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『悪の町長』


幼女が「魔王子( ラスボス)がこの地に来てる」と言い出した。


もっか美少女が美幼女を温泉で体を洗ってる最中である。

美少女は麦を思わせる髪の色に爆乳の持ち主。

美幼女は黒い絹のような長い髪を持つ8歳ぐらいの子だ。

甲斐甲斐しく幼女に少女が仕えている。

少女の魂はおっさんなのが玉に瑕だ。



その少女、オーセンエンデはしばらく無言で幼女の体を洗い、「ユアハイネス( 我が君)」と声をかけた。

映画で見かけた英語の言い回しである。

ちょっと粋な言葉だ。


「なんだ、改まったな? 使い慣れぬ言葉は止めた方がいいぞ」

「敬意です、敬意。幼女様、私が寝てる間に万事がすべてうまくいく上手い話はありませんか?」

「5億6千7百万年後ならあるいは」

「ブッダさんはちょっと寝すぎじゃありませんかね・・・!」

「私に言うな」

「私にどうしろと・・・」

「どうしたい?」

「平穏に生きたいです。NPC脇役らしく」

「それは無理だというものだ」

「・・・私がなにをしたのでしょう、イテッ」


そこで幼女がチョップした。

「As you sow, so shall you reap.(※)」

ぱーどん(なんて)?」

「見事にそなたが撒いた種ではないか。勇者を『2度』殺して勇者の責務を引き継いだが故だ。仮面を被り勇者代行をすると戦女神(ミーティア)の者共へ約束をしたではないか」

「そんな、竜退治ですら無茶振りだったのにラスボスとかないでしょう・・・!」

「勇者を引き受けるというのはそういうものだ。メインキャラクターは役割を果たさねばならぬ。今更脇役に戻れると思うな」

「ぐぬぬ」



おのれイスファン・・・!


オーセンエンデは目先の問題に最適と思われる行動を全力、即決で行うAIを持っている。

魔法を唱えて無限倉庫を呼び出し空中に手を入れる。

イスファンの仮面を取り出す。


続いてトンカチを取り出し仮面に振り下ろす。


『カーン!』


良い音がしてトンカチが仮面に弾かれた。良い防御力だ。傷一つない。



「なぜ仮面を破壊しようとした?」

幼女が呆れた顔で聞いた。



(・・・)

胸の中のオーセンエンデさん本体の魂が頭を抱えて身悶えしていた。

本来の自分がしそうな行動を目の当たりすると実に恥ずかしい。



体が勝手に動いちゃったよ、仕方ないよね、悪いのはAIだよ、オーセンエンデさん。


※仮面を破壊する事で勇者代行任務を放棄しようと企んだ。

※魔法で収納できる便利な無限倉庫は紛失が怖いので無くなっても良い品を入れている。

※As you sow, so shall you reap. 撒いた種は刈り取らねばならない。自業自得。先に英語でユアハイネス言うたので幼女が気を利かせてくれたものの、おっさん魂はよく解らなかった。きっと幼女の発音が怪しかったのだろう。





「まずは食事といたそう。物を食べれば良い知恵が湧く」

幼女が腹を鳴らして厳かに宣言したので従った。

ぐー、と盛大に腹が鳴ったのに全く動じないのが器の大きさを感じる。ハラペコか。



胸の中のオーセンエンデさんが幼女様の可愛さに身悶えしてる。

(ご飯たべましょう!)

はい、オーセンエンデ、食事をします・・・。


温泉浴衣を着る。

幼女様の着付けは手伝った。

ほかほかの体だ。

帰り道の廊下で雪の積もった日本庭園を眺める。

小さな赤い実をたわわに付けた低木が雪を被って風流だ。

サンザシだっけ、あれ。

(お砂糖と一緒にジャムにすると綺麗で美味しいですよ。冬の味です)

