『勇者と温泉』
かぽーん
「ふぃー極楽極楽ー」
雪景色を見ながら温泉を堪能してる。
乳白色のお湯にお胸がぷかぷか浮かんでる。
このところ男装勇者なりきりでサラシ圧迫されてただけに開放感がすごい。
「ゆ、湯加減はどうですかい、イスファンさん・・・?」
「余は満足じゃ・・・」
「それは何より。温泉卵は岩陰にありますから、好きに食べてくだし。麦茶と薬味はここに置いておきます。なにかあったら呼んでくだせえ。己は膳の用意をしますだ」
「うむ」
下半身が透けた大男が去っていく。
ふふ・・・。なかなか気がつく奴だ。
生前はきっと気の優しい大男と親しまれていたに違いない。
(まんまですね)
わかりやすさって素敵やね・・・。
「あー。温泉なんて久々だ・・・。生き返るー」
(素敵な温泉ですね。ミネアとサーシャも来たら喜びそうです)
うん。・・・ところで此処、どこなんだろうね?
霊界とかじゃないよね?
(・・・)
オーセンエンデさん? オーセンエンデさん?
(おそらく、ここは。――狭間です)
狭間?
(生きてるでもなし、死んでるでもなし、の場所です)
へえ?
まあ、いいか・・・。今は温泉が気持ちいい・・・。
温泉卵食べようっと。
あ、食べたら現世に戻れないとかないよね?
昔話とかだと良くある話だ。
(冥界ではないので大丈夫です)
やったー!
「ンまーい!」
(ぜんりょくで楽しんでる・・・)
最近ミーティアの人達の人生観に影響されつつある気がする。
◇
話は少し遡る。
「「「こっちだ、イスファン」」」
数m先も見えない白い霧雪の中を連れ出された。
プロレスラーみたいな大男の背中を見ながら歩いていく。
歩くこと5分を超えたぐらいから何かおかしい事に気づいた。
馬車で囲まれたキャンプ地で歩く距離じゃない。
「どこまで行くつもりなの?」
「「「もう少しだ、心配するな」」」
「馬車の外に出てない? 私達? お偉いさんってどこで待ってるの?」
「「「なんだ、そういうことか。町長室だ、イスファン。しばらく会わないうちに酷く心配性になったな」」」
「え?」
思わず足を止めた。イスファンの知り合い?
「――あなた、誰なの? ミーティア教団の人じゃないの?」
「「「ワシを忘れたのか、イスファン。えらくなったもんだなぁ!!」」」
大男が振り向いた。
顔が半分崩れ落ちる。こいつ・・・!
「来い、『降魔斧』」 マナ消費 500
即行動、即退治。
死霊と悪魔に大変よく効く禍々しいMOD両手斧を武器召喚だ!
この圧倒的マナ消費ともなるとLv60級ボスとも真っ向から戦える程度にはお強くなる。
「「「ひ!? い、イスファン!? ワシだよ、ワシ!?」」」
「黙れ亡者! おとなしく成仏しろ!」
よく見たら腰から下がないわ、この大男。
雪に紛れてたぶらかす魔物かお化けか。
どちらにしろざっくり倒すべきだね!
そんで殺して即『長い糸玉』で帰還する!
あとちょっと怖かったし。グロはNG、NGです!
(オーセンエンデさん、そいつは私の古い友人です。死んでいたとは意外でしたが)
囁くような声。
横を見ると申し訳なさそうな真イスファンの霊がぼんやりと浮かんでる。
「あー。居たの、君」
(はい。彼らの願いを聞いて頂けませ・・・)
『三日月斧』!!
斧を地面から突き上げて三日月を描くように思いっきりぶちこむ!
オーセンエンデさんが覚えてる数少ない『戦技』の1つだ。
(ぎゃーああああああ!!!)
地味に触手MODさん効果で生産系『加護』と幾つかの『戦技』が解放されてる。魂は汚すものやね。
(うでがーうでがー!!! うぎゃああああああああ)
「「「イスファン!? イスファーン!!」」」
もう一撃を食らわせてトドメをさした。
大男がうろたえる。
イスファンが真イスファンを斧で真っ二つで何が起こったのか起こってるのか判ってないらしい。
安心させてやらなきゃね。
「心配するな、すぐお前も成仏させてやる」
(あわわ・・・)
なぜか心の中のオーセンエンデさん本体が慌てる。
はて? 死と運命を司る静寂の女神の使徒的には亡霊はあるべきところへ送るべきでは?
「「「ご、ご勘弁を!!! 温泉に! とびっきりの温泉宿にご招待しますだ!!! 町長をそこに呼んできますだ!!!」」」
大男の霊が地面に這って命乞いというか、成仏させないでくれと全力で嘆願してきた。
「そう。温泉ね。――すこし私も性急すぎたかな。話を伺うわ」
うん。先程の真イスファンさんの遺言もあるし。
めんどうな話だったら帰ろう。
(・・・)
あれ? オーセンエンデさん本体がドン引きしてる気がする。
真イスファンなら大丈夫だよ?
