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『消えた勇者』

隣国のトランに行くには峠を幾つか越える必要がある。

30人からなる一団は幾つかの馬車に分乗して移動してる。

こんなガチ武装集団を襲う山賊はそう居ない。



「わるいときにきたな」


と馬鹿な事を言いながら襲ってきた山賊のおっさんと数度遭遇したぐらいだ。



ぎゅおおおおおおんん!!!



ミーティア教団の人達はノーブレーキで突っ込む。

一分の隙もない。


 どん!    どさ!   どすどすどす!


「相変わらず強いねえ、ミーティアさんとこ」

            「ママぁーー!!!!!」



馬車の中で断末魔を聞きながらしみじみと述べる。




「ああいう手合は馬車を停めて何かしようとするものよ! 轢き殺しが正解ね!」

「なのです」



ミネアの賢い意見にサーシャが同意。

このロリっ子どもは生粋のミーティアでしかなかった。

最近かわいく懐いてるのでたまに忘れる。



6人乗りの馬車に3人で乗ってる。

豪華な馬車で防寒もしっかりだ。

揺れも酷くない。良い感じの馬車だね。


色とりどりのラムネ玉の瓶詰めをミネアが抱えてて皆でそれをコロコロと転がし舐めてる。

寒い地方なのですぐ熱になる甘いものが必須だ。おいしい。


今着てる格好良い軍服はいつもの半裸踊り子服より寒いのが笑える。熱が必要だ。



どーん!!



「わ、爆発?」

「ご心配なく! 倒木で道が(ふさ)がれてたので魔法で爆破した音ですよ、お嬢さん方」


馬車の御者さんが謎を解いてくれた。



(・・・ぶっそうですね)

