『勇者の呪い』
――殺した勇者、イスファンに呪われてしまった。
「きゃーきゃー! オーセンエンデさん、この服かっこいい!」
「かっこいい!」
「はは・・・」
いま、わたくし白踊り子オーセンエンデは魂の抜けた感じでなすがままにメイドさんに着付けの準備をさせられてます。
トランの竜退治メンバーにはミーティア教団のエースのロリっ子2名。デコ眼鏡のミネアと正統派美少女シスターのサーシャも無論同行だ。
2人はこれから私が着る勇者軍服のマネキンにきゃきゃしてる。
うん、まだ着ていないんだ。
「う・・・胸、苦しい」
「耐えてください、勇者様」
気の強そうな美人の赤髪のメイドさんがお胸にサラシをぐるぐるしてくる。
なぜ私は男装をせねばならぬのでしょう・・・。
なぜ私は勇者と呼ばれるのでしょう・・・。
「ちょっと無理がない? わたしが男装するの」
「ああもう! なんでこんなにお胸が大きいの!? ひょっとして静寂の女神の加護ってお胸が大きくなるの!? わたし改宗します!」
「思いとどまって」
戦女神のミーティア教団は入信すると美男美女へ日々アップグレードされていく入信特典がある。それで他宗派もそういうものがあると思われてるようだ。
(・・・どう、なんでしょう。でも言われてみればそんな気も)
これに関しては心の中のオーセンエンデさん本体も歯切れが悪い。
ミネアとサーシャはメイドさんに邪魔だからと近くのソファに座わらされて着付けを見てる。
「オーセンエンデさんは勇者なんだよねえ。なんだっけ? ふぁんふぁん?」
パンダか片目隠したお髭さんみたいな名前だね!
「イスファンよ、ミネア」とサーシャ。
「そう、それ! 呼ぶとき面倒そう」
「トランの関係者が居る時だけ気をつければ良いから、普段はいつも通りで大丈夫だよ」
とほほ。わたしゃ仮面の勇者イスファンに呪われてしまったよ。
そう、イスファンの呪い=イスタちゃんのお願いである。
――トランだけではなく全方位の国に対して外交的にすごい不味いから勇者さんの身代わりをお願いね、オーセンエンデさん! トランの竜退治で勇者イスファンはか弱いサーシャ様を庇って戦死するというのが教団のプランナーが立てたシナリオです。うん。問題ないね!
問題おおありです。
「ふう。お胸の固定はこれぐらいで良いでしょう。では服を着ましょうね?」
「男装、無理じゃないかなあ・・・」
サラシをぐるぐるしてもなおある存在感。
「大丈夫ですよ。袖を通してください」
「はい」
言われたまま着てみると・・・。
「「オーセンエンデさん、かっこいい!」」
「きゃーきゃー!」
「わあ・・・」
胸が縮んだ。
あ、これMOD装備かな。体型付きMOD装備。
主張しまくりだったお胸が消えて少年ボディ化してる。
「はー。これサラシ要らなくないですか?」
「そう思います? ちょっとサラシ解きますね」
「うん。ほら問題ない」
「ジャンプしてください。ぴょんぴょんって」
「はい。ぴょんぴょん。・・・え”?」
「「わーすごい!」」「ほう」
お胸がすごい暴れてる。
元の大きさで揺れまくりだ。
いやいつもより相当激しい!
「わわわ・・・!!!???」
「サラシ必要だと思いませんか?」
「・・・はい」
うん。MOD装備ってね。
体型が不一致だと物理演算が大暴れしやすいんだ。
よくゲーム内でもうっかり1箇所だけ体型の調整を忘れて乳はおろか尻も大暴れ。
うん。お胸だけじゃなくてお尻も揺れるんだよ。
痙攣どころか画面中を伸びた乳尻が永久に暴れ続けるんだ。
装備体型をぜんぶ統一すれば大丈夫のはずだけど、今回はそうはいかないみたい。
軍服一式着込んでもお胸が暴れております。
ゲームと現実のすり合わせがこんな感じになるとは・・・。
元の大きさに戻るだけなのは助かったけど。
手で必死に押さえつけて鎮める。
「ふう。サラシきついけどしょうがないか」
「ではもう一度サラシを巻きますね」
「あまり揺れない程度で良いみたいだから、もうすこし緩くお願いします」
「チッ!」
「殺気!?」
無駄にお胸の大きさでヘイトを稼いでた。
メイドさんがやれやれとサラシを巻いてくれる。
さっきよりは苦しくない。
「似合ってますよ、勇者さま」
「うん。あーこれズボン履いた軍服ワンピースって感じだね。あとは仮面をつけてっと」
「・・・ほぅ」
メイドさんがなんか珍妙な声。
「「おおー」」
喜ぶロリっ子x2。
偽勇者イスファンが出来上がった。
小柄な少年と見えなくもない。
鏡をまじまじと見る。悪くない。
うん。オーセンエンデさん(本体)どうですか?