ミーティア神の所に死に戻りだよ。
下手に話を聞くとクエスト系の厄介事に巻き込まれるから帰ってもらっただけだよ?
イスタちゃんのお願いならともかくミーティア神のお願いなんて聞く必要はないよね、私?
(そ、そうですか)
うん。問題ないね。
雪国の温泉か。これは期待できそうだぞ。
◇
ということで温泉宿に来た。
日本的な温泉宿だ。
MODかな? ちょくちょく入れた覚えのないMODっぽいのと遭遇するが、ゲームをプレイしたのも相当昔だし仕方ないね。
怯えた町長さんがやってきて道を塞ぐ化け物を退治して欲しいと言ってきた。
断った。
町長さんは残念そうに
「「「そうですか。逗留の間はこの宿をご自由にお使いください」」」
とだけ言ってあっさり引き下がった。
うん。まあすぐ戻らなきゃだけど。
お風呂上がりの食事を頂いてからでも良いよね?
(・・・時間の流れが外界と違う可能性があります)
え? それちょっと不味い。
ざぶーん!
「良い温泉じゃな」
そ、その声は――!!
「な、謎の幼女様だ――!!!」
(きゃーきゃー!)
さすが面倒見の良い事で定評のある静寂の女神、謎の幼女様だ!
つるつるのお肌を白い湯船に潜らせている。
長い黒髪も無造作に温泉へざっぷんだ。
すいーっと泳いで寄ってきた。
なに、この可愛い幼女。素敵。
「うむ。謎の棒を握っていた男を魂に持つ娘よ。少々ミーティアの者共に感化されすぎてないか?」
「ふふ。人並みに私も周りに影響されるのですよ」
「たわけ。運命を選ぶ強さを見習って欲しいとは思ったが、狂犬になれと思った事はないぞ」
ぽか
裸の幼女に柄杓みたいな手桶で頭を叩かれた。
へへ・・・ある界隈ではご褒美ですね。
「まあよい。信徒のそなたがここに来たおかげで私もこの狭間に入れるようになった。悪くない。提案だが私の祠を建てると良い。やり方は知っているな?」
(はい、女神様)
心の中のオーセンエンデさんが答える。
洞窟に祠を作るらしい。
場所は『長い糸玉』で教えてくれるそうだ。便利だなー。
「背を流せ」
「へへー」
幼女を甲斐甲斐しく世話をする。
ぬう・・・。
謎の幼女様ってすごい黒髪美少女だよねえ。
このわたくし、オーセンエンデさんボディもすごい美少女なんだけど体の内側から輝くオーラが違うというか。
(ふう・・・)
ため息がでるぐらい美しい。そんで可愛い。
「前もながせ」
「ははー」
泡を作って手を滑らせる。
同性じゃなかったら犯罪行為だなあ、とか思う。
すべすべのお肌を手のひらで洗う。
(~~~)
心の中のオーセンエンデさん魂がもだえてる。
ロリっ子に弱いよね、オーセンエンデさん。
「そうそう。幼女様。ここの時間経過とかどうなんでしょう?」
「うむ。その事で少々問題があってな」
「ありましたか」
「あった。幾つか出口があってそれぞれで外界との時間経過が違う。『長い糸玉』で正解は導いてやる」
「さっすがー!」
「今おまえにフェードアウトされると少々都合が悪い。だが帰り道が問題なのだ」
「へえ」
「竜がいる」
「へ?」
「ミーティアが駆除を請け負った黒き古竜が呪いを持って死人の道を塞いでる。私と違ってお前はその道を帰らねば不味い事になるぞ? 『100の星の宮の鍵』はその竜の呪いが邪魔で使わせぬ。穢れを外に持ち出す事になるからだ」
げ・・・。
『100の星の宮の鍵』とは星が出てる間、各地の静寂の女神の祠に即移動が出来るアーティファクトアイテムである。
これまで何度も窮地を救ってくれた便利アイテムを頼るなですと・・・!?
「例の指輪が必要になるかもしれぬな」
例の指輪・・・。
ああー!
そ、そういえば勇者の指輪とか忘れてた!
ボス古竜を並みの竜の強さにできるシナリオアイテム!
真イスファン持ってた? ティラノが食べた?
幼女様、どうにかして!
「たわけ。婚姻の指輪は私の権能ではない」
こん・・・いん・・・?
あ、そういえばそういうメインシナリオでしたっけ・・・。
「それと、だ。――魔王子、つまりは『古き竜の姫君』もこの狭間に来てるぞ」
え?
えええええええ!!!???
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不定期更新です。
・・・これまとめてある程度書いてから定期投稿した方がええんやろうか。




