四-9『勇者の帰還』
勇者一行はトランに着きパレードが行われた。
すでにトランを悩ませていた黒竜を退治しており大賑わいだ。
凛々しい仮面の勇者が沿道に手を振る。
それをオーセンエンデ姫がカフェの2階でミネアとサーシャと一緒に眺める。
「今回は楽だったねー」「ねー」
「割と大変でしたけど、肩の荷が降りてよかったわ」
トラン国で評判のカフェで紅茶とお菓子を頂いてる。
チーズケーキにサンザシのジャムと生クリームを載せたお菓子だ。
うん、おいしい。紅茶とよく合う。
「ミネアとサーシャはパレード出ないの?」
「オーセンエンデさんとカフェしたい」「ミネアのお付きです」
「まあ面倒だよね」
「どうせ主役はなぞの勇者さんだし」
「うん」
凛々しい勇者さんを遠目で見る。
性別不明で軍服スカートがよく似合ってる。
王侯貴族も圧倒されるオーラに加えて、仮面から見える口元の艶やかさに男も女も勇者に惹かれてる。
「オーセンエンデさん、結局あの人はだれ?」
「勇者さんじゃないかなあ。黒竜退治しちゃったし」
「そうだけど・・・」
狭間の風の峠町から帰還した私は当初予定どおりにトランへGO。
トランのお偉いさんと打ち合わせする合流地点に巨大な竜が現れた。
予想外の事態に混乱する中、仮面の勇者が黒竜を退治。
さすが勇者様! ということで今に至る。
「最初はオーセンエンデさん凄いなあ、って思ったのにね」
「うん、ごめんね。流石に私でもあんなでっかい黒竜相手に一人で向かうの無理よ」
「ぶー」
ミネアの中で評価が下がったようだ。
まあ上がりすぎても良くないので良しだ。
はい。
現れた黒竜は幻術で作った竜である。
実際に竜は退治されてるので問題がない。
そして勇者。
「「「オーセンエンデさん、真イスファンから妙な連絡が入ったのですけど?」」」
「あれ? イスタちゃんの声?」
「お。どこー、イスタ? イスター?」「あ、オーセンエンデさんの紅茶の中に居る」
紅茶にイスタちゃんが映ってる。
ちょっと声がぶれてる。電波的なものが悪いのかな。
「あ、ひさしぶり。元気? 無事トランの竜退治おわったよー」
「「「ご苦労さまです」」」
「大変でした。戻ったらご褒美ください」「くれー」「イスタ、たっぷりくれやがれです」
「「「規定分だけ払いまーす。サーシャ様もミネア様も今回なにもしてないみたいじゃないか」」」
「「ぶー」」
「「「で。真イスファンの霊が僕の姉さんが勇者になった、って言ってて要領を得ないのですけど? 真イスファンは一人っ子だよ?」」」
「姉とは生えるものだね」
「「「知らないよ、そんな話! というかね、ミーティア神が夢枕に立ってね、ひたすら私のほっぺをつねってるの!?」」」
「夢じゃないか確かめてるんじゃないの、それ?」
「「「なんで私の頬をつねるの!?」」」
「私に言わないで。あー、そうだ。なんか他の竜の話とか聞いてます? 真勇者さんはやる気だから頼むと良いよ」
「「「オーセンエンデさん。ぜったい、勇者の正体を知ってますよね? 教えてくれます?」」」
「良いけど。正体が魔王子って言ったら信じる?」
「「「あーあーあー。きこえなーい、きこえなーい」」」
「難聴系お姫様だね、イスタちゃん」
魔王子を退治する勇者役を魔王子に押し付けた。
これで全てが丸く収まるのだ。
魔王子の配下の竜を奪って暴れてる存在がいる。
内輪もめは内輪で処理をさせるのが一番だね。
ふいに視線を感じた。
勇者さんがこちらを見て憮然としていた。
手を振って視線に応えるとプイっとそっぽを向いた。
面倒を押し付けてごめんね、『古き竜の姫君』さん。
(そういえばあの方は本人に会えば『古き竜の姫君』と呼ばれる理由がわかると言ってましたが、竜を束ねる魔王子だったから、ということでしょうか)
ああ、うん。そ、そうだね。
(なにか隠してませんか?)
あの仙女さんは昔から竜を祀る家系の娘さんだった、とかじゃないかなあ、とか思ったりして。
(そうですか)
窓ガラスを見る。
金色の髪の白踊り子が映る。
「胃が痛い」
「オーセンエンデさん、胃のお薬要ります?」
「ありがとう、サーシャさん。準備がいいね!」
「ミネア用に持ち歩いてるのです」
「へえ。サーシャ、私にもくれる?」
「ミネア用にミネア以外の人の為に持ち歩いてるのです」
「むきー!」
取っ組み合いをはじめる少女達を見ていたら胃が軽くなった。
全力で今を生きてる。
「ミネア、サーシャ。あなた達に会えてよかったわ」
「「えへへ」」
可愛らしい妹分だ。
この世界は孤独ではない。
◇
◇
これが竜と巨人の戦争のはじまりであった。
そしてNPC脇役は平穏に暮らしたいと願ったのだった。
<四章終わり>




