしながら暮らすのが夢だったから
《自家発電ができて、工房付きの豪邸、水道は地下水脈に繋げてあり、下水もしっかり処理してくれるやつ》と頼んだの!
だけど神様に渋られたから「豪邸だけどシアタールームやプールもなしのシンプルな構造でいいから!お願い!」と豪邸のランクを下げて頼みこんだ。
それでも神様渋るから「トイレの下水処理機能もなしでいいから!……ボットンでもいいから!」と言ったら渋々《豪邸》を了承してくれた。
ボットンでも農業始めた時に肥料として糞が使えるからね
オプションは神様と話し合いながら
【家の回りに害虫、害獣が寄ってこない】【劣化しない】【汚れない】【魔石燃料】【滅菌空間】【工房の充実】にした。
本当は【豪邸の物を充実させて】って頼んだけど断られた。
でも「なら工房だけでもすぐに使えるぐらいして」と頼みこんで【工房の充実】を勝ち取ったのだ。
私の父は大工、母は造船所育ち、、祖父は工業のプロフェッショナルだ。
そんな家族に囲まれて育った私は、地球では"物作りの神童"と呼ばれていた。
設備の揃った工房さえあれば何だってやっていけるはず!!
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「【劣化しない】【汚れない】……か。どうりで、放置されてた家なのに綺麗だったわけね。」
「工房だけ物が揃ってたのもやっぱりオプションのおかげだったか」
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そして神様に"死んだ時に持っていたカバンも持っていきたい!"って土下座して頼んだら
カバンに入っていた筆記用具とノートだけはサービスで持って行けることになった。
どうやら地球での"一日一善"の積み重ねを評価して特別に許してくれたらしい。
そしてさらに頼みこんで転移先は人のいない場所にしてもらった。
地球では色々あって人間不信になったから異世界でもあまり人に関わりたくないからね。
────────────
「カリン並みにがめついな。この人、色々頼みすぎじゃない?」
「うるさいわね」
───────────
そうして異世界にやってきたのだが……なんと家を出た瞬間、すぐ目の前が木々の生い茂る森だった。
確かに人のいない場所とは言ったけど、私が思ってたのは人里離れた片田舎で決してこんな森の中ではない!
「くそっ!」と、ついつい目の前の木を殴っていた。
すると、その木は"ベキッ"と音を立てた。
試しに木に手を当てて力を加えると"ズボッ……ドシーン"と倒れてしまった。そして近くの岩も軽々持ち上げれてしまった。
これにはとても驚いた。
神様のサービスの一つに"異世界で適応できるだけの丈夫な肉体"とあったが、ここまでとは思わなかった。
───────────
「いえ、彼女は勘違いしてるわ。おそらく彼女の筋力値がかなり高かったのね」
「異世界人特有の能力値が高い現象のことか。俺は魔力値が高かったみたいに……」
────────────
気がつくと調子に乗って辺りの木々をなぎ倒してしまってた。
ついでだからオプション【家の回りに害虫、害獣が寄ってこない】の効果範囲100m×100mにある木をすべてなぎ倒して見晴らしのいい庭にした。
同時に丸太と食べれそうなキノコをゲット。
─────────────
──異世界生活2日目──
工房にあった鍛造用のデカイハンマーを片手に森へ入ると角の生えた兎、スライム、金属頭の猪、オーク、ゴブリンに遭遇。
私を見つけるなり襲ってきたのでオークもゴブリンも鉄頭猪もハンマーを振り回して撃退。
私の異常な腕力で頭が吹き飛んでいった。
角の兎はかわいいので殺さないでおく。
何はともあれ猪をゲット。
家の工房に持ち帰り解体して肉、魔石、猪の毛皮、頭の鉄を得た。
肉は家の中に吊るして干し肉にする。
家の中は【滅菌空間】なので病原菌や食中毒になることはないだろう
────────
──異世界生活3日目───
森を進んでいると海に出た。
このまま、海辺を沿って行けば港街に出れることを期待して歩き続けた。
すると、同じ場所に戻ってきてしまってた。
間違いない、ここは無人島だ。
人のいない場所とは言ったけど物理的に隔絶された無人島にされたら買い物にもいけないじゃん!神様、何のために金貨10枚くれたんだよ!