(良い感じです)
「あの・・・。ちょっと美しすぎます。これで背丈がもっとあったらやばかった・・・」
メイドさんが震えてた。
美少女が男装すれば美少年だねえ。
顔半分が隠れてるけど整った輪郭と艷やかな口元だけで妙な色気が。
「あとは、あ! そうだ、アレもあるのでした。
・・・ミネア様、サーシャ様。ちょっとお部屋の外へお願いしますね。下着の着付けですので」
「「はーい」」
うん。アレってなんだろう。
メイドさんが顔を赤らめながら箱を持ってきた。
箱を開ける。
「あの・・・。この魔法の品なんですけど、どうします?」
(・・・)
そこにあったのは、アレだった。
『蓋なり』
うん。モザイクをおかけしたい、アレだ。
うん。エロMODの品だよ、コレ。女性のまま股間だけスーパー男の子になれちゃう品だよ、コレ。
エロMOD品なので機能も全て万全だよ、コレ。
「ひ、必要になりますか?」
「さ、さあ!?」
おのれ、イスファン! おのれイスファンだよ!
これが勇者の呪いか! プレイヤーは皆クズだよ!
装備はせずに魔法の無限倉庫に放り込んだ。
(・・・生えるのです?)
生えます。
◇
イスタ姫王閣下がやってきた。
メイドさんが一礼をして引き下がる。
「やー。見違えたね! うん、勇者イスファン。ミーティア教団の勇者! ささ、オーセンエンデさん。これを機に改宗するのも手ですよ?」
「断る」
「ですよねー。うん。しかし良い感じに美少年って感じだね」
「元の勇者イスファンで通すのって無理がないですか?」
背格好はともかく顔は半分しか隠れてない。
元の仮面の勇者イスファンはたしかそこまでカッコよくなかったような。
胡散臭い仮面の小男って思ったぐらいだし。
「大丈夫。我がミーティア教団に入信すると日々、美少女美男にアップグレード! そしてイスファンは我がミーティア神の特別な恩寵により一気にこうなりました! ・・・って事で通します」
「なんでもアリすぎるわ」
「やー。信心するもんだね。良い宣伝になるよ」
「声とか誤魔化しどうするの?」
「がんばって!」
「・・・」
「どうしようもない時はイスファンの霊呼んで声借りてね!ちなみに彼は今、ミーティア神の元に召されてます。いつでも出張OKですよ?」
「わたしがイスファンになるのって必要だったかな!?」
「はは。――さすがにミーティアの加護受けた勇者がミーティアの国で殺されるとね、色々とね。だから頑張ってね、オーセンエンデさん?」
「・・・はい」
イスタちゃんが怖い。
「うーん。竜退治でイスファンの出番が終わりかー。ちょっと勿体ないね」
イスタちゃんが腕を絡ませてきた。
そして鏡を見る。
美少女イスタちゃんと腕を組む軍服の美少年イスファンだ。絵になる。
「これなら縁談が来ても誤魔化しに利用できそうだし」
「そういう判断!?」
「はは・・・。やー。姫王ってなると恋愛結婚とか無理だしねえ。どっかの王族と外交と内政上で良い感じのとくっつけられるんだよ、そのうち。オーセンエンデさんが男の方だったら良かったのにね」
一瞬MODアイテム『蓋なり』の存在が頭によぎったがすぐに追い出した。
「どうしようもない相手だったら言ってください、殺してあげます」
「いいね、それ! やー、そうだね。それ良いなあ」
どんどんどん!
「もう入っていい?」「まだー?」
ロリっこ2人がドアを叩いてせかしてきた。
「うん、独り占めはよくないね。いいよ、ふたりとも。トランに行くと皆としばらく会えないしね」
◇
準備は整った。
30人からなる竜退治の一団がトランへ赴く。