へえ。こんど試そう。



座敷へ戻ると大男の霊が畳に額をこすりつけて土下座していた。脂汗をダラダラ垂らしてる。


「あの? なにごと? なぜ土下座? なにか失敗でも?」

テーブルの上には膳が一組。おいしそう。

乳白色のお酒もなみなみと注がれてる。


「私が来たことを望外の喜びと取るか、それとも災厄と取るか、言え」

幼女が大男に問う。


「幼女様、いきなり来訪して食事の用意がないのを責めるのは酷では?」

大人げない。幼女だから仕方ないのか。


「だまれ。この男に聞いているのだ」

「望外の喜びでございます、女神様」

「よし。では私の分の膳も用意いたせ。酒は持ってくるな。

そこの酒はすべて捨てろ」

「は、はい」

「え、幼女様? 私はお酒大丈夫ですけど? むしろ楽しみに・・・」

「たわけ者め、来い」


幼女がドタドタと廊下を歩き一室へ向かう。

慌てて後ろをついていく。

旅館の酒蔵だ。おおきな(かめ)に入った酒が並んでいる。


白い煙が湧き出ていた。


「亡者の体を漬け込んだ酒だ。飲めばお前はこの馬鹿共の眷属だぞ」

「え? これはエクトプラズムを発酵させたお酒かな・・・」

亡者の体( ・・・)を漬け込んだ酒だ、と言ったのだ。底をさらってみるか?」

「げげげ」


聞くからに過度なグロ描写がありそうだ。無理!


「同族食いは大罪だ。こやつらはタブーを犯させようとしたのだ」

「お許しを! 町長の指示で客人に飲ませろと、そう言われましたので! 町長が! すべて町長が悪いんですさあ!」


犯罪組織に引き込む為に殺人を犯させるみたいなムーブだった。

この世界はところどころで油断ならない。


「では酒の入ってない、問題ない食事を用意しろ。それを私に捧げよ」

「は!」

「私に仕え我が眷属のために温泉宿を整備せよ。ここのすべての亡者が転生し、この温泉に満足するまで続けるのだ。・・・部屋に戻るぞ」


何事が解決してしまった。

万事こうであれば楽でいいのになあ。

大男がむせび泣いていた。よほど嬉しかったらしい。


「私と共にある時に騙されたなら私の名誉に傷がつく。そなたは今なにも知らぬ赤子のようなもの。その無知に付け込むのは許せぬ」

「助かります」



素直に感謝した。

この幼女は面倒見が良い。


「それにそなたは私のものだ。盗ませるものか」

「わあ」


イケメンな幼女だこと。



いい感じの温泉旅館の食事に舌鼓を打つ。

久々の和食だー。

炭火で焼いた焼き魚、お刺身、和牛っぽい柔らかステーキ。わさび付き。

そして味噌汁にご飯。納豆。鰹節のかかったお豆腐。

醤油の匂いが懐かしい。

ひさびさに嗅いだその匂いはハッキリわかった。


納豆をぐりぐりかき混ぜる。

胸の中のオーセンエンデさん本体魂が目を見開いて納豆を見てる。

(ゾンビ、豆・・・?)

糸を引いてる納豆に恐怖を感じている。

ターンアンデッドしたら納豆は成仏するのだろうか。


メインの食事を済ませてお茶と和菓子が用意された。

苺大福だ。これは嬉しい不意打ち。

幼女様もご満悦だ。


大福を食しながら作戦会議をする。


「ええと、状況を整理しましょう。この亡者たちがいる狭間?の世界から抜ける道にでかい竜がいて、ついで魔王子( らすぼす)もいると」

「そうだ。『古き竜の姫君』なる者がいる」

「・・・そして幼女様がスーパーパワーで竜と魔王子を蹴散らすと」

「しない」

「えー!? 幼女様でも勝てないんですか? それなら私も無理ですよ!」

「たわけ。彼らは彼らの役割を果たそうと忠実に行動をしている。勇者はそれに応える行動を行うべきだ」

「・・・勇者なら戦って、勝てます? イスファンの指輪は回収しわすれたのですけど?」



指輪は竜を弱体化するシナリオアイテム。

ティラノがばりぼり食べた。



「そなたの短絡的な行動は果たしてなんであろうな。以前はもう少し考えて行動してなかったか?」

「なんででしょう? 呪いかな?」

「先を考えぬ事は楽だからだ」

「みもふたもない」

「ふ。まあ、わからんでもない」

「へ」

「流されるまま来た結果だ。いつの間にか背負った罪の贖罪( しょくざい)であり、そなたの望みが起こした結果ではない。気が乗らぬであろう」

「言われてみればそんな気が」

「いま、この世界は本来のルートを大きく外れている。大きなうねりが主役を押し出し脇役を渦に巻き込んでる」

「迷惑な話だ」

「だから望むと良い。渦に飲み込まれた木の葉となるか船乗りになるかはそなたの意思次第だ」

「はあ。・・・なにやら良い感じのお言葉ですが具体性に欠けてますなあ」



幼女チョップがオーセンエンデに炸裂した。



「見て、知って、そして考えると良い。選択肢は色々あるのだから」

「いえす、ゆあはいねす」

「帰路は竜が塞いでる。それをどうするかは自分で決めよ」



うーん・・・。

とりあえず遠くから竜を偵察して考えるかあ。

どのステージのシナリオボスか分かったもんでもないし。


元ゲームプレイ時は前衛を不死属性つけたフォロワーに任せてマナ消費0にした超級MOD魔法を連射してゴリ押し攻略したんだよなあ。ACTゲーじゃないのでボスギミックもない。参考にまったくならない経験だ。