5㎞先に陸が見えるけど私泳げないし、船を作ってまで買い物がしたいわけじゃないので、この無人島で自給自足することを決意した。
─────────────
──異世界生活4日目───
工房で丸太を加工してベッドを作った。
猪の毛皮の下に緑の葉っぱを詰め込んで完成!
木材は乾燥させないと歪むと聞いたことがあるからいつかきちんとした物を作ることにしよう。
この世界に冬があるとしたらその前に毛皮や羽毛を沢山集めないと!
────────────
──異世界生活5日目──
工房で包丁を作った。
猪を解体した時、刃物がノコギリとカッターナイフしかなかったから解体が難しかったため。
それと単純に武器になるから。
猪の頭の鉄を炉に入れて溶かす→包丁型に作った砂型に流し込む→グラインダーで削って型を整える→鍛造で丈夫にする→砥石で磨ぐ→木で作った柄を付ける→完成!
なんとなくでやったけど案外できるもんだ。
次はフライパンやスコップ、クワも作りたいな。
それには鉄が沢山いるから、鉄頭猪を狩りまくって鉄を集めよう!
──────────────
──異世界生活6日目───
包丁を手に島を散策。
ヤドカリ、貝類、自生したじゃがいもやキュウリ等の野菜を発見。
野菜は持ち帰って栽培してみよう。
この島で、食料に困ることは当分ないだろう。
そして帰り道、数日前に倒したオークとゴブリンの死体が目に入ったのだが。ゴブリンはそのまま腐っているのに対しオークは何者かに食い荒らされていた。
オークとは見た目が豚の魔物だったが美味しいのだろうか?
1回食べてみるのもありかもしれない。皮も多く取れそうだし。
……て、それより、まだまだ知らない肉食の魔物がこの島に潜んでるかもしれないから気をつけよう。
─────────────
──異世界生活7日目──
午前中はスコップやフライパンなどを鋳造で作った。
午後からは工房には陶芸用の窯があるので皿やコップ、食料保存用の壺を作ってみることにした。
家の周りの木をなぎ倒した時にできた陥没部分からちょうどいい具合の赤土が出てきたのでこれを使うことにする。
家に近い所を掘って陥没させたくないので庭の左端を掘って赤土を集めることにした。
そして粘土を作り、形を整えて焼いてみたが……割れてて失敗。こればかりは経験が必要だ。
──────────────
──異世界生活8日目──
気をなぎ倒して穴だらけの庭を綺麗に整え、庭の右端をクワで耕し畑にした。
島で見つけたじゃがいも等を植えてみた。
ボットントイレから汲み取った私の糞もいい具合に腐ったら肥料にしよう。
───────────
──異世界生活9日目──
オークを倒して食べてみた。
豚肉みたいでおいしかった。
皮は工房でなめして服にでもしてみる。
────────────
──異世界生活10日目──
森で変な鶏を捕まえた。
蛇の尻尾をしており鋭い牙を持った変わった鶏だ。
卵を生むかもしれないので飼育することにした。
裏庭に鶏小屋と柵を作るまで部屋で飼おう。
どうせ部屋は有り余ってる。
肉食みたいで、猪肉やオーク肉を喜んで食べていた。
森でまた見つけたらまた捕まえよう。
──────────────
「この鶏はバジリスクという魔物よ。かなり美味しいわ」
「というかこの人、適応能力高いな。」
──────────────
──異世界生活11日目──
山の中腹で川と水辺を発見、鮎のような魚もいた。
捕まえようと必死になっていると熊並みに大きく、灰色の毛並みをした犬が2匹現れて襲われた。いや、もて遊ばれてたと言った方がいいのかもしれない。猫がネズミを玩具にするように
デカ犬はとても強く、すばやくなかなか攻撃が当たらない。
パンチが入っても少し怯むだけ。私、木をもなぎ倒す腕力なんだけど……
やっとの思いで害獣が入ってこれない家の庭まで逃げてこれた
たが、腕を噛まれてかなり痛い。
────────────
「えっ!この島にフェンリルがいるの!!」
「フェンリル?」
「かなり強い魔獣よ!存在自体がとても珍しいから噂で聞いただけで見たことはないけど、特徴が完全に一致してるわ!なんて凄い島なのここ!楽しみ!」
「魔獣島って名前にふさわしい魔獣が本当にいたんだなこの島は」
───────────
──異世界生活12日目──
デカイ犬に噛まれた腕がかなり痛んだ。
痛さをこらえるあまり腕に四六時中意識を向けていたら腕に"気"のようなものがまとわりついてくるのがわかった。
だが、すぐに消えた。
─────────────
──異世界生活13日目──
森に入る気になれなかったので家の工房で家具を作ることにした。
そして作業をしつつ"気"を感じとるようにしていた。
──────────────
──異世界生活17日目───
腕の痛みも消えた。
そして私は"気"の制御をマスターした。
気を体に纏ってる間は、体が動かしやすく、普段以上の力が出せるだけでなく、体が丈夫になる。
これなら、あのデカ犬に遭遇してもなんとかなるかもしれない!
