四-7『すれちがい通信』
――うますぎる程にうまくいった。
『長い糸玉』で作った糸玉を使って竹やぶにトラップを仕掛けた。
幼女様が言うにはこの糸玉を断ち切れる者など殆ど居ないという話だ。運命の糸玉。
仕掛けたトラップに吸い込まれるように屍食鬼達が入って、タロットの『吊られた男』のように逆さ吊りにされていく。
そしてこちらが手をくだすまでもなく、もがいた糸が屍食鬼達を死に導いていった。
紫色の筋肉だるまだった屍食鬼の死体はいまや人間の死体になっていて様々な死を見せている。
沢山の切り傷を受けて心臓から血を流してる者や、溺死体、まっ黒焦げな焼死体、穏やかな死、苦悶に満ちた死。いろいろ。
(・・・本来たどるべきだった死の姿だと思います)
胸の中のオーセンエンデさんがつぶやく。
あとで弔ってやろう。
屍食鬼達に混じった街人の幽鬼どもは糸の結界を怖がって近寄って来ない。良いことだ。彼らは引き続き温泉街の住民になるのだから。
「屍食鬼の騎士は10と言ってたからこれで全部かな。あとは町長と、謎の女戦士か」
女戦士は竹やぶに来てないようだ。
先に町長を倒せば洗脳が解けるかな。
あの美味しそうな料理とお酒だと自分も引っかかりそうだったし、マヌケって責められない。
チリ・・・
首筋がひんやりとしたので咄嗟に身を屈めた。
すうーっと白銀の刀身が頭上をすぎる。滑らかな軌跡だ。
身を翻して距離を取る。
「ほう、勘が良いな。さすがは気配のない不死者を相手にする静寂の使徒、といったところか」
凛とした声。
ぶるっと身震いがする。
仙女がそこに居た。
黒いお団子っぽい三編み。白と桜色を基調とした唐服。
赤い飾り紐が柄に付いた長剣を一振り持っている。
面食らった。
大男の事前情報で女戦士というからビキニブラのアマゾネスを勝手に想像してたので清純派の仙女が出てびっくりだ。
「あなたが先日来たという迷い人? 町長を倒したら解放できるから待ってくれないかな?」
「はは。妾の心配とは人が良い」
おお、一人称が妾。軽い感動を覚える。
赤い瞳の美人だな。気が強そう。
はて? 若干の既視感。
「どこかで会ったかな、私達?」
「初顔であるぞ?そなたのような娘を忘れるほど耄碌はしておらぬ」
うーん、見た顔な気がするのだけど。
謎の幼女様とキャラが少し被ってるからかな。
MODで入れたNPC、って感じではないのだよね。
なんと言ってもおっさんだった時に入れたNPCMODは総じて露出が高い。
(・・・)
胸の中のオーセンエンデさん本体の魂が冷えた気がする。
「妾はこの町から歓待を受けたゆえ、そなたを倒して礼に報いよう」
「え? そんな理由? お酒を飲んで操られてるとかじゃ?」
「美酒であったぞ? 『魔中年DT』という銘柄であったか。34年物というておった」
嫌な名前の銘柄だな!
34年というのも生々しい。
さて『降魔斧』で戦えるかな。
両手が塞がってるのは少し不味い。
おっと。
突きが来たので半身をずらして避ける。3連撃だ。
見た目と反して重量のない斧で剣の峰を叩く。
仙女のバランスが崩れる。
足払いでさらに追撃してみる。
膝付近を狙ったが仙女のスカートだけにヒット。いい反応。
すでに足を引いていたとはやりおる。
「・・・生意気」
仙女がくるんと体を回転。
背中から脇がお留守なんだけど下手に手を出すとカウンター来るんだよ。
オーセンエンデAIが反応するのを止める。
回転の勢いで剣が横薙ぎに来る。
来るのが分かってるので余裕で避ける。
合いの手で斧で攻撃。仙女は驚いて間合いを取って避ける。
(すごい)
オーセンエンデさん本体魂が驚いてる。
いやー、Lv1とはいえオーセンエンデさんの身体能力すごいからね。
あと何故かすごい戦い易い。
お互いに当たらない攻撃を続ける。
どちらも回転が多い攻撃で服の飾り布が映えるので演舞をしてるような光景だ。
白い霧が漂う竹林で踊るような剣舞だ。
ミネア達がいたらおひねりが飛ぶ場面だ。
仙女の剣は緩急が効いた剣で、太極拳のようなゆっくりした動きもあれば鋭い突きなども混じっている。
並の剣士なら対応できずに死んでいると思われた。
数分続ける。剣撃の数分は十分に長い。
一旦間合いを取って息を整えた。
「そなたは、誰なのだ?」
仙女が困惑している。
「さて? 初顔でしたね? お名前を伺っても?」
「・・・」
お。悩んでる。言ってはいけない感じの名前なのかな。
「妾の名は・・・」
「あぶない!」
咄嗟に斧を捨てて仙女に飛びつく。
仙女の剣が右肩を貫く。痛い。
が、それ以上は攻撃をしなかった。助かる。
鮮血が下になった仙女の服を濡らす。
すぐ綺麗になるMOD服なら良いけど。
先程まで立っていた位置が雷撃でえぐれていた。
「チ、外したか」
悪の町長が忌々しげに呟いた。
『治癒』で肩を治療する。魔法っていいね。
「妾を狙ったか? どういうことだ?」
「俺はおまえのような女はすかん。見下しやがって。誰が上なのか判らせてやる」
「ふん。器の小さい男よのう。・・・借りはあとで返す。助かった」
仙女が礼を述べてきた。
いいってことよ。
「さて。妾に怯えていた男がどうするつもりだ?
妾が誰なのか言わぬまでも分かっておろうに」
「わかっているさ、魔王子!」
あー。
あー。
そういうこと。そういうことね。
どうすんの、これ。
魔王子助けちゃったよ、私。
うっかりだね。
たぶん男だったら助けなかったと思う。
むしろ逆に助けられたい。(※女体化影響)
(あの。この人が諸悪の根源だと言うなら、そこの町長さんと協力しますか?)
うん・・・。駄目だと思うよ、それ。人として。
(そうですね。・・・でもどうしましょう?)
どうしよう。
「切り札を見せてやろう。わが死霊術の極みを見るが良い」
紫肌の筋肉町長さんが魔法を発動しはじめた。
(あ、あれは・・・)
オーセンエンデさん本体魂が町長さんの発動しようとしてる魔法を伝える。
「あの? その魔法は40分経過で死体が灰になりますよ?考え直しては?」
「うるさい!」
死霊術は永久再利用を防ぐ為に死者を復活させると灰になるのだ。
ただ、町長さんが使う魔法は結構高位なので元の死体より強化される。
10の配下を復活か、それとも別のなにかか。
魔王子相手と知って使うからには結構なものだろう。
竹林が暗くなる。
「「「ひめを、ひめを、おひいさまを、おひいさまを、まもる、まもる、まもる」」」」
上空から声が響いた。
「どうだ? お前の竜が来るとは思わなかっただろう?」
「・・・」
「道を塞いでた奴はのたうち回ってやっと死んでくれたぜ。お前を引き止めておいた甲斐があったものだ」
古竜が空に現れた。
屍食鬼に操られたアンデットとして。
見上げる仙女の顔が曇った。