心の中のオーセンエンデさん本体が呟く。


ほんと、ぶっそうだなあ・・・。

山賊の襲撃多すぎる。

この竜退治に固められたガチ集団でこの頻度。

よほど普段大型キャラバンを襲うのに慣れてるに違いない。


街道は普通、それなりに治安維持されてるものだけど。


トランはそういう国か。

宿泊するときのエロMOD発動率が不安だな。

警護が居れば安心と思うけど、たまにこの世界はイカれた挙動をかましてくる。



ひひーん。



馬車が減速して停まる。

なにかあったのかな。



「前の車が停まりましてね。あ、これは駄目だ。霧が山から降りてくる」

窓越しに御者さんが指差して教えてくれた。


くもった窓をきゅっきゅと拭いて覗く。


「あ、すご」


とぽぽぽぽ・・・



――と効果音が聞こえてきそうな白い霧が山間(やまあい)から降りてきた。


霧じゃなくて雪なんだけど。

あっという間に視界が悪くなってきた。



「これ遭難する」





馬車を円座にして中央に火を配置。

霧が晴れるまでキャンプである。

アウトドアの旅に慣れた隊員たちが手際よく設営してくれてる。



「はー。あたたまるー」

たっぷりお砂糖が入った熱い紅茶を頂いてる。



「お嬢さん方、車の外側には行かないようにね。遭難するから」

「「「はーい」」」



御者さんに注意を促される。

馬車を外周に配置してその隙間をバリケードで塞いでる。

一種の簡易要塞だね、これ。


なんか漫画で見たなあ。中世のポーランドだっけ。

ウオーワゴン。ちょっと違うかな。

山賊やモンスターの多いこの世界では馬車を陣地構築に利用するのは一般的らしい。

生活の知恵だ。MODとかではない生の生活感が溢れてる。



テントの隙間から入ってくる白い雪を眺める。

隙間を締める。


「霧みたいな雪だねえ」

「山から降りてくるの、教会で見たお香みたいだったね!」

「そんな感じするね。ミネア、ラムネの他なんかない?」


ミネアとサーシャと一緒に中型テントの中で休んでる。

それなりに広い。

あちこちで隊員たちが似たようなテントを複数立ててる。



びょおおおおおおおお・・・・



すごい風の音。テントがばたばた言ってる。

これでも馬車で風除けしてるからだいぶマシだ。

うん。旅してる、って感じだね。今。



雪の精霊でも呼んでおこうかな。

40分の持続だけど視界が悪い間だけでも番になる。



そう申し出するとありがたい!と歓迎された。

ごつい雪の上級精霊を呼ぶ。

マナ消費は320だ。けっこう強い。


「これは凄い」

褒められた。



でっかい雪だるまのお化けが目を光らせながら現れる。

吹雪をものとしない頼もしい奴だ。

さすがマナ消費320である。

ちょっとしたモンスター程度ならあっさり撃退してくれるだろうし、強いモンスターが来ても即死はない。

元のゲームだとドラゴン退治する時のお供に使う奴だ。

たのもしい。



「いけ! 雪権左(ゆきごんざ)!」

「きゅいいいいいいいいい!!!」


適当な名前を付けて命令するとマシンボイスで応答して雪の上級精霊さんがパトロールする。


うんうん。働き者だね。


そうそうマナ。

580あるよ、今。

少し前は370だったから大幅にアップしてる。


この580という数字はレベル48分を全てマナに注ぎ込んだ場合に等しい。


オーセンエンデの場合、全属性の魔法を使う関係でマナ上昇が一番なのだ。レベル制限さえなければ世界最強の魔法使いともなれた逸材です。


勇者の軍服は上着、ズボン、ブーツ、手袋、マントの5点セットだ。これに仮面で6つ。

ツールで装備スロットの番号をいじって水増しした踊り子服より装備箇所が1箇所少ない。だが悪くない装備数だ。


装備数が多ければそれだけエンチャの恩恵に預かれる。

鎧によっては手足胴上下の全てを1装備でカバーするものもあるのだ。


フフフ・・・。このところもりもりエンチャスキルを上げてるので一箇所で60もあがってる。以前の2倍だ。

仮面以外の5x60でマナ300上昇。


仮面は水中呼吸の効果と持てる重量アップがついてて新たにエンチャを付与できない。水中呼吸はありがたいといえばありがたいけど使うシチュは想像したくない。



あとは前々から使ってる指輪とネックレスで+30x2だ。

そしておパンツさんとサラシで+60x2だ。

うん。下着にもエンチャ付けたよ。

これで合計が+480マナ。

元々が100だから580ってね。


もはやLv1じゃなくて49Lvぐらいの実力だね!


素の49レベルには他のレベル補正や、エンチャをマナ以外に色々まわせるのはおいておくとして。


「うう、寒い。中に戻ろう・・・。ただいまー」

「「おかえりなさーい!」」


ふとシンプルな銀の指輪を眺める。

最初に付けたマナ上昇30の品だ。


そういえば何か大事な事を忘れてる気がする。



「そういえばドラゴンってさ。どう退治する予定なの?」

「動かなくなるまで殴ると良いのです?」

とサーシャ。たまに脳筋発言が酷い。


「オーセンエンデさんが良い知恵を出してくれるって教会の人が言ってた」

とミネア。たまに爆弾発言が酷い。



「え”」

待って。私頼みなの!?



「トランのドラゴンって、普通のドラゴン? 大きさが小さい?」

「なんか凄いでっかいって聞いた。この間のドラゴンぐらい?」

「うん。あ、そういえばイスタから直前まで伏せてって言われたかも」

「あ、そうだった。でもなんで伏せるのかな? サーシャ判る?」

「さあ?」




イスタさん・・・。たまに酷い事する。

そんなに信用ないのかな、私。



「そっかー。この間の黒ドラゴン並かー」



うん。そっかー。

あの城壁よりさらにでかいドラゴンか。

デパートみたいな大きさのドラゴンか。

うん。そうそう。

この間と同じく魔王子配下の7匹いるシナリオボス達だね。

なんとなくそんな予感もしてたんだ。


この間はこの2人の命が掛かってたし、事前に攻撃パターンの予習も出来たのが大きかったね。


今回は何もないね。



「逃げていい?」

「やったー! こんなとこはおさらばだじぇ!」

「滅びる国は滅ぶべきなのです」



ロリっ子二名の賛同も得られた。

よし、逃げよう。

発動までの段階が長い真名魔法(セゴイ)のぶちかましと、その後30秒でトドメとか無茶が何度もやれるものか。


あと謎の幼女様からお茶会中に真名魔法(セゴイ)はできるだけ使うな、って言われたし。

魂にすごい駄目な影響があるとかどうとか。




「イスファン、来てくれ! お偉いさんが来てる! お前様に用があるそうだ」



狙いすましたタイミング・・・!

テントの外から声を掛けられた。

運命ががっちりわしづかみして逃さない意思を感じる。

殺した勇者イスファンの役目を果たせとせっつかれてる。



「「いってらっさーい」」

餞別にロリっこ達にラムネを1袋貰ったよ。

千代紙で作った可愛い包み。

ミネアが素のまま渡そうとしたらサーシャが包んでくれた。

女子力が高い。



「むう。むかしからサーシャはこういう小物作るの得意だよねえ」

「慣れてるからね」



千代紙は孤児院の子供の情操教育に使ってるらしい。


「ラムネありがとね、二人とも。じゃ行ってくる」





顔の上半分が隠れる仮面を被ってテントの外へ出る。

トランのお偉いさんが来たなら勇者イスファンに化けなければならない。



びょおおおおおおおおおおおお・・・・



うわ・・・。すごい真っ白。かろうじて中央の焚き火の炎が白く見える。


これ外周に停めてる馬車の外に出たら即遭難するね。

私なら光る糸玉の『長い糸玉(アリアドネ・リンク)』があるから迷わないけど、『遥道(to-to)』だと霧と煙が混じってかなり辛い事になりそう。



「イスファン、こっちだ」



ぬっと白い霧から腕が出た。

よくこの中を歩けるな、この人。プロレスラーみたいな大男だ。


30人の大所帯で顔合わせはしてるとはいえ名前を思い出せない。まあ良いか。

旅の中でぼちぼち覚えれば良いんだ。



白い霧雪の中を歩く。



「「「「こっちだ」」」」



言われるままについていった。

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