だが、持続時間が短い。
全身に十分な量の気を纏うと2分と持たない。
これだけは練習してもどうにもならなかった。
だから、使う時は最低限の範囲を最低限の量で纏うことで"気"の消費量を抑える必要がある
────────────
「彼女が"気"と呼んでるものは"魔力"ね。凄いセンス……独学で魔纒を習得するなんて」
「まてん?」
「魔力を体に纏い攻防力を底上げすることを魔纒というの。聞いた感じ、彼女は高い筋力値と魔力制御のセンスはあったみたいだけど魔力量はそこまで高くなかったみたいね」
「カリンは魔纒使えるのか?」
「もちろんよ!熟練冒険者は魔力0の人以外皆使えるわ!」
「俺にも教えてくれよ!俺、魔力量だけは凄いし!」
「いいわよ!明日からね」
──────────────
──異世界生活1年が経過───
この無人島の生活にもかなり慣れてきた。
寒い冬の季節も乗り越えたし、陶器や家具作りもかなり上達した。
裏庭の柵の中にいる鶏も今じゃ20匹もいる
畑も拡張したし農具をしまう物置小屋も作ったし。
この無人島での生活が楽しくてしょうがない!
─────────────
──異世界生活2年が経過──
デカ犬に遭遇しないよう気をつけていたが、先日見つかって追い回された。
"気"をマスターしてるがさすがに敵わなかった。噛まれたことをトラウマになってしまってるせいかもしれないが……
だから私はこれから一年間毎日剣の稽古をすることにする。
強くなって自信を持ち、一年後あのデカ犬を倒してみせる!
──────────────
──異世界生活3年目──
一年間、厳しい修行に耐え、剣の腕を磨いた!!
よし!デカ犬を返り討ちにしてやるぞ!!
いや、やっぱりまだ不安だ……
後、一年修行しよう
────────────
──異世界生活4年目───
とうとうデカ犬2匹との対決
"気"を瞬時に反射で纏う域に達し
剣術も独学で磨き
剣も鍛造で鍛えあげた最高傑作をこの日のために作った!
そうしてデカ犬2匹との死闘の戦いは続き─
私はついにデカ犬2匹に勝ったのだ!
でもデカ犬2匹は殺してない。
私が疲弊して倒れたデカ犬の喉元に剣を突き刺そうとした─
デカ犬も目を閉じ自分の終わりを受け入れる──
─瞬間、私の手は止まった。
地球にいた頃に飼っていた愛犬が死んだ時の事を思い出したからだ。
そして、私はとどめは刺さず、命だけは見逃してあげた。
これだけ私が強いって分かってればもう襲ってくることはないだろう────
─と、思っていたのだが…………
翌日、デカ犬2匹は私の目の前に現れた。
とたん2匹は仰向けになり腹を見せ服従のポーズをとった
恐る恐る腹を撫でる……
尻尾を振る2匹……
その日から家族が増えたのだった。
オスで濃い灰色がレオ
メスで明るい灰色がココと名付けた。
オプションで家の周りに害獣は近寄れないのだが家主の私がレオとココを害獣だと認識してないので鶏のとき同様に庭に入ってこれるようになった。
──────────────
──異世界生活5年目──
庭の赤土を集めてた左側がちょうどいい具合に陥没したので池を作ることにした。
水を入れたらそのまま地面に染み込んでしまうためセメントを作ることにした。
今まで溜まりに貯まった貝殻を窯で焼き石灰にして水と赤土を混ぜてセメント完成。
後は大きめの石で池を形作り、セメントで隙間なく何層にも分けて埋めればなんとか水は抜けなくなった。
だけど問題はどうやって水を運ぶかだった。
池はそれなりに大きいから大量の淡水が必要なのだけど、ホースがないので家の水道から届かないし、届いたとしてもできるだけ川や水辺の水を使いたかった。
仕方ないのでデカイバケツを木で作って水辺と家の池を何十回も往復することとにした。
途中、レオとココも手伝ってくれたので2週間でなんとか水を張れた。
水辺の魚や生き物も連れてきたのでかなり風情ある池となった。
────────────
──異世界生活6年目──
島からオークがいなくなった。
私とレオ、ココが食料確保のため数年で狩り尽くしてしまったのだ。
襲ってくるゴブリンも鶏の餌にするため倒しているうちに姿を見せなくなった。
今この島にいる魔物はデカ犬のレオとココ、オーク等の天敵がいなくなって増えた角の兎、鉄頭猪…………
後は魔石を体内に保有しない、鹿やタヌキ、ヤドカリ、魚等の生き物と私だけ
最初に比べれば安全な島になったけど……オークがいなくなった今、このままじゃ、かわいいから殺さないでいた角の兎を肉食べたさに狩ってしまうかも……
そして、なんだか……人がいた地球が恋しくなってきた
──────────────
──異世界生活7年目──
島の砂浜に20歳ぐらいの青年が流れついているのを発見。
意識がないので家に連れて帰り介抱すると目を覚ました。
話しを聞くと青年は名をグリコ・バルグリオというらしい。
しかもどっかの国の王子だそうだ。
レオとココにビビってる姿も名前も王子とは思えない。笑いを堪えるのが大変だった(笑)
グリコ王子……と呼ぶのも面倒だしグリコと呼ぶことにした。
グリコはどうやら新大陸を目指し、部下を沢山引き連れて航海に乗り出したらしいが、途中で舵が壊れ、数週間海を放浪した後、クラーケンに遭遇してしまい逃げることもかなわず船を破壊されて気がつけばこの家にいたと言う。
それからグリコとの生活が始まった。
グリコは私にこの世界の事を沢山教えてくれた。
どの話しもとても面白く、島の外にとても興味が湧いた。
そして私はグリコと一緒に島を脱出することを決意。
工房で試行錯誤の末に船も完成。
この世界を一生をかけて見て回ろう!
この島に戻ってくることはもうないかもしれない。
そしてレオとココともお別れだ。船の大きさ的に熊ほどある2匹を乗せることもできない。
陸までは見た感じ5㎞ほどだけどレオとココは私と同じで泳ぐのが下手みたいだし。
多分レオとココは人里では恐れられ迫害を受けるかもしれないからだ。
レオとココのことを考えれば今まで生まれ育った島を連れだすより置いていった方がいい。
レオとココ、7年住んだこの家、この島に別れを告げ私は旅立つ
家も今までの感謝を込めて掃除したし、腐りそうな物も処分しておこう。
ノートも後1ページしか残ってないし、この家を見つけた人のために異世界語で家を大切に使ってくれるよう書いて部屋に置いておこう。
──────────────
そして最後のページに戻ってきた──
「おしまい……凄かったな ……。彼女……万能すぎるほど物作って生きてきたんだ」
「あ~この島にいるフェンリルのレオとココに早く会いたいな~!」
「カリンまさか、フェンリルを倒したい!って言うんじゃないだろうな?」
「この日記読んでそんなこと考えるわけないでしょ!会って仲良くなりたいって意味。そもそも彼女が異様に強いだけで私なんかフェンリルに勝てるわけないし」
「だよなー…ん?…え…………ヤバい……」
俺は窓の外に目を向けて青ざめた
「どうしたの?……え……フェンリル!!?」
カリンも気がついた
そう。窓の外には熊みたいに大きな犬……フェンリルが2匹、眉間にシワを寄せ"ガルルル"と唸っていたのだ