強いていえば味方フォロワーごと派手な魔法ぶちこみまくって倒してたら不死のフォロワーがブチ切れて襲ってきて、主人公があっさり殺されたぐらいだ。

なのでフォロワーが幾らフレンドリーだとしてもフレンドリーファイア(同士討ち)はしてはいけないのだ。



「ところで幼女様」

「ん?」

「なにか役立つアーティファクトをくれませんか?」

「『100の星の宮の鍵』を授けたよな?」

「はい、あれは役立つもので今回も使いたいとこですが・・・」

「道を塞いでる竜が呪いを持っておる。それを除去した後なら使って良い」

「なので別の武器とか防具とかを是非」

「レベル1のそなたでは2つ目のアーティファクトの所持は無理であろう。アーティファクトは意思がある。意外に嫉妬深い。電撃を食らうであろうな」

「え”・・・。初耳・・・」


ところどころで元ゲームのシステムと違う。


「すでに力は授けたぞ」

「はあ・・・」

「喜ばぬか?」

「わーい、やったー」

「・・・」


見えない力でデコピンされた。

そしてやれやれ、という感じで幼女が切り出した。


「糸だ」

「?」

「お前はゲーム上での便利魔法だと思っているが『長い糸(アリアドネリンク)』は私の権能を利用した力だ。断ち切る事の出来る者はほぼ居ない」

「・・・」

「お前は糸を見て選ぶ事が出来る。私が伝えるのはこれだけだ」


なんか重要な感じのお話な気がする。

オーセンエンデさん本体、どう思いますか?

(ゲームってなんです? 魔法は魔法だと思いますが・・・。)


むう。『長い糸玉(アリアドネリンク)』はなんか他の使い方があるって事かな。覚えておこう。


幼女様はもう答えないとばかりにアイスの大福を食べだした。

大福まつりだぜ。

あ、いいな。アイス大福。私も食べよう。

苺大福に続いてそんなレアな物まで用意されてるとは。

MODのある世界って素敵だね。


熱いお茶とアイス大福を堪能する。

おいしい。


「ここの者達は罪人なれど料理と菓子は悪くない」

幼女様もご満悦だ。

あの大男の罪が許された時は良い転生先が紹介されそうだ。



「そうだ。聞き忘れてた。『古き竜の姫君』ってなんです?

元ゲーでの記憶にないのですけど?そんなんでしたっけ」


元ゲーのラスボスが姫君。

これは主人公の前世の婚約者で対となる性別。

男なら姫君。女なら王子になる。


このわたし、オーセンエンデはもともと脇役エロNPCで勇者である主人公ではないので性別設定がラスボスに反映されてない。


例によってNPC美化MODを導入したはずだから魔王子さんは爆乳で雄羊の角生えた悪魔美女だと思う。紫髪のロング。



「会えばわかる。ふむ。ところでこの冷たい大福は美味であるな」

「追加を頼みますか?」

「いや要らぬ。だが美味の報酬を与えてやるべきであろうな」

「そうですね。それは良いと思います」


温泉、ひさびさの日本食、さらに大福祭り。

良い仕事をしてる。

チップを弾むべきだね。


幼女がどこからか筆と紙を出した。

さらさらさら、と紙になにかを書きつける。

嫌な予感。



こ、これは、ま、まさか・・・。



「我がしもべ静寂の使徒(サイレンス)。私はイスタ姫ではないがミーティアでもない。ならば立っての願いは聞いてくれるよな?」

「はい・・・」


(・・・がんばりましょう)

指令書を読んで心の中のオーセンエンデさん魂が呟いた。



『告。悪の町長を殲滅。急急如律令。

 備考。高位屍食鬼。ペット注意』



クエストが発生した。

章終わりまで書きました。

しばらく毎日更新予定です。

